67:ダンスフロア
すでに衣装に着替えて簡単に決めた集合場所に来ていた男性陣。
普段着や振り合わせのときにきている服装とは違って、いつもより格好良く見えるし、すらりとした身長も寄り高く見える。まぁ、私が並んでしまえば、あんまり変わらなかったりするんだけど。
「今日は皆さんお美しい。やはり、いつもは見られないお姿を見られるのは大変、うれしゅうございます」
ミュージカル調のお世辞を挟んでくる竹田さん。橋爪さんや私の固い顔を和まそうと必死なのが伝わる。
「ユウタさん、お世辞はいらないんで、役に入り込んでくれますか?今のままだと、振り付けがあいそうにないです」
「お堅いナオミさんだ。まだ緊張していらっしゃるご様子で」
今まで聴いたことも言ったこともない名前が出てきたけど、サンシャインはあくまでも偽名で活動する。じゃないと、本業に影響が出るからね。年齢の順に、竹田広宣=羽田雄太、市原一樹=武村修、矢島萌奈=益田由香里、私、中川美桜=香川奈緒美のようになる。基本的には、カタカナで呼び合うから、カタカナで名前が出てきたらサンシャインのステージ上って思ってくれたらいい。
ユウタさんの言葉使いに相当イラッとする私。もっと普通にいつもどおりで接してほしい。じゃないと、普段どおりにステージに上がれない。
「竹田さん!邪魔しないでください!その言い方もむかつきます!これで怪我をさせても文句は言わないでくださいよ!」
火山が前触れもなく噴火するかのように、本番15分前で突然切れた私。前触れもなかった分、周りは『何があった?』といわんばかりの目で驚いている。
「あっ、ごめん。こうしたほうが和むかなぁって思って」
「性格もわかってないのに、知ったかぶるのはやめてください。普段どおりじゃないと私は集中できないんで。ほかの人はそれで緊張が解けるかもしれませんが」
ミアシスでも普段はそう見せず、ムーンライトスターでは一切見せたことがない私の一面。思い切り出てしまった気がする。
でも、こうしないと集中ができない。竹田さんの心遣いは本当にありがたいんだけど。
一発ドスンといったあとは、何事もないような顔で静かに集中していく。
『お待たせいたしました。続いてのアーティストは35年の時を経て表舞台によみがえります。今では当たり前になりましたが、当時の日本では真新しかったディスコ。ディスコミュージックの先駆けといっても過言ではないあのグループが戻ってきました!The next Artist is……Moon light Star!Hear we go!』
30秒ほどしかなかったMCの中には期待がこめられているのだろうか。なんだかそんな気がした。
ライブはいきなり曲から入るんじゃなくて、少しだけ私と竹田さんでナレーションを挟んでから曲に移る。
お手並み拝見といわばかりに私からナレーションが始まる。
「今から39年前の7月。ひとつの時代の先駆けとなるグループがここに誕生。ダンスディスコで一世を風靡。活動する場はトップアイドルが集結する時代に奪われていき、19××年、表舞台から姿を消しました」
ここまでは私が担当。あとは竹田さんの仕事だ。
「20××年8月。表舞台によみがえることを決心した橋爪薫を筆頭に、ムーンライトスターの林美沙子と2人で、羽田雄太、武村修、益田由香里、香川奈緒美をサポートメンバーのサンシャインとして招集し、今ここによみがえります。懐かしいムーンライトスターと新しいサンシャインの融合ステージ。光臨し、この場所に名を残す!」
竹田さんのセリフが終わると、アップビートの曲が流れ出し、私のテンションも高くなる。ただ、最初にボルテージが満タンに達したのが客席。
もちろんいいことなんだけど、私の調子が狂う。
いつも以上の盛り上がりが身体に響いてきて、驚いているところがあるからなのかもしれない。普段はここまで行かないし、ワッと沸いて、歌いだしのころにはおとなしく聞いているような感じしかミアシスで感じたことがないから。だから、いつもと違うステージの雰囲気に戸惑っている私がいる。
でも、ここでやらないと私が負ける。観客を楽しませるのが私の役目なんだから。
気持ちを割り切ると、すでにイントロが流れ出しているステージに飛び出し、振り付けどおりのパフォーマンスを進める。
私のスケジュールの関係でリハーサルなしのぶっつけ本番。その中でパフォーマンスをするのは初めて。ただ、うまくいっていると感じている自分がいて怖かったりする。
さすがに広いステージで音ズレするからといって萌奈ちゃん借りているイヤモニターが唯一の救いかも。
さっきのナレーションで私が出した声が遅く遠くに広がっていくように感じたから。
たぶん、ミアシスみたいに交わりあう振り付けがないからこそできることなんだと思う。
初っ端の〈ダンスフロア〉は自分でもびっくりするくらいあっという間だった。
ここまでわずか5分。1曲やったことで緊張はある程度とけた。ここから私の持ち味である『豪快さ』が存分に発揮できたらと思っている。




