46:前日リハーサル
夜が明けると、朝食も食べずにマジックホールに行って、最後の準備の確認をする。
と言っても、朝のうちのほとんどをリハーサルに費やし、お昼ご飯を食べてからはそれぞれが買い出しに向かう。
買い出しを済ませたあとは、みんなが最後の準備に取りかかり、私は明日使う予定の、とあるドリンクを作る。
それさえも終われば、あとはメンバーが客席に来るのを待って、揃えば、音源なしのリハーサルを進め、ハイアスちゃんと茶々パレードさんが合流すれば、最後のリハーサル。といったスケジュールになっている。
もちろん、ミアシス単独のリハーサル以外は田村さんもいて、音源もちゃんと流してくれる。何も心配することはない。
しばらくして、メンバーたちが客席に集まってきたことを考えると、もう準備が終わったのかと思い、私も、ドリンクの仕込みを終わらせる。
「ごめん、お待たせ。とりあえず、セトリの順番でやっていこうか」
「せやな。そのあとに不安なところを崩していったらええと思うし。まっ、なんだかんだいつも通りやな」
翔稀がそういうと、みんな「そうやね」と返してから〈サンキュー・フォー・ビジッティング〉の立ち位置に向かった。
そして、私のスマホから音源を流す。
この曲はマジックホールができたときに作ってもらった曲で、今は、マジックホールでライブをするときにだけ使っている限定曲。
披露する回数も少ない分、練習する回数も以外と少ない。だからといって、苦手か?と言われても、そういうことはなく、むしろ、もっとやりたい曲のひとつ。まぁ、それは時間制限のせいで叶わないのと、マジックホールまんまの風景を歌詞にしているから、他のところで使えないと言うのが、披露回数が少ない理由だ。
それさえなければ、もうちょっと披露回数が増えただろうな。なんて思いながら、フルで振り付けの確認をする。
この曲は、珍しく私と沙良がボーカルに入り、亜稀鑼がサブボーカルとラップに入るという、かなり珍しいフォーメーションになっている。
珍しい形を取っている分、普段とは違った気配りも必要になったりするし、沙良の負担も少しばかり大きくなる。30分ほどのライブでそこまでやることはあまり意味がない。それに、沙良のダンスパフォーマンスを捨てられないというのも一つの大きな理由でもある。
ということで、なかなか披露されることのない〈サンキュー・フォー・ビジッティング〉の歌詞と振りを確認した。
ボーカルの3人は、それぞれ歌詞を飛ばしたり忘れたりということもなく、無事にやり過ごし、振り付けについても、問題なくこなし、次の曲へとつないでいく。
そこからミアシスは、私のスマホから流れる音源で振り合わせ・リハーサルを終わらせ、このあと、リハーサルをする予定のハイアスちゃんのために、一度ステージをクリーンにする。
『よろしくお願いします!』
とんでもない大声で入ってきたのは、元気いっぱいなハイアスの4人。
まだ全員が中学生ということもあり、私たちよりも元気。その元気が羨ましいって、パフォーマンスを見るたびに思う。
ハイアスちゃんのリハーサルも30分ほど。
無邪気さからは感じることは少ないけど、いいパフォーマンスを完成させるために足元を指さしたり、話し合ったりみたいなシーンを何度も見た。そして、あっという間に時間を迎えていた。
「こんばんは~、茶々パレードです~、よろしくお願いします~」
おっと。ちょうど茶々パレードさんが到着されたみたいで、客席入り口からマネージャーさんの声が聞こえてきた。
ちょうどバーカウンターで仕込みの仕上げをしていた私が対応するために、マネージャーの村田秀さんとメンバーのシュウカさんとコズエさんの前まで行って出迎える。
「お世話になります。田村は今、音響室で最終チェックとリハーサル中のハイアスの手伝いをしておりますので、私がご案内いたしますね」
「え~っと……あっ、ミアシスの中川さんか。よろしくお願いします。っていうか、中川さん、そんな話し方じゃなくていいのに。こっちまで堅くなっちゃうよ」
茶々パレードのマネージャーさんからそんなことを言ってくれるけど、さすがにビジネスの場ではね……。せっかく来てくれているわけなんだし、無礼に当たることはさすがに知り合いだとしてもできないよね。
なんていっても、マネージャーさんとは1回り以上離れているんだからなおさらに。
「さすがに、お客様にため口なんてそんなのできないですよ。とりあえず、ハイアスちゃんたちのリハーサルはもう少し長引きそうなんで、先にお2人を更衣室にご案内しますね。田村には茶々パレードさんが来たことを連絡しておきます」
そういって、茶々パレードの2人を更衣室へ連れて行き、動きやすい服に着替えさせるとともに、田村さんに「茶々パレードさんが到着されてます」と無線機で伝えた。
そして、しばらくすると、階段を降りて来る音が聞こえたところを考えると、田村さんがマネージャーの村田さんと挨拶しているのだろうと勘繰る。
「あっ、すいません。お待たせしました。えっと、準備できました」
茶々パレードのおふたりは、そろって控えめなところがある。ただ、それはパフォーマンス以外の時だけ。パフォーマンスは2人の表情からは想像できない魅惑の世界に引き込まれるような感覚に短い時間でも陥るから、そこがすごいと思う。
「それじゃあ、ハイアスちゃんのリハーサルも終わってるんですけど、村田さんと田村さんの話が終わって、田村さんが音響室に戻ったらリハーサルをスタートさせるんで、ステージ上で待ってもらっていいですか?」
ここまでの流れは今までと変わらない。田村さんが相手のマネージャーさんや代表の方と挨拶して、その後リハーサルを進めるのだから。
たまに、話が長くなって、リハーサル時間をオーバーすることもあるくらいだし。
まぁ、そうなって影響があるのは今までの中では亜稀鑼と由佳だけ。それもオーバーしそうだなと感じることがあったら、亜稀鑼と由佳の出演するパフォーマンスを優先的に調整するから、年齢制限による時間オーバーはまだでていない。
たぶん。もう大丈夫なはずだ。なにより、時間はまだ2時間以上もある。コラボ曲を確認する時間も十分にとれるだろう。
そして、気づけば、田村さんが音響室に戻っていて、音響室から茶々パレードの2人に話しかけていた。
『それじゃあリハーサルを始めますね。気になったところがあればすぐに言ってもらえれば止めますんで』
「はい!よろしくお願いします」
気になったところがあれば止めようとは話していたものの、茶々パレードさんにそんな様子は微塵も感じず、20分ほどで計画している曲をやりきり、そこから時間いっぱいまで少しの間話し合っていた。
時間の使い方がうまいグループってこうなるんだ。と少し勉強になった。




