62:顔合わせ
ムーンライトスターのサポートメンバーとして活動することを決めてから早5日。早くも顔合わせの日程が決まり、私は新幹線の中。指定された時間より少し早い新幹線で品川駅に着く予定。
初めて会う人だから、さすがにスーツじゃないと失礼よねってことで、スーツを着て移動中。でもね、こうやってスーツを着てみると、田村さんみたいに格好良く見えるわけがなく、新社会人か、就活中の学生に見えてしまう。
私も早く田村さんみたいにスーツが似合う大人になりたい。そんなことを思いながら、新幹線は東京に向けて足を進めている。
新幹線の中では対してやることがなく、ケータイで昔のムーンライトスターさんの楽曲を鑑賞中。
オファーを承諾する前に調べていたとおり、ポップな印象の曲がそろっている。特に、〈ダンスフロア〉は身体がうずきだすほど。
ミアシスでカバーしても面白いかな。と思える曲。たぶん、沙良由佳が暴れだすイメージが強いからそう思えるだけなのかもしれない。
まぁ、ミアシスはもともとやんちゃなグループだしね。
もし、ムーンライトスターを再結成させるに当たって、メンバーを再構成するなら、男性が2人、女性が4人の計6人だよね。なら、私以外のサポートメンバーは女性1人、男性2人?ってことになるのかな。そうしないと、存命しているオリジナルメンバーは女性2人って話しだし。
そこは、やっぱり実際にあってみないとわからないよね。どういう構成で活動を再開させるのかは。どういう形でムーンライトスターの活動を再開させるかは。
『まもなく、新横浜です……』
そんな自動放送が聞こえて、周りがにわかにあわただしくなる。ここで降りる人も多いんだと思いながら窓の外を眺める。
さぁ、私もそろそろ机の上を片付けて、降りる準備をするか。あと10分くらいだしね。
気楽に構えると、大きく伸びて、テーブルの上に散らかったノートをかばんに。朝ごはんとして食べたごみをビニール袋の中に入れて口を縛る。あと、手鏡でメークが崩れていないかのチェック。ビジネス用にきりっとさせている。
今までこんなメークはしてこなかったから、最初に自分でしたとき、鏡に映った自分に対して、『誰?』と言ってしまった記憶は真新しい。
やっぱり、メークひとつで印象って変わるものなんだね。思わず、ミアシスのときの私と写真を見比べたくらいなんだから。
たぶん、これって、私だということに気づかれないパターンがあるよね。スーツのときとミアシスのときで顔の印象と雰囲気が若干違うんだから。
ホームがチラッと見えたあたりで、席から立ち、座席と壁のスペースに置いていたスーツケースを手に取り、新幹線を降り、出口に向かう。
新幹線を降りた私は、階段を上がり、新幹線の改札を出てすぐのところに来てとだけいわれている。
「間違えていたらごめんなさい。オリエンタルライムの中川美桜さんですよね?」
品川駅についてまだ5分も経っていないのに声をかけられるとは……。ただ、『ミアシス』の名前じゃなくて、所属事務所の名前で。ライブの関係者かな?と思い、声がしたほうを振りむくと、初老を迎えたくらいの女性。身長はさほど高くなく、平べったいパンプスを履いている私のほうが少し高いくらい。
そういえば、この声にうっすらと聞き覚えがある。つい最近だったと思う。
……思い出した。オリエンタルライムに珍しく電話がかかってきた日だ。あの時、相手は『林エンターテイメントの橋爪』と名乗っていた。サポートメンバーのことで話がしたいと、田村さんに取り次いだことがおとといだったと思う。
っていうことは、この初老の女性が橋爪さん?まぁ、まだわからないから、ちょっと話の流れに任せてみるか。
「はい、そうですが……」
「よかった~。事務所さんのプロフィール写真と印象が違うから、てっきり別人かと思ったわ。服の着こなしとメークで大きく変わるのね。あっ、申し送れました。私、林エンターテイメント所属でムーンライトスターの橋爪薫ともうします。このたびは、ご多忙にもかかわらず無茶なお願いを聞いていただき本当にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ、素敵なオファーをいただきありがとうございます。精一杯頑張りますので、私のほうこそよろしくお願いします」
なにかがおかしいのか、橋爪さんはくすりと笑った。
「そんなにかしこまらなくていいのに。お願いしてるのは私のほうなんだから。さっ、とりあえず、事務所に行く前にもうひとり、ここで待ち合わせをしているから、その方と合流してちょっと移動するわね。一緒に来てもらっていいかしら?」
「あっ、はい。もちろんです」
そういって数秒後。「あっ、いらっしゃった」といい、南口?に向かう橋爪さん。
「エイトパワーの矢島さんですか?」
そういう橋爪さんの先にはモデルのような体系で、私よりも大人っぽく見える女性が。ただ、どこかで見たことのある顔だけど、どこで見たんだろう?
「はい、そうですが……」
ちょっと不安げにいった女性の言葉を聞いたあと、橋爪さんは私にしたときと同じように自己紹介をした。
「さぁ、時間もないし、早速行きましょうか」
あっ、そうか。事務所に行くんだったよね。でも、ここからどうやって行くんだろう?まっ、橋爪さんに任せるか。
橋爪さんについていくと、階段を下りて、タクシー乗り場に向かった。
ここで待ってて。といい、橋爪さんはどこかに消えて、この場には、私と矢島さんだけが残された。
知らない人と2人きりで、なんともいえない空気が流れる。やっぱり、この空気は嫌いだ。
そんなことを考えているとき、プップッと軽くクラクションが鳴らされた。
何事?と思って、音がしたほうをみると、窓から橋爪さんが手を振っていた。
これに乗れってことでいいんだよね?そう解釈して、車に近づく。
あっ、このスーツケースは入るかな?あれだったら、トランクに入れさせてほしいんだけど……。
「あっと、中川さんはスーツケースを持ってるのよね。後ろを空けるから、そっちに入れてもらっていい?」
ゴンといって、後ろのトランクが空く。入ってるものがほとんどない車のトランク。その中にスーツケースを寝かして置く。で、そのまま右側に回って車内に入れてもらう。
外装はシックな黒でかっこいいんだけど、内装は、逆にかわいく仕上げられている。
そんな車に乗って10分ほど。とあるビル近くのコインパーキングに。ここで降ろされて、徒歩で雑居ビルに。
こんなところに事務所があるのか?なんて不安を抱きながら橋爪さんの後ろを歩き、ひとつの部屋に入る。先に橋爪さんが、そのあとに矢島さんが続き、最後に期に私が入ろうとすると……。




