64:サンシャイン結成
そこから橋爪さんの話は続き、8月に『レトロフェス』というイベントを皮切りに、多数のイベントに出演し、11月に単独コンサートを五大都市で開催する旨、私たちは、ムーンライトスタートしてではなく、新しく〈サンシャイン〉という名前のグループで活動することが伝えられた。
「あの、お話の途中ですいません。ひとつ疑問に思ったんですけど、別々のグループとして活動する意味はあるんでしょうか?」
「はい。これに関しては、私たちの精神的な問題で別のグループを発足させる形になります。というのも、先ほど、みさが中川さんを見て昔のメンバーの名前を叫んでいました。一緒のグループにいると、こういうことが少なからず起きる。ならば、無理に別のグループを作って割り切ってしまえばいいという私たちの考えです」
どうやら、私がいることで弊害があるようだ。それなら、なぜ、私にオファーをくれたのかがなおさら謎になる。
「なるほど。わかりました。ありがとうございます」
「僕のほうからも。少ししょうもないことにはなるんですがひとつ。グループ名の由来はなんでしょうか?」
「由来は簡単です。難しく考えたくもないですし。ただ、意味だけは持たしておきたいので答えますが、私たちムーンライトスターの対言葉です。夜空に光り輝き見守るムーンライトスター、陽の目を浴びて輝くサンシャイン。いかがでしょう?」
なんとなくでしかわかっていなかったけど意味は理解できた。まぁ、名づけにプラスの意味があれば何でもいいんだけど。
「メインになる楽曲というのは決まってるのでしょうか?」
立て続けにと言わんばかりに竹田さんも質問する。
「もちろんです。どのライブでも〈ダンスフロア〉という私たち最初の楽曲は必ず披露したいというのは決めています。ただ、今現在で決まっているのはそれだけです。代表となる曲がこれしかないので」
「なるほど。〈ダンスフロア〉は必ず習得ですね」
「もちろん、ほかに曲が決まれば、その都度、振り付けやパート割りのデータはお渡しします。できれば、来月までに今決まっているイベントや単独コンサートで披露する曲は全て決めきりたいと思っています」
どれだけの量になるかはわからないけど、かなりハードになることは容易に考えられる。ミアシスの新曲もあるし、尋常じゃないスタミナも同時に必要だな。
「中川さんからは質問はない?」
橋爪さんにそういわれて少し考える。……特段、気になることは今はないし、出てきたとしても、そのときそのときで聞くと思う。
「今は特にないです。気になることが出てきたら、そのときに聞きます」
「わかったわ。それじゃあ、話を戻すわね……」
そこからまた橋爪さんの話が続き、話の最後でディスクを一枚渡された。
「中には、竹田さんのときに話が上がった〈ダンスフロア〉の振り付けと、パート割りした歌詞が入っていますので、これを覚えてください。とりあえず、今日は振り付けを考えてくれたダンス専属のコーチがいるから、早速振り付けの指導をしてもらいましょうか」
そんなことで移動を始め、移動した先は、大きなスタジオ。
「さぁ、着いたわ。みさも所属しているダンススクールね。今日と同じ木曜日は定休日なんだけど、今日からここで週に一回振り合わせをするんでね。来週からは、ここに集合になります。あわせてお願いします。さぁ、さっそく専属コーチと顔合わせしましょうか」
そういってうれしそうに中に入っていく橋爪さん。まるで、早く活動を再開させたいといわんばかりの笑顔だった。
建物の中は思ったより広く、いくつものフロアが並んでいて、同じ時間に平行して複数のレッスンができそうな感じ。
橋爪さんについていくと、一番奥のフロアで踊っている人を見つけた。
「明石さん、戻りましたよ」
「あら橋爪さん、お帰りなさいです。あら?後ろの方々は?」
「昨日話したじゃない。相談もしたし」
「あっ、そうでしたね。林さんとサンシャインの皆さんですね。あら?おひとりだけ見慣れない顔があるように思いますけど。あのスーツの女性なんですけど」
どうやら、私のことを言っているようだ。明石さんと呼ばれた女性としっかり目が合う。
「あぁ、あの子ね。あなたが太鼓判を押した子よ。中川美桜ちゃん。可能性を感じるって言ってたでしょ?」
「確かに、言いましたけど、こんなに堅い子でしたっけ?もっとキャピキャピしたイメージがあったんですけど」
えっと……私のイメージってどうなってるんでしょうか?ミアシスの時のままのイメージを持たれていると、少しやりにくいんだけど……。なんて思いながらも、2人が話している様子を見守る。
「私もびっくりしたわ。服の着こなしとメークだけで変わる子なんて滅多にいないもの。あっ、ごめんなさい。さっき専属コーチになってもらったって言う……」
「明石優香といいます。ポップスとジャズ、ラテンが主な専攻ですかね。すばらしいパフォーマンスになるようにお手伝いさせていただきます。よろしくお願いします」
私よりも5つくらい上かな。なんだか、そんな気がする。
すらりと伸びた身長にスレンダーな体つき。現役のダンサーでも十分通じるし、私より、この人のほうがサンシャインのダンサーに向いている気がする。
「とりあえず、時間ももったいないし、早いですけど初めて行きましょうか。更衣室は、男女別にあちら側にありますんで、そこで着替えて、またこちらにいらしてください」
明石さんが指差す方向に行くと、また広い更衣室が。しかも、ご丁寧に鍵がかかるタイプのもの。これだったら安心して振り合わせに集中できる。
年度末の在庫処分のときに何着かもらった初代のミアシスTシャツに着替えて、紅いジャージ、白と青のダンスシューズを履いたら、いつもの振り合わせのときのスタイルに。
そのままさっきのフロアに戻る。
「あら、さっきとは打って変わって可愛らしいじゃない。中川さんは無理に背伸びしないほうがいいかもしれないわね」
別に、無理をしているわけじゃないんだけどなぁ。なんて思いながら、朝から動かしていない身体を動かす。
朝から姿勢がずっと一緒だからすっかり硬くなっている。しっかりほぐしておかないと、どうなるかわからない。




