72:決定事項
田村さんから話があってから数日後。また振り合わせ前に集められた私たち。ただ、今回はスタジオではなく、事務所の会議室。
普段なら事情を聞かされているはずの私も、今回に限っては、まだ何も知らされていない。もしかすると、この前のオファーの話だろう。
「悪いな、また時間もらって。ほんで、今日集まってもらったのは、この前のオファーの件やねんけど、オリエンタルライムとして、正式に受けることにした。そのかわり、東京で露出を増やすっていう件はもう少し見送ることにするわ。確かに、沙良と亜稀鑼の言う通りで、亜稀鑼と由佳の成績が若干ながら落ちてきてるんよな。やから、このオファーは受けるにしても、これ以上成績が落ちてくるとすると、活動の頻度も考えなあかんところになるってところわや。ほんで、翔稀に関しても、今のところは気にならへんけど、同じように落ちてくるようなら、少し考えるから」
「うっす」
「ほんで、美桜と沙良には、ちょっと仕事を頼みたいんや」
私だけじゃなくて沙良にも?と不思議に思って、無意識に田村さんに不思議そうな顔を見せていた。
「今回は、美桜と沙良に作詞を頼もうと思ってな」
えっ?と声を上げるのは私と沙良。無理もないと思ってる。今までやったことのない大仕事を任されていようとしているなかで、頭がフリーズを起こしかけているから。
「ここ何日間、連日で協会の担当者さんと話をしている中で『できれば、経験者に詞を書いてほしい』って話が出たんよな。で、わりぃ。向こうの熱意に押し負けてやることになって……。やけど、ええ経験にならへんやろうか?」
どうやら、向こう側も私に負けない熱意はあるらしい。でも、それに応えられるかどうか。
「確かに、美桜も沙良も経験者やし、俺らとか、いつも詞を書いてもらってる藤田さんよりはスイマーの気持ちはわかるやん。やってみてもええんちゃう?」
という翔稀の煽り。こうなってしまえば、やらざるを得ない状況になっちゃうじゃない。
「美桜、この空気、やらなあかんな」
すでに沙良は観念して、同意の空気を出している。こうなれば、私も同意するしかない。
「わかりました。そうしましょう。こうなれば、断れませんね。そのかわり曲って……」
「いつもの原さんにお願いしようかなとは思ってる」
私は、「わかりました」とだけ言って、頭の中でいろいろと考え始める。
ムーンライトスターのこと、ミアシスのこと。そして、今回のこのオファーのこと。何もかもを抱え込んでいるから、ちょっと爆発しそうではある。
こりゃ、ひとつひとつ整理していかないと、ごちゃまぜになって暴発するかも。そうなる前に整理していかなきゃ。
「そしたら、またスケジュールが決まったら言うし、頼むな。今日は、このまま次のワンマンの打ち合わせやったかな」
「そうっすね。また決まれば田村さんにはもちろん報告はします」
「はいよ。了解。ほんなら頼むな」
それだけ言うと、田村さんは会議室を出ていく。そして、残された私たち。ここからは、再来週に企画しているワンマンライブの打ち合わせ。これは、いつもメンバーだけでやって、田村さんに報告。そして、決まりきったところで、「こういう形にしたいから、音源の準備をお願いします」というような感じ。あとは、自分たちで飾り付けとか装飾をして、本番を迎える。って感じになるのかな。いつもの単独ワンマンは。
ほかにも、コラボライブと称して、ほかのアイドルさんたちを招いて主催ライブもする。こういうときは、打ち合わせにメンバーは入らず、私と田村さん、そして、相手方の担当者の人と打ち合わせをして、飾り付けはメンバーが。それで本番を迎える。
今回は、コラボも何もないほうのライブだから、メンバーたちだけで1時間半のセットリストをくんで、どんな演出にしていくのかを詰めていく。とはいうものの、ダンサーがすでにある程度の形にしていて、あとは、ボーカルのスタミナが持つかどうか。あと、私たちボーカル陣がやりたい曲を挟みこんで、スタミナが持つかどうか通してから決定になる。これがいつものやりかた。
「ほんで、昨日の続きやけど、出してるなかやと、あれやったかな?オープニングは変わらへんけど、ラストに持ってきてた〈フラトゥ〉をセカンドに持ってくるんやったかな」
「せやね。ほんで、スタミナの消費が激しすぎるから、MCを入れるって話やったやん」
「あぁ、せやったな。そこまで書いてへんかったわ。すまん。ほんで、MCを挟んだ後が、〈アオスジアゲハ〉、亜稀鑼の〈ディスラブ〉のときに美桜と由佳が〈アオスジアゲハ〉から舞踏会ドレスに変わるんよな」
「せやね。ほんで、沙良お姉ちゃんを抜いて2人で〈アイヒアユー〉やってるときに、3人も舞踏会衣装に着替えて、もっかいMCを挟んだ後、〈舞踏会〉、「ユウワク」、〈トリナナ〉って続くって由佳のセトリには書いてる」
もう、毎回こんな感じよね。ほんと。そして、おおまかに決まると……。
「よし、一回だけフルで通してみるか。もちろん、ミスってもかまへんし、止まらんと行こうや」
そういって、翔稀がスタジオに向かって歩き出す。
そして、スタジオに着くと、それぞれが15分のアップのあと、さっき決めたセットリストをイチから進める。だいたいパフォーマンス時間は50分くらい。ずっと踊りっぱなし、歌いっぱなしで、休憩をはさむころにはみんな滝のような汗をかいて、みんな座り込む。
最初から最後まで全力投球で練習のときもやり切るから仕方ない。それがミアシスのやり方なんだし。
「はぁはぁ。曲の流れはこんなもんか?雰囲気もおかしならへんかったし、俺はかまへんと思ってるけど」
「由佳もこんなもんかなとは思うかな。意外と今回もいい感じやと思う」
二人の言葉に、私も激しく同意。組み換えなしのセットリストは久しぶりかなって思う。
「ほんなら、これで行こうや。あとは、細かいところを合わせていくだけやな。もうちょっとだけ合わせるか。ほんで今日は終わろうや」
ちょっと合わせる。か。なんか、いつも通りで、時間ギリギリまでやりそうな予感。まぁ、いつものことだし、スタミナはまだ十分に残ってるし、ぎりぎりまでやるか。
「ほんなら、20分休憩して、一個ずつ確認して行こうや」
ダンスリーダーの翔稀が休憩を宣言して、休憩に入る。




