31:由佳さん、育ち盛りです
ただ、沙良は由佳に行き先を任せるみたいで、地図も持たずに、先頭を由佳に譲ってる。
焼きそば、たこ焼き、フランクフルト……。いっぱい食べて、いっぱい遊んでものすごく満足そうに楽しんでる由佳。
隣で沙良が、楽しそうやね。と耳打ちしてくる。
でも、文化祭というよりは学園祭に近いトーモリの文化祭。思ったより楽しくて、ちょっとだけテンションが上がる。
前の学校は、やること決められてたから面白くなかったんだよね。
由佳に連れられて見たほかのクラスのビデオ。やってることがばかばかしくてちょっと笑えた。
クラスでこんなビデオが撮れたら、準備してるだけでも楽しそうだなって思ってしまう。
それに比べ、私たちのクラスは体育館の舞台でステージだからね。なんにも面白くない。
まっ、私はミアシスのステージがあるから何もしないことになったけどね(なった瞬間に勝った!と思ったのは内緒ね)。
由佳に振り回されるような感じで朝が過ぎていき、あっという間にお昼時。
お腹すいたねと由佳が驚愕の一言を発する。
「あんた食べてばっかりやん!まだ入るん?」
「もちろん!食べ盛りやからね。何食べようかな~」
由佳のテンションはさらに上がる。由佳のテンションには上限値が無いんじゃないかって思ってしまう。というか、由佳のテンションが下がってるところを見たことが無い。
いつもキャピキャピしてて、レッスンの時こそ、本気の顔をしてるけど、その時以外は常に笑ってる。
学校でもこんな顔なんだろうなとかと思いながら、由佳の後ろをついていく。
「あんたまたそれ食べるんかい」
沙良の関西弁が飛んで我に返る。由佳が立ち止まっていた場所は、下級生が開いてる焼きそば。
「だって、この中辛の濃いソース。めっちゃおいしいもん。病みつきなるわ」
「あんた太って踊られへんようになんで」
「由佳はそんな体質じゃないもん。それに、レッスンで帳尻合わせできるもん」
確かに、由佳の背は低いけど、それに比例するように細い。レッスンの休憩とかにおにぎりを頬張って幸せそうな顔をしてる。
まさか、これプラス晩御飯を食べてるの?考えられない。
幸せそうな顔をしている由佳の手には焼きそばの入ったタッパーが2つ。まさか、一人で食べるつもりなの?
「由佳、もしかしてなんだけどさ、一人で食べるつもりとかないよね?」
「えっ?一人で食べるつもりだけど。いっぱい動いたからお腹すいちゃった」
もしかしたら、由佳はダンサー兼大食い女王になれる。一瞬だけそんな気がした。
「あきれるわ。由佳、そこでおとなしくしといてや。うちらもご飯かって来るさかい。行くで、美桜」
由佳の「はーい」という声を聴く前にさらに腕をつかまれて屋台のほうへ歩かされる。
「あんなんに付き合ってたら必死に体重キープしようとしてるうちがバカらしくなるわ」
そんなことしてたんだ。
「なんかしらんけど、太りやすいねんな。頑張ったから食べる。お腹すいたから食べる。みたいなことしとったら、簡単に増えてまうし、ダンスも水泳もびっくりするくらいキレがなくなんねん。美桜やったらわかるやろ?」
独り言のようにつぶやいていたから、いきなり話を振られた時は少し焦った。
「まぁ、わからなくはないけど……。そんな一気に増えるものなの?」
「一気にはあまり増えないけど、ベスト体重になってへんと、由佳とのコンビもまるっきりあえへんねん」
「そうなんや。合わせるだけでも大変なのにね。なおさらだね」
「やから、今日もあんまり食べると、怪我しそうやねんんな。やからちょっと外で買ってくるわ」
「ならちょっと待って学食あるじゃん」
「学食って思ったよりおいしないやん」
「大丈夫。思ったよりおいしいから。それに、量もちょうどいいくらいだし」
「ホンマに?なら行ってみようかな。時間もないし」
「由佳呼んでこないと」
「ほっといたらええんちゃう?また食べだすで」
「そ、そうだけど、ほったらかしはさすがにかわいそうじゃない?初めてくるところだし」
「まぁ、そうか。ほんなら呼んでから行こか」
そう言って、由佳の元へとまた戻った。
「お帰り。早かったね」
そういうけど、由佳はもっと早い。2パックあった焼きそばのタッパーがなくなってる。
「由佳、もしかしてやけど、あんた、あんだけあったのにもう食べたん?」
「えっ?うん。おいしかったよ~」
ものすごい笑顔の由佳。それに引き換え、ひきつった笑顔を無理やり浮かべる私と沙良。
由佳の胃袋、半端ない。どうしたらこんなに速く詰め込めるんだろう?わからない……。
「まぁええわ。由佳、うち、行きたいとこあるからついてきてくれる?」
「うん、いいよ」
あっけなくオッケーだけど、行き先を告げてない。食堂に行くとわかれば、また食べだすんじゃないかとちょっと心配。
ただ、そんな心配もいらなかったみたい。すでにあくびをかみ殺している。これ以上食べないだろうと見た私の勘はおおよそ当たっていた。
素うどんにおにぎりという、これ以上ないシンプルなメニューでそろえた沙良のお盆の上。
由佳はちらっと見ただけですぐに目をそらした。
しかも、目をそらしただけじゃなく、目もとろんとしてきている。眠たそうなのは目に見えてわかってる。
「由佳、あんた、相当眠いんとちゃうん?」
「そんなことないよ~。由佳はいつもの由佳やで~」
ダメだ。完全に寝る直前だ。まっ、いっか。いったん寝かせて、しゃきっとしてもらってからライブに挑んだ方がいい気がする。
由佳の場合だったら、予想だけど、こっちのほうがパフォーマンスが上がりそうな気がする。
私もとりあえず食べなきゃ。いいパフォーマンスができない。
ただ、やっぱり、食べ過ぎると体の動きが鈍くなるのはわかってる。だから、沙良と同じ、素うどんにおにぎりというシンプルさに。
急いでかきこんでライブに備える。指定した時間の10分前に気付いたらなっていたから。
沙良が食器を返却口に持っている間に、気付けば眠りに落ちていた由佳を起こして集合場所の正面玄関に行った。
一人だけ制服というのはものすごく浮く。私も私服に着替えてこればよかったなぁ。とか思いつつ男子2人を待った。




