番外編2-6 亜稀鑼編 いろいろと感じることはある。
俺ももちろん、事務所を出ようとしたけど、司会の隅で美桜姉が仰向けに寝転がっている姿が見えた。
「美桜姉、帰らへんの?」
「帰るよ~」
声をかけると、いつものはきはきした声からは想像もつかないほど気の抜けた声が返ってきて、美桜姉も疲弊したんやな。っていうのははっきりと感じた。
ただ、気の抜けた声は、ただただ疲弊しているだけじゃないみたいで、いろいろ考え事をしていたみたい。
「亜稀鑼はさ、CDデビューしたことに実感って持てた?」
想定もしていなかった質問にビックリしてこっちとしても頭の中がフリーズした。そんな頭を頑張って働かせて「急にどうしたん?」とだけ声を返すことができた。
「見知らぬ5人がさ集まってレッスンとか受けて練習して、1ヶ月でデビューしたことは?」
矢継ぎ早に飛んでくる美桜姉の質問に少し困惑しながらも答えていく。
「う~ん。どうやろう。部活でCDは出したことないし、ライブすることには違和感はないけど、CDデビューした!って言われたらちょっと『うん?』ってなるかな。大きな有名グループとかに所属してCDをリリースするなら違うやろうけど」
そう答えると、美桜姉も同じことを思っていたようで、胸の内を吐き出すように少しだけ喋ると、美桜姉はすっきりした表情を見せた。
いろんなことをぶつけあうのも大事なんやな。っていうのも、久々に感じたよね。
そう思ったのと同時に、俺も思ったことを美桜姉にぶつける。
「でも、美桜姉はすごいよな。あんだけ実感が沸けへんって言うてるわりには、台本のないのにすらすらってもの言いよるもん」
「そこよね。私もびっくりしてるのよ。たぶん、緊張ばかりの中でレースしてたから、そこでガチガチにならないことは覚えたかもね。それに、ここは大阪だし、何か変なこと言ってもすぐに突っ込んでくれると思ったら、だいぶ楽な感じはしたけどね」
たぶん、それは到底無理な話しやろうな。っていうのはイベント前のダンサーの顔を思い出すと容易に想像がつく。
「たぶん、それは無理かもしれへんな」
「何でよ」
美桜姉はびっくりした表情を見せて、俺に聞いてくるけど、答えは簡単。
「正直に言って、平常心に近い状態でおれたんは美桜姉だけやと思う。俺もいつもとちゃう雰囲気に飲み込まれて、立ってるだけでもしんどかったもん。足も結構意識せなすくんで動かれへんくらいやったし」
「そうなんだ。普段と状況が変わると、平常心にはなれないんだね。あんなステージに立ってると。これからも勉強だね。なにもかもが」
「そうやな」
そういうと、美桜姉は首をひとつ傾げたけど、「まぁええか」と言わんばかりの表情を見せたあと、勢いをつけて起き上がった。
「さすがに帰ろうか」
そういうと、途中まで帰り道が一緒の美桜姉は先に事務所を出ていくようにして、俺もそのすぐあとをついて行くようにして事務所を後にする。
翌日。朝からクラスが少しうるさいような気もしたけど、あまり気にせんようにして自分の席につく。
すると、なんの匂いを感じたんかはわからんけど、他クラスのはずの佐竹良一郎が声をかけてくる。
さすがに同じ軽音楽部におって、仲はええねんけど、さすがに俺が来るタイミングを見計らってんのはさすがにキモイな。なんて思いながら、良一郎と話す。
「亜稀鑼〜、昨日は凄かったやんけ。あんだけ動けるのはすごいな」
こいつ、昨日のライブ、見に来とったんか。わざわざようやるわ。
「見に来てたんかよ。あんだけ来んなって言うたのに」
「来るな来るなって言われたら行きたくなるやろ。やけど、あれやな。もうひとりの女子、すごい声してたな。めっちゃかっこよかったわ」
美桜姉のことか?たぶん、ボーカルで女子って言われたら美桜姉しかおれへんからそうやと思うんやけど。
もちろん、美桜姉のほかにも、ダンサーもかっこええから、俺がほんまに霞むような気もしてる。
「正直、みんなかっこええから、羨ましいわ。誰ともキャラが被るから、めっちゃ霞んでまう気もしてるけど」
「それでもビジュがええねんから自信持てや。まぁ、霞んでるのは否定できひんけど」
「おい待てや!それを本人の目の前で言うか?さすがに裏で言うやろ?いや、裏で言われるのもキツイけどさ」
正直、美桜姉たちのキャラが濃くて、俺が霞んで誰も見てくれてへんのかなって思ったりして自信なくしてたけど、ちゃんと見てくれてる人もおるんやなって実感して、これからの活動も頑張れる気がした。
ずっと美桜姉や翔稀兄さんたちの裏に隠れるかもしれへんけど、俺は自分にできることをやるだけやな。そう思えた一瞬でもあった。
4月の亜稀鑼編でした。
亜稀鑼は最初のイベントでいろいろ悟ったようで、自分の役割を見出していたようです。




