66:火山噴火
15分くらいして林さんを始め、市原さんと竹田さんが似たタイミングで到着。
ここから男女別に分かれて衣装に着替える。
着替えるのはいいんだけど、私の衣装がね……。今まで着たことがないくらいに肌の露出がすごいんだよね。
ミアシスだったら、ひざ下が隠れるロングスカートやズボンは当たり前で、ひざ上のスカートなんて履かなかった。だけど、ムーンライトスターに来ると、ひざ上の白いショートパンツにへそ上くらいの白いトップスにシースルー。足元は白の社交ダンス用のシューズ。
若干ヒールが高いのは気になるけど、白で統一された透明感。だけど、こんな真夏に露出が多すぎるほうがものすごく気になる。まぁ、去年までは、高校の水泳部でバリバリに泳いでいたけどさ。
一方の萌奈ちゃんは、黒基調で、私と物自体が一緒。色違いなだけで、個人持ちのもの以外はなんら変わらない。
どっちかというと、衣装は黒のほうがよかったんだけどなぁ。なんてちょっと思ったりするけど、林さんに『美桜ちゃんは不思議ちゃんだから、白い衣装のほうが扱いやすいのよね』と目の前でいわれたことがあるくらい。
私は、扱いやすいキャラクターなのか、扱いにくいキャラクターなのかがまったくわからない。
でも、ミアシスのメンバーも、ムーンライトスター、サンシャインのメンバーがみんな口を揃えていうのが、『私は扱いやすい』なんだよね。そこがやっぱりよくわからない。
「さぁ、暴れる準備はできたね。あとは出番を待つだけ」
心の中でつぶやいたつもりだった言葉が、口から零れ落ちていた。
それを聞いた橋爪さんがクスリと笑った。
「やっぱり、ギャップがすごいわよね。可愛らしい顔なのに命知らずの言葉。さすがに千佳でもここまではいかなかったわよ」
「大阪で活動しだしてから1年とちょっとが過ぎましたからね。メンバーの口癖とかが移ったのかもしれないですね。とくに、メンバーの野村が一番ワイルドなんで」
「でも、やっぱりムードメーカーのあなたを呼んでいてよかったわ。何にも不安を感じないわ」
それは、ほめられているのか、それともけなされているのか。まぁ、今はプラスに気分を持っていきたいし、ほめられてると思っておこう。
さぁ、あとは軽くメークを仕上げてカチューシャ選び。
衣装に合わせて、トータルで20種類くらい持っているカチューシャの中から何個か選んで持ってきている。ここから今日の気分でひとつ決めようと思ってる。
色で合わせるなら、真っ白のカチューシャでもいいと思うんだけど、それじゃあ、さすがに面白みがない。けど、それ以上を求めようとすると、かえってダサくなる気がする。それなら、このまま白でもいいか。ミアシスのファーストシングルのリリースイベントのときに買ったときのカチューシャでさ。一番シンプルだし、ちょうどいいかな。
「あっ、やばい、ヘアピン忘れた」
隣でヘアメークしている萌奈ちゃんがポーチの中をごそごそしながら言った。
ヘアピンか。普段からずっとカチューシャだから、そんなのとは無縁なんだよね。水泳部のときでも危ないからという理由でつけなかったし。女の子に取ったら必需品なのはわかってるんだけど。
そもそも、私は萌奈ちゃんみたいに髪も長くないし、全部カチューシャで済ましてしまうから、必要性を一切感じない。
「美桜ちゃんはヘアピンは持ってないもんね。このへんって、コンビニありましたっけ?」
「すぐそこにあるわよ。そこで軽くご飯買ってきたし、確か、ヘアピンもそこにあったはずよ。急いで買ってきたら?」
「そうします。ちょっと行ってきます」
「あっ、萌奈ちゃん、待って!今はやめたほうがいいわ。迷子になって戻って来られなくなるわよ」
林さんに呼び止められた萌奈ちゃん。急いで出ようとした勢いで頭をドアにぶつけそうになっていた。
「ここに来るまで薫についてきただけなんじゃない?道は把握できてるの?できてるならいってもかまわないけど、できてないならやめたほうがいいわ」
そういえばそうだ。橋爪さんは場所を全部把握していたからすべるように歩いていたけど、私も萌奈ちゃんも橋爪さんについてきただけだった。道順も正直に言って覚えていない。
ここは動き回るよりも、ついていくだけのほうがいいのかもしれない。
「今日は美桜ちゃんにカチューシャを借りたほうがいいんじゃない?美桜ちゃんも黒のカチューシャなら1つくらい持ってるでしょ?」
「それでもいいなら2つくらいありますけど。何もないのとリボンがついているのと」
「……じゃあ、お言葉に甘えて何のないほうを借りていい?」
ただ、私も今気づいた。飾りのない黒のカチューシャを家においてきているみたい。まぁ、真っ黒なのは変わりないし、これを渡しておくか。
「ごめん、今日は飾りがあるのしか持ってきてないみたい。それでもいい?」
「うん、ありがとう。これで何とかする」
でも、正直なことをいうと、髪を振り乱す萌奈ちゃんを見てみたいんだよね。
ただ、本人はトップアイドルとしてやってきたプライドがあるだろうからセットした髪が乱れるのは嫌がるだろうけど。
「美桜ちゃん、さすがにワックスは持ってないよね?さすがに乱したくないんだけど」
ワックスなら、とんでもなく硬さがハードのワックスは持ってる。がちがちに髪の毛を固めたい亜稀羅と沙良がよく借りに来る。
「後悔しないなら別にいいけど」
そういって硬さがベリーハードのワックスを渡す。
「あぁ、意味を理解した。これはきついわ。汚すかもしれないし、カチューシャだけ貸してほしい」
ちょっと残念そうな萌奈ちゃん。でも、これが私の持ち物だから仕方がないっちゃ仕方がない。
それにしても、女の子らしい持ち物がほとんどない私ってどうなんだろう。やっぱりずれているのかな?
結局、萌奈ちゃんは、ああじゃない、こうじゃない。といいながら、オールバックでおでこ丸出し、つけたカチューシャより後ろはさらっと流している。
やっぱり、自分じゃないのが相当不満なんだろうけど。
「まぁまぁ萌奈ちゃん、そんな顔しないで楽しみましょうよ。それに、みんな萌奈ちゃんってわからないわよ。逆に言うと、ばれてほしくないから、なおさらよ」
「まぁ、もろもろを忘れてきた私が悪いのはわかってるんですけど……やっぱり後でヘアピン買いに行こうっと」
これっぽっちでパフォーマンスに影響は出ないはずだと思ってるけど、どうだろう?まぁ、大丈夫だろう。こういうことは多数経験しているだろうし。
「さっ、男性陣と合流して1回目のパフォーマンスに向かいましょうか」
真夏というのに、長袖の黒い衣装に身を包む橋爪さん。自身で決めたのに、暑いのか、腕まくりをして少しでも熱を逃がそうとしている。
「ごめんなさい、お待たせしました」




