29:文化祭に出演
初めてのワンマンライブを成功させて調子が上がったミアシスの勢いは止まらない。
サードシングルはディリーのランキングこそ4位だったけど、イベントでは数えきれないくらいの人が集まりだした。しかも、イベントやっても、いつも時間が押すようになった。
そして今日の朝。いつものように顔を洗おうとするけど、大きな違和感に包まれる。
学校に行かなきゃいけないはずだけど、なんだろう、このゆっくりした時間の流れ方は……。
……あっ、今日は土曜日だけど、学校で文化祭があるんだ。しかも、そこにミアシスが出演するという……。本当のことを言えば、出演なんかしたくなかった。
もとはと言えば、生徒会が話を持ち出してきて、メンバーやマネージャーと相談して決まったこと。話を出さなかったらよかったと思ったのもこの時だった。
日にちや枠が決まったところで、サードシングルの振り付けや文化祭でのセットリストを練習していく日が続きだした。
そして今日。いつもの感覚で土曜日を過ごそうとしていた。
慌てて家を飛び出したのはいつもより30分遅れてのことだった。まぁ、時間はまだ間に合うものの、結構ギリギリになっちゃった。
転入してから変わらないスタイルで電車に乗り込み、通学路を歩いていく。
いつも通学中にマジックホールが見える。
今日も不意に見えて、メンバーはもう来ているのだろうかと勘繰るけど、マジックホールの玄関前を通過するだけ。時間があれば見てやろうかと思ったけど、そんな時間が今はない。
とりあえず、教室に着いて、自分の席にドンと座る。
一瞬だけ教室は静まるけど、私が座ったと確認すれば、また騒がしくなる。いつもこうだから気にしない。
席に座ると、音楽プレーヤーを止めて、イヤホンを携帯に差し替える。そして、サードシングルの振り付けの動画を再生して、いつものように振り付けのイメージトレーニング。
もちろん、邪魔をされたくないから、寄せ付けないオーラを振りまいて。
このオーラで、あの菜乃葉さえも寄せ付けない。邪魔をされると、とてつもない不機嫌な声で威嚇されるのを知っているから。
学校についてからすでに何回か動画はループさせて、だいぶテンションも上がってきた。そんなところで、誰かに肩をつかまれ揺さぶられた。
イヤホンを外して、いつもより静かな教室に少しびっくりしたけど、それにも構わず、かなり不機嫌な顔になってつかまれている肩のほうを睨む。
見ると、男子が一瞬怯えた顔をしたけど、私に話しかけてきた。
「中川、生指の岡田先生が呼んでる。生徒指導室に来いってよ」
「……わかった。ありがと」
いらだつような声がまだ出て、威嚇するような言い方で言ってしまった。
これが、学校にいるときの中川美桜なんだよね。森本君には悪いけど。
教室を出るとき、後ろから「お前よく行ったな」という声が聞こえた。
確かに、どんな爆弾を持ってるのかわからない私に、あまり話さない男子が話しかけてくるんだから、相当な覚悟があったと思う。
そんなことを思いながら、生徒指導室に向かう。
速足で向かいながら、階段を下りたあたりから、なにかまずいことでもしたかなと頭の中で考える。けど、まったく心当たりがない。
何かしたっけ?そう思いながら生徒指導室のドアをノックする。
「失礼します。三年B組の中川です。岡田先生お願いします」
教室を出るときとまるっきり同じ声が出てしまい、しまったと思った時は、言葉は言い終わっていた。
「おー、中川か?えらい怒ってんなぁ。なんかあったんか?」
「いえ、特に。いつもの私ですが」
一度喋り出したら止まらない。キャラの変更が全くできない。
「そうか。まぁええわ。この前の何回かリハーサルしてたけど、そのたびに渡し損ねてたんや。ミアシスさんのタイムスケジュールな。メンバーさんにも渡しといたってな」
なんだ。それだけか。
「先生。用はそれだけですか?」
「うん。そうやけど」
「それやったら教室まで私に来てくれたらよかったのに」
「細かいタイムスケジュールは実行委員と関係する先生、あとは協賛してくれるオリエンタルライムさん以外は秘密やからな」
「この学校の生徒の私に渡していいんですか?周りに言いふらすかもしれませんよ」
「そんなことは、自分がアイドル活動をしていることを四月にバレるまで言いふらさなかったから、私は大丈夫やと思ってるよ。そうじゃなかったら、マネージャーさんにしか渡してへんしな」
そのあたりは信頼されてるんだ。まぁ、あの時は周りに騒がれたくないってだけだったんだけど。今は、どう騒がれたって動じない精神力を手に入れたから、そっとのことじゃなんてことない。何かあっても、顔には出ない。
もしかしたら、そこを見た?そんなわけはないか。だって、学校だと、学校の私しか出ないんだし。ミアシスの美桜は放課後にならないと出ないし。
まぁ、そんなことはどうでもいいや。
しつれいしました~。と軽く言って生徒指導室を出た。いつからかわからないけど、緊張感が張り詰めだしたこんな場所にいたくない。何かを感じ取った私は逃げ出すように部屋を出た。




