71:会議
そして、時間は夕方5時。ミアシスのメンバー全員がそろい、田村さんもミアシスが普段使うスタジオに合流。お昼に届いたメールをメンバー全員に配った後、口を開いた。
「えっと、お疲れさん。ライブ前で忙しいときにすまんな。今日は、ちょっと活動計画について話があってな。今も渡した通りで、日本水泳協会さんから来年度に使用する公式ソングのオファーが届いた。まぁ、理由は沙良と美桜が競泳をしていたこと。あとは美桜の強烈な水泳愛が縁を結んだって感じかな。これによって、おそらくやけど、来年はものすごく忙しくなると思う。それはもちろん、覚悟のうえで、乱れっぱなしの5ヵ年計画もこのオファーで終わりにしようと思ってるくらいやし。それでやねんけど、もちろん、東京に行ったり大阪に帰ってきたりっていうのがめっちゃ増えると思うねん。その分、考えられへんくらい忙しくなるけどかまへんか?」
「それって由佳たちの活動が定期的に保証されるってことでいいんですか?それなら、由佳は大賛成です」
沈黙する時間は与えずといわんばかりに口を開いた由佳。その顔は、決意の表れというよりも、とりあえずやってみたいといわんばかりだった。
「……俺も賛成っすね。もちろん、今までよりきつくなるかも知んないっすけど、固定客を飽きさせるより、新規開拓のほうが断然おもろいっしょ。それに、このオファーやと、由佳も言うた通りで、定期的に活動できるし、定期的に東京にも行けるし。開拓は十分にできると思いますけど」
翔稀も賛成派か。まぁ、そういうと思っていたけど。
で、まだ悩んでいるような顔をしているのは沙良と亜稀鑼。
「沙良、亜稀鑼。なんか不安か?」
「あ、あぁ。オファー理由が沙良姉と美桜姉にあるのはわかったんやけど、いままでほとんど大阪でばっかり活動しとったのに、いきなり東京でのライブの割合増やしてええんかって」
「まぁ亜稀鑼が心配する理由もわからなくはないけど、いきなり増やしたりしたりっていうのはさすがにせぇへんわ。まぁ、なってみなわからんけど、そこはスケジュールをうまく調整するから、心配せんでええわ。俺の考えることがとんでもないくらい増えるけどな」
亜稀鑼の不安は田村さんによって笑い飛ばされる。まぁ、田村さんがこれだけ笑い飛ばすっていうことは、心配ないっていう証拠かな。
「それなら俺も田村さんがそういうならそれで」
まだ何か腑に落ちない感じの亜稀鑼。なにをそんなに嫌がっているんだろう。
「亜稀鑼。なにがそんなに不安?思ってることを話してよ。ちゃんと聞いてあげるし、不安なところはちゃんと調整するからさ」
「い、いや。そこまでとはちゃうんやけどさ、何ていうんやろう。ステップアップしすぎて、スケールの大きさについて行かれへんっていうか、何ていうんやろう。なんか、話に現実味がないっていうか……」
「うちもそうやわ。話がでかすぎついて行かれへんのが本音やわ。あと、そんなにポンポンとみんなオッケーやろうやって話になってるけど、由佳も亜稀鑼もまだ学生やし、勉強のほうが気になるっていうか、2人とも、3人がおらんときに「勉強教えて」って言うてくるし、露出を増やして勉強がおろそかになったら事務所の進め方に反してくるしってところがあるから、少し慎重になったほうがええんかなって思ったり」
「すんません、田村さん。沙良姉の言う通りで、俺、今の学校の授業についていくのが精いっぱいってところにそんな話なんで、ちょっと不安かなって」
と、ここで2人の話を聞いた田村さんがすこし難しい顔をした。悩みどころって感じなのかも。
「……オッケー。わかった。俺のほうでも少し考えるわ。また決まったら言うし、それまでいつも通りしといてや。時間もらってすまんかったな」
それだけ言うと、田村さんはスタジオを後にした。その背中は少し悩みが増えたといわんばかりに少し丸くなっていた。
「……こりゃ、振り合わせはやめというたほうがええな。みんなモヤモヤしてるやろうし、怪我しそうやな」
田村さんが出た後、翔稀が私たちの顔を見ていった。確かに、年下3人の顔は少し揺れているように見えた。
「確かに、翔稀の言う通りかも。今日はちょっとやめておいて、宿チェキとか通チェキとか作ってもいいんじゃない?たぶん、ここからライブ続きで宿チェキも増える一方になりそうだし、今のうちにできることを減らしたほうがいいと思うけど」
「せやな。俺もめっちゃたまってるんよなぁ。ほんま、はよせな、待ってもらってる人もおるくらいやし」
「実は、私もなんだよね。コツコツやってきたつもりだけど、意外に多くてさ。私たちでこれなら、由佳たちも相当あるんじゃない?亜稀鑼も最近は株も上がってきてるしさ」
「まぁそれなりには。ただ、美桜姉たちに比べると全然少ないわ。俺の場合、その場で撮るチェキのほうが多いし」
確かに、亜稀鑼はそうかも。ライブ終わりの受付伝票を見ても宿チェキとかの前受注文は少ないかなと感じる。
「ほんま、亜稀鑼の人気は音響トラブルのときだけやもんな。普通にライブしてる時も、増えてきたって感じはするけど、由佳と比べたらまだまだやろ」
「それは最初からやん。ましいてや、翔稀兄さんや由佳みたいに外見で外に出られへんねんから」
「そのぶん、音響トラブルに強いからええやん。てか、ほんま、俺らって、音響トラブルに巻き込まれること多いよな。そのたびに、亜稀鑼と美桜のギターが出てくるよな」
「それしかできないから仕方ないじゃん。でも、ダンサーはダンサーでつたないメロディーでも完璧に踊ってくれるんだから、そっちのほうがありがたいよ」
「それでも、美桜おねえちゃんたちのメロディーがないと踊りにくいから、こうなってくると、持ちつ持たれつってことやんな?」
「ってことでええやん。みんななんか強みはあるんやから。よっしゃ、時間まで宿チェキとか通チェキとかやるか」
そういうと、翔稀はスタジオを出て、事務室のほうに向かっていく。その後ろを由佳が、もちろん、私たちもついていき、事務室で思い思いのチェキをそれぞれ仕上げていた。




