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Go high Go! We are MiASYS!  作者: 黒龍
2年目
60/558

58:卒業

「ただいまより、大阪市立東森町商業高等学校第六十三回卒業証書授与式を開式いたします。一同、起立」


 和やかな音楽が式場に流れ、教頭先生の声が上から乗る。

 今日は卒業式。この学校に来てたった1年。ただ、この1年で思い出すことが数えきれないくらいある。

 体育祭に文化祭。あとは、内紛もあれば、本気でキレたこともある。思い出は人それぞれだけど、とにかくいろいろあった。

 そんな生活がもう少しで終わろうとしている。


「B組、相川翼……」


 一人ひとり名前を呼ばれて行き、返事をする。それぞれが、この時間でいろいろ思い出しているのだろう。すでにすすり泣きしている音も聞こえる。


 そんな中、私は1人違った感情に浸っていた。

 というのも、このミアシス。結成してそろそろ1年になる。

 私はミアシスで活動するために大阪に来た。つまり、私も大阪に来てほぼ1年ということ。

 大阪での生活にも慣れ、不安や怖さはほとんどない。むしろ、今の方が楽しいと思うことさえある。

 メンバーと話していても、標準語のほうが勝って、稀にほかのメンバーがつられたりするときはある。

 そんなミアシスは、去年の4月にオーディションで選ばれた5人で結成され、来月でCDデビューから一年が経つ。

 私ももちろん、オーディションで選ばれた一人。地元を捨てて昔の夢に挑戦するかしまいか悩んだあげく、関西に来て夢を追いかけることを選んだ。

 そして、この学校に転校してきて、今日卒業式を迎える。ような感じかな。


 終始、静かに進んで行く卒業式。在校生代表の送辞、卒業式代表の答辞、PTA会長の式辞に校長の式辞が続き、式も後半に入って行っている。


 式が終わり、教室に戻った卒業生。

 周りの女子たちは、これでもかというくらい泣きじゃくっている。その中でも私はひとり淡々としている。

 別に親が来ているわけでもない。現状保護者の田村さんも仕事で来ていない。ほかのメンバーはそれぞれ学校。私の関係者が誰か来ているわけでもない。極めつけは、親しい友だちが私には少ない。ただそれだけの話。


 美桜。教室の一番後ろの席で頬杖をついて周りを見渡していた私に菜乃葉が話しかけてきた。

 菜乃葉は、数少ない大阪での親しい友達の中の一人。同じ部活で一緒にはしゃいで一年間過ごしてきた。


「たった一年だけやったけどありがとうな」

「何よ。菜乃葉にしては珍しいじゃん。何かあったの?」

「なんかあったんって失礼やな。こうやって美桜と喋るんのも最後やのにさ」


 確かにそうだ。私の学生生活はこれで幕を閉じて、事務所の事務員という形で就職する。菜乃葉に関しても、一般企業に就職が決まっていて、こうやって話す機会はグッと減る。


「そう言いつつ、毎回ライブには来てくれるんでしょ?」

「まぁ、行くつもりではいてるけどさ、普通に喋れるんの今日が最後やで」

「そうだね。普通に喋ることはね」


 なんでだろう?今日が最後ってわかってても、なぜか私の口調は淡々としている。


「今までありがとう。美桜おらんかったら、うちどうなってたかわからんし」

「それは知らないけど、こっちこそありがとう。いつも私の味方になってくれて。迷惑をものすごくかけたと思う」


 菜乃葉にはいちばん迷惑をかけたと思っている。


「いろいろありすぎたもんな。無許可撮影騒動に殺人未遂騒動。ほんまにお疲れさんやで」

「クラスの空気も一気に悪くなったしね」

「うちかて一時期近寄られへんかったくらいやし」

「今になったら笑い話で済むけどね。あのときはシュールだったね」


 あまり思い出したくない出来事のひとつだけど、まさか、私があんなにギリギリまで追い詰められるとは思ってもいなかったからね……。

 そんなことを思っていると、菜乃葉が卒業アルバムを開きながら言ってきた。


「誰もあのときの美桜は止められへんかったし。あっ、そうや。最後にここ、美桜のサインちょうだいや。うちの宝物にするし」


 うん、いいよ。そう言って渡されたページは何も書かれず真っ白のまま。


「ここに書いていいの?」

「当たり前やん。このページは誰にも書かさへんから。美桜のサインだけがほしい。思いっきり書いて」


 わかった。とだけ言って、マジックを取り出し、キュルキュル言わせながら私のサインを書いた。


「これで、ほんまに終わりやねんな」

「何?泣いちゃうの?」


 少しからかうと、そんなんちゃうわ!と強がって、強く否定した。ただ、少し菜乃葉の目はうるっとしていた。


「そんなに強く否定されてもその顔だったら説得力ないよ」

「ほんまに美桜はアホやねんから!」

「菜乃葉~、一緒に写真撮ろ!」

「はいは~い!今行く!」


 そういうと、菜乃葉はバタバタと呼ばれた方に向かう。

 さぁ、私もそろそろ高校生の中川美桜から卒業しよう。……ありがとう、菜乃葉。菜乃葉のことは忘れないよ。

 それだけ心の中でつぶやいて、静かに教室をあとにした。


 教室の外は春らしい風がさわやかに吹いていた。


「みーちゃん先輩!」


 そう言いながら駆け寄ってくるのは、同じ水泳部だった後輩の山本佳奈子ちゃん。この子はかわいかった。やること全部が。


「かなちゃん、どうしたの?」

「よかった~、間に合った。 先輩!ご卒業おめでとうございます!」

「何~?それを言いに来ただけ~?」


 かなちゃん、言いたくないけどさ、思いっきり見えてるよ。紙袋の中にちょっと小さな花束が入ってるのが。

 まぁ、それをわかっていてちょっとからかっているんだけどね。


「そ、そんなわけないじゃないですか~。みーちゃん先輩にちゃんと渡すものがあるんですよ」

「かなちゃんの持ってる紙袋の中の花束?」

「あっ、ばれちゃいました?」


 いやいや、手を前で重ねて持っていたらいやでもわかるって……。せめて、手を後ろに組んで隠すでしょ。普通は……。本当に、この子は天然なんだから。


「短い間でしたけど、ありがとうございました。かな、みーちゃん先輩がいたから部活も面白かったし、楽しかったです。また、水泳部、来てくれますよね?」

「必ずね。仕事場もこの近くだし、時間が合えば来れるよ」


 ほとんど来ることは無いと思っているけど、ここは社交辞令という形で答えちゃうよね。悲しい顔はこれ以上見たくないから。


「絶対ですよ。かな、待ってますから」

「うん」

「それじゃあ、お疲れさまでした。あと、ありがとうございました」


 そう言ってかなちゃんは教室に戻っていった。

 さぁ、そろそろ私も移動しよう。卒業したことを田村さんと小村さんに伝えて、一度実家に帰ろう。

 そう思い、学校の門潜り抜けた。


美桜さん、早くも大阪に来て1年が経とうとしています。

どんな年だったのか、振り返って欲しいところですね。

さて。2年目はどのように人生が動いていくのでしょうか。楽しみなところですね

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