28:アンコール&特典会
……ダメだ。収拾がつかない。マネージャーと相談だな。
『S 3 - 2 ?』
最初に使ったペンライトを田村さんのほうに向けて鏡文字を書く。向こうからはイヤホンをつないだ無線機で声が届く。
『そうだな。このまま流していても収まりそうにないな。もう少し温めたかったけど、ストックもないし仕方ないな。〈ドリームダンス〉行こうか』
ペンライトを4回チカチカさせる。『ありがとうございました』の意味。
「最後、田村さんからの許可が降りた。〈ドリームダンス〉行くよ」
「あいよ」
「振りビデオともちろん一緒でいいんだよね?」
「ほかにどんなフォーメンションあんねん。やったことないわ」
「まぁ、とりあえずこのライブも本当に最後の曲になるから、後悔しないようにいこうか。最後行くよ!」
4人がそれぞれ返事すると飛び出していった。
「アンコールありがとうございます!すっごい声援に首根っこつかまれたような感じはするんですけど、私たちを必要とするのであれば、このライブどこまでも飛ばしていきます!ただ、このあとの特典会のこともありますので、今日のライブは次の曲までとさせていただきます」
「次の曲は、同じく来月リリースのシングルからカップリング曲で〈ドリームダンス〉です。最後にふさわしいと思う曲だと思います。最後ですけど、楽しんでいってください!」
たぶん、翔稀も言ったように、最後を締めるのにぴったりな雰囲気の曲。たぶん、ライブの始まりにもってきても違和感はないと思う。
夕方 軒の光がともりだす
ゆっくり街も暗くなってきてる
誰もが自らの居所に戻ってく
少し暗いけど、ここから幕が明けていくイメージ。スロースタートな感じがたまらない。
で、歌い終わりがしゅんと消えるから、切りやすい。
さらにくぎ付けにする君のダンス
でもいつしか君の姿が泡のように消えた。
どこに行ったのか誰にもわからない
音楽が切れたと同時に場内の照明も切れた。たぶん、田村さんならではの演出ではないだろうか?たぶん、そうだろう。演出に関しては田村さんに任せっきりになってるところがあるから……。
しばらくしてステージの照明だけついた。
もうここでライブは終わり。あとは挨拶して、特典会につなげるだけ。
「今日はミアシスの初ワンマンライブにお越しいただきましてありがとうございました!これからもミアシスはミアシスらしく活動していきたいと思っています。またこういうワンマンライブがあれば、ぜひ来ていただきたいと思います。このあとは特典会もありますんで、お時間のある方は是非遊びに来ていただきたいです!そしたら、一度締めましょうか。以上!」
『ミアシスでした!』
ありがとうございました。それぞれが言いながら、控え室に戻っていく。
「あとは特典会だけやな」
亜稀羅がぼそっと言った。その瞬間、ライブは終わっちゃったんだって実感してしまった。定期的にできればいいなぁとか思いつつ、顔をタオルで覆った。
充実してたなぁ。ライブ中、ずっと楽しかった。このままライブがずっと続けばいいのにって思った。
そんなことはかなわないのわかってるから、続きは楽しみでとっておこうって。さぁ、このまま特典会を楽しもうか。
特典会になると、マネージャーも照明室から降りてきて、列の整理とかに協力してくれる。あっ、もちろん、アルバイトの人もね。
「そうしましたらお待たせいたしました。引き続き特典会に入ります。順番を最初にお伝えしておきますね。まず最初に物販券のサイン会から行きたいと思います。まずは4枚で全員のサイン、そのあとに1枚の個別サイン。そのあとにチケットのハイタッチ会で皆様をお送りするという形になります。で、注意事項ですが、勝手ですいません。こちらで用意したペン類で書けないものは不可とさせていただきます。そしてハイタッチをしたあとは、閉場をスムーズにさせていただくため、皆様外に出ていただく形になります。なお、出待ち等は周辺の方々の多大なるご迷惑になりますので、禁止させていただきます。誠に勝手ながらではございますが、ご理解とご協力をお願いします。そうしましたら、ミアシスも出てきましたんで、始めましょうか。皆様、最後までお楽しみください」
マネージャーの長話が終わって、私たちもやっと特典会の順番を知った。
とりあえず、列が途切れるまでは書き続けるのか。まぁ、やるしかないんだけどね。
流れてくる順番は名前の逆順なんだけど、回ってきても、私のファンの人は書いてほしい場所を指定してきて大きく書かせてくれる。ありがたい。
サインを書いてる間、口々に「楽しかった」「またやってほしい」という声をものすごくもらった。励みになるし、やってよかったって素直に思える。
楽しい特典会をぴーちくぱーちく話しながら過ごしていった。
そしてあっという間に22時。それまでの間に特典会はすべて終わり、5分前に私たちも帰り支度を始めたくらい。
「反省会は、明日しよっか。今日は早く帰ってゆっくりしようよ。いいですよね?田村さん」
「あぁ、そうだな。今日はお疲れ様。俺も上から見てて楽しかった。十分だったよ。ちょっと予想外はあったけどな。それも楽しめたと思う。また機会があればやろうか。それじゃあ、由佳の終電がなくなる前に帰って、また明日、夕方から予定してるんでお願いします。そしたら、解散!」
マネージャーが声をかけて今日は終わった。きょうが終わったていうよりも、ライブが終わった。帰る前に、どうせ明日は朝から今日のライブの売り上げ計算がある。仕事しやすくするために軽く分けて帰ろうか。
「美桜、帰らないのか?」
「私、どうせ明日は朝から出てこないといけないんで。限られた時間で売り上げ計算しなきゃ気持ちよくレッスンに入れないんで」
「無理なんかせんでええよ。別に、明日明後日で仕上げなくてもいいから。それに、レジも入出金機も導入してたから合うか合わないかだけだ。在庫管理もしなきゃいけないけどな。締め切りは明日やればいいよ。夜も遅いから美桜も帰りや」
「わかりました。そしたら明日の10時にまた来ます。お疲れさまでした」
「あぁ、お疲れさん。ゆっくり休みや」
「はーい」
なにもかもが新鮮で楽しい。今日の初めてのワンマンライブだってそう。本気で心の底から楽しいって思えたし、いつも来てくれるファンの人とも少し長く話せた。こういうのはできなかったから、ミアシスの成長にはいいことだと思う。ほかのメンバーはどう思ってるのかわからないけど。
とりあえず、家に帰ろうか。やることがいっぱいたまってる。




