番外編2-3 Akira side 本番直前にバタつくミアシス
「とりあえず、全体共有としてやけど、今回のステージがめっちゃ狭いんよね。やから、〈そよ風に〉の間奏のところで、翔稀が側転とバク転をバク宙に変えさせてもらって、翔稀の連続技が無くなる分、少しうちと由佳の細かい振り付けを増やさせてもらって、あとは、その間奏の時、ボーカル陣は、それぞれ、ステージの端に寄ってもらおうかなって。そんな感じやけどええやろうか?」
沙良姉からぐわぁ~!とちょっと早口でいろいろ言われ、少し理解するのに時間がかかるものの、なんとか理解しきって、あまり変わることがなかったところに安堵するとともに、やることが少しだけ減ったことに、心の中でガッツポーズをしたのは秘密の話。
その間に、俺と美桜姉は、ダンサーが振り付け変更して、練習している姿を見ていた。
そこから30分くらいかやろうか。ダンサー陣の振り付けの呑み込みはものすごく早くて、呼ばれたときには、ボーカル陣も全体確認に加わって、沙良姉と翔稀兄さんが振り付けのバランスを見る。そんなことが何回か続いたあと、沙良姉も翔稀兄さんも満足そうな顔をしてふぅ。と大きな息を吐いていた。
「さすがやな。ほんまに。ダンサーのスキル高すぎるわ。ボーカル陣は、逆に振り付けがなくなって、ステージ両端に動くだけやから、やりやすいと思うわ」
「さすがに、ボーカルは本来の振り付けを減らしてるわけやから、動きやすくなってると思うわ」
まぁ、確かに、動きやすくなっている気はした。
ダンスなんか、やったことがなかったから、ずっとヒーヒー言いながらついて行ってたけど、減らしてもらって助かったって思ってるところはある。
ただ、あれなんだよな。変更をかけた感想部分は、ボーカル陣も一緒に振り付けをしていたこともあり、初々しい振り付けをしていたのに、ボーカル陣が振り付けから抜けたことで、スペースに余裕ができたのか、間奏部分のダンサーの振り付けがより派手になっていた。
そこに驚いたところはあるけど、それがダンサーのスキルなんかな。って思ったりもする。
「よし、これで本番はいくか。振り付け通りいきたいところはあったけど、まぁ、しゃあないか。そろそろ移動の時間やな。準備して移動するか」
翔稀兄さんがそういうと、美桜姉がいそいそとスタジオを出て、どこかに行った。
ただ、そんなことを考えている余裕はなく、俺も着替えて周りに少し広げた荷物を片して、いつでも行けるようにする。
美桜姉は、事務所にいる田村さんに声を掛けに行っただけのようで、すぐに戻ってきたと思ったら、手早く自分の荷物をまとめ、いつでも行けるように準備していた。
そして、全員の準備ができたら、電車で今日の会場の最寄り駅まで移動する。
こういうときって、どういう会話がええのか全くわからんねんけど、緊張しているのだけははっきりと伝わる。
とくに、ダンサーの由佳と美桜姉から。美桜姉は、いつもは見せない表情で、耳にイヤホンしながら、真剣な表情でスマホとにらめっこしている。由佳は、顔には出そうとしていないけど、行動が全部出ていて、あちこちキョロキョロしている姿を見せている。
とはいえ、俺かて、緊張しだしているのも事実で、やり方もわからない。いきなり本番に移るって言うのがあるから怖い。
たぶん、ステージに登ると、今以上に緊張するのは目に見えている。さすがに、軽音楽部でステージに何度か立ったことはあるけど、それとはかなり立場が違う。
やったこともなく、付け焼き刃と言ってもいいくらいのダンスに、決して、自身があるとは言い切れないボーカル。
慣れたとはいえ、今までとは違う。この緊張感はステージに立つたびにかんじるものになるんやろうか。それがほんまに怖いって思ってまうところがある。
「よし、降りるで。繁華街に入るから、見失わんといてな。迷子なりかけたら、すぐに電話してくること。特に、美桜な。こういう都会は初めてやろうし」
「わかりました。とりあえず、田村さんは身長が高いので大丈夫だと思います」
まぁ、そうやな。と思ったのは間違いない。
190くらいある田村さん。一瞬だけ見失ったとしても、すぐには見つけられると思う。ついでに言えば、美桜姉も女性の中では身長は高いほうだから、あまり心配することはないと思うかな。なんて思ってしまった。




