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5:新学期

 時間はあっという間に過ぎていった。毎日毎日メンバーとレッスンばかり受けていて、メンバーの性格はだいたいわかった。

 そして、頑張って、かなりのハイペースでレコーディング、ミュージックビデオの撮影を済ませていった。

 レコーディングなんか、出逢って2週間後に2日間で、ミュージックビデオの撮影はその翌週に3日で済ませた。

 そんな私には春休みという春休みは訪れず、今日から新しい学校に。


 そして、今日はミアシスにとって華やかな日。初めてのシングル。これでミアシスはデビューすることになる。

 あっと、ミアシスとは私たち5人のグループ名ね。メンバーの名前をローマ字にして頭文字を1つずつ取り、私は気づかなかったんだけど、リーダーってことでもう一文字足されて『MiASYS』になった。シンプルだけど、5人で夢を作り上げてほしいという意味がある。


 そのミアシスが夕方からデビューシングルのリリースイベント。朝方は学校に行って、お昼からはミアシスのメンバーで振り合わせ。そこから移動して会場で初ライブ。

 なんだか、朝からいっぱい予定が詰まってる気がする。それに、始業式が終わったら簿記系のクラス分けの小テストがあるみたい。

 それを今日の朝に実質的な保護者である田村さんから知らされた。それはどうかと思うよね。


 不安な気持ちとルンルンな気持ちが絡み合って、複雑な気持ちで駅までの道を自転車で走っていく。

 レッスンに行く時とは少し違う道を通る。少し新鮮。まぁ、何回か通ったことのある道。迷うことはない。


 大阪に来て1ヶ月。いつも使う電車の行き先とかはばっちり覚えた。あとはどれくらいの人がいるのか。それによって変わってくるんだろうな。いつもお昼とかそのあたりに電車に乗っていたから。

 まだ来て1ヶ月だから行ってみたいところなんていくらでもある。梅田も行ってみたいし、ミナミだって行ってみたい。ただ、それは余裕が出てきてからの話。今はレッスンで精いっぱい。

 駅に着くと乗り換えの駅でもあって少し混雑している。そして、いつものシルバーのボディの電車が見えて飛び乗る。

 東京にはかなわないけど、少しぎゅうぎゅう……。関東にいたけど、満員電車って嫌いなんだよね。身動き取れないし、圧迫感を余計に感じるし。

 明日からは少し時間をずらしてどの電車がすいてるか観察しよ。

 10分ほど乗りっぱなしで駅に着いて、改札を抜けた。そこからまた少し歩いて学校に向かう。


 田村さんと一緒に制服を買いに行ってからつるしっぱなしで一度しか袖を通してない制服。

 まっさらだけど、高3の私に似合っているのかどうかわからない。そんな中を少し不機嫌な顔で歩いていく。

 最初は第一印象が大切っていうのはわかっているんだけど、どうも気分が乗らない。朝はいつもこうだから仕方がないと思っている。


 ポケットに手を突っ込み、口にはガム、耳には愛用のヘッドフォンという、まさにやる気を感じさせないというスタイルで同じ制服を着た生徒を次々に抜いていく。これで転校生って言われたらどうなんだろう。誰もそうは思わないよね。


 朝はいつもぐれた少女の気持ちになる。面倒だし、しんどいし、気持ちが付いてこない。


 10分ほど歩いて久しぶりに来た学校に着いた。

 正門の前で無駄に大きな声で挨拶してる先生や生徒の前を思い切り無視して地図で覚えた職員室までそのまま向かった。

 そして、職員室の前で服装を直してドアをノックした。


「失礼します。今日転校してきた中川美桜といいます。担任になる明川先生っていらっしゃいますか?」


 のどが引っかかって自分でもびっくりするようなくらい高い声が少し周りに響いた。

 はいはーい。と似たような声が届いて若く見える先生がこっちに来た。


「あなたが中川さんね。写真と実際じゃかなり異なるわね。声ももっとハスキーなのかなって思っていたけど」


 そう言われて少し縮こまる。

 だって、朝から声なんて出してなかったし、何も飲んでないし、通学路を不機嫌な顔で歩いてたし。声がのどに引っかかるのは当たり前だと思った。けど、少し恥ずかしかった。


「よし。今日は始業式やから、それまでは応接室で待機しててもらえる?また時間になったら呼ぶから。で、式が終わり次第教室ね。クラスはB組だから。少し癖の強い生徒がそろってるけど、驚かないでね」


 癖の強いクラスか。そういうのはあんまり好きじゃないんだけどなぁ。学校では静かにしてたかった。ミアシスの活動を知られて騒がれるのも嫌だし。

 そんな思いを持ったまま明川先生の後をついていってる。そして、真っ白な部屋の真ん中にテーブルとソファーが。

 それじゃあ、あとでまた来るから。それだけ言うと先生は職員室に戻った。それを見届けてから、少し雑にバックを置いてソファーにもたれかかる。

 なんだか、学校に来るだけなのに疲れちゃった。でも、最後の高校生活が楽しみでしょうがない。ただ、癖の強いクラスに入ることになるのは残念以外何物でもないけど。


 ……やることが何もない。小テストの勉強をしようにも、朝言われて準備ができるはずがない。何も持ってきてないし。


『今日から学生さんは新学期?美桜は新学期です。今年1年皆さんが楽しめますよーに』


 特に意味のないツイート。ただただ暇つぶしにしただけ。

 特にやることないし、今日からのリリースイベントに備えて振り付けの確認でもしようかな。時間ももったいないし。

 ダンサーの振り付けがある程度固まったところで撮ってもらった振り付けの動画を見ながら振り付けの確認。深いところまでは見ないけど、今まで勘違いしたところがないか確認。

 表題曲とカップリングの両方を繰り返して確認している。気になるところは結構つぶしたけど、あと1箇所だけ。表題曲の間奏からラストサビに入るところ。ここがどうしても苦手で、サビに入るまで振り合わせで何度外したことか。

 今は足でタイミングを取りながらなんとかは入れてる状態。

 本番で振り付けに必死になりすぎてタイミングを外すことはさすがに恥ずかしい。無いように気をつけないと。


 とりあえず、ラストサビの入りのタイミングは重点的に。

 ヘッドフォンを片耳だけにつけて左のつま先を上げたり下げたりしながらタイミングを計り息を吸い込んだ。

 やっぱりタイミングを計るんだったら問題なくは入れるけど、計らなかったら外すのかな?少しだけ動ける範囲でやってみようか。

 ……やっぱり、振り付けに意識が行き過ぎてうまくタイミングが取れない。

 やっぱりダンス初心者はダメだなぁ。こういうのもろくにできないなんて。ほんと今日の本番が心配になる。やっぱり、練習でやってたら本番でも失敗はしないだろうし、いつものようにしようか。

 そこからしばらく繰り返し振り付けの動画を観てた。


 だけど、視界の端にちらちらと何かが映り始めたところで集中力が切れた。

 うっとうしいと思って、顔を上げると多数の影が一方向に向かって大移動していた。視界の隅に移れば集中力も切れるはずだ。

 少し大きな伸びをして上を見上げた。

 そのとき、ドアがノックされ開いた。


「じゃっ、そろそろいきましょうか」


 そう言われて、外に出た。

 体育館につながる階段を昇って、少し重そうな扉を明川先生が開けてそろっと中に入る。別に何かが始まってるわけじゃないんだけど、つられて私もそろっと入る。


「それじゃあ、始業式の間は後ろにいて、学年集会の時に中川さんの紹介するから自己紹介考えといてな」


 それだけ言って先生は前のほうにってしまった。

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