6:新しいクラス
そこから、教務部?の先生の司会で始業式が進んでいった。話はやっぱりどこに行っても当たり前のことだから全部カットするね。
そして、2年生がどこかに行き、体育館には3年生が残る状態になった。
そして、学年主任なのだろうか。春先なのにも関わらず、タンクトップに短パン姿。見た目は還暦。パワフルなちょっとお腹の大きいおじいちゃん先生が話し始めた。
「えー、また春休みが明けて200名が元気にそろいました。そして、3年の担任団も変わらず5人とも残ってます。またこの5人プラス進路指導の先生たちと一緒に笑って来年の春を迎えれるように頑張りますんで、君たちも頑張ってください。 そして、今日から君たちと一緒に過ごしていく仲間を紹介します。中川美桜さんです。こっちに来てちょーだい!」
座りながらぼけーっと見てたところで急に名前を呼ばれてびっくりした。
すり足で少し急いで前に出た。
前にも一回言ったことがあるかもしれないけど、こういうのはものすごく苦手。急ぎ目に行ってるけど、正直に言って逃げ出したい。
「それじゃあ、中川さんからひと言もらおうかな」
少しの間、必死に考えていたけど、頭がパニックを起こして、何を話すかほぼほぼ抜けていってしまった。……思い出せないし、この際、どうにでもなれ。たぶん、なるようになるはず。
「えっと、中川美桜です。家の事情で関東から引っ越してきました。短い間ですけど、よろしくお願いします」
なんだか、緊張というよりも、面倒さが前に出た感じ。この先しんどいぞと思ったのは喋り終わってから。まぁ、なにも気にしてないし、友だちを作ろうという気はさらさらない。自然にできたらいいかなって感じ。
軽く首を折ってお辞儀。
なんだか、気分が進まないなぁ。とか思いつつ、歓迎されてるのかされてないのかわからない拍手と指笛を受け流した。
少し舌打ちとかしそうになったけど、こんなの真に受けてたらミアシスの活動がままならなくなっちゃいそうだから、ここは我慢。
「なら、中川さんは明川先生のクラスやからB組やな。仲ようしたってや。ならありがとうな。ほんなら、E組から順番に教室に戻って、ホームルームするから10時半に教室に先生たち行くからそれまでにトイレとか済ませとくこと。わかった人?」
解散!と先生が言って、生徒がばらばらと動き出した。
とりあえず、私は応接室だっけ?そこに戻って荷物を取りに行かないと。
「あっ、中川さん、また呼びに行くから応接室で待っとってな」
また何もない部屋で待ってないといけないのか。学校だから当たり前なんだけど、やることが無さ過ぎる。まぁ、練習中や振り合わせで気づいたことを書き出したノートを見てもう一回振り返ってみようかな。忘れてるかもしれないし。
今まで気になったことはすぐに書き溜めていた。いつもそれを夜やレッスン前に見返して気を付けて練習していた。
そういえば、翔稀に書いてもらったこともあったな。たぶん、“一つひとつの動きをしっかり止める”だったと思うんだけど……。あとで見返そうっと。
応接室に戻った私。とたんになんだか気が楽になった気がした。たぶん、初めてのことをやり切った気になっているんだろうな。と感じながら、カバンをごそごそと漁ってミアシスのノートを取り出した。
しばらくページをめくりながら今まであったことを回想する。
最初はほんとに真似してるだけだったからなぁ。曲についていくので精いっぱいだったのに、今は課題は残しながらも歌いながら振り付けをこなせるようにまでなった。
優しいダンサー陣と振り付け師の山添さんのおかげかな。
やっぱり、いろいろなことが書いてある。翔稀に言われたことも。たった1か月しか活動してないのにノートが終わりかけてる。
なんだか、この1ヶ月、ものすごく早かったな。たぶん、これからが本チャンなんだろうけど。
そして、ノートが白紙になって、裏表紙を見た。水性のボールペンで書いたからかな。滲みかけた私の字。
『がむしゃらにやるだけやって見せろ!』
なんとか読めるくらい。それほど、汗がにじんだのかもしれないね。
少しだけしかないミアシスの思い出を回想してると、急にドアがノックされ、見ていた手のひらサイズのノートを上着のポケットにしまう。
「中川さん、いてる?そろそろ行くよ」
「あっ、はい。すぐ行きます」
声は明川先生だった。先生の後を歩いて教室まで行く。
「はーい、座りよ~。あんたらだけやで、ワーキャー騒いでんの。ほかのクラスはホームルーム始まってるんやで。いつまでもそんなんやったら帰る時間も遅くなんで」
その声でゆっくりながらも動いて自分の席?に戻っていく。
「はーい、ほんなら、さっきの学年集会でも言うたけど、転入生の中川さんね。ほんなら、ひと言もらえる?」
そういわれてまたドキッとする。だから、こういうのは苦手なんだって。まぁ、適当にやって早く終わらせよう。
「中川美桜です。よろしくお願いします」
それだけ言ってペコリ。
「それだけかいな。ほんまに一言やったし。まぁ、ええわ。中川さんの席、一番後ろに1個だけ開いてるけど、そこな」
言われた場所は真ん中よりも一つずれたところ。まぁ、座る場所なんてどこでもいいんだけどね。
とりあえず、あとでロッカーからバックを取り出さないと。先生に「とりあえずそこに入れておけば?」って言われたから。
席に座るとかなりの数のプリントが配られた。
年間行事予定だとか、学年通信だとか。とにかくたくさんのプリントが配られた。
そこから少し担任がしゃべって、クラスはお開き。騒がしくなってきたなと思ったのは、他のクラスが終わったみたいだからだった。