27:バースデートラップ
『あなたが家を出てからあっという間に3年目を迎えました』
ここを読んだだけで、ピンとくるメンバーがいた。さすがだね。と思いながらも、手紙を読み進めていく。
『あなたが家を出てからというもの、家の中が広く感じたのは気のせいではありませんでした。心のどこかにあいた穴。時間が経つにつれて少しずつ埋まってきたような気がします。「夢を叶えたいねん!」そう叫んで高校を選ぶとき、よくケンカしましたよね。でも、本当にダンサーになったあなた。夢はかなえられたんじゃないですか?これからまた離ればなれの日々が続くのは寂しいものですが、少し早かった巣立ちということでとらえたいと思います。 あっ、そうそう。今日は翔稀の誕生日やったね。誕生日おめでとう。素敵な仲間たちと素晴らしい誕生日を過ごしてください。しんどいこともつらいこともいっぱいあるかもしれませんが、素敵な人生を過ごせること、信じています。 翔稀の母 野村裕子』
そう。今日のライブは翔稀の誕生日でもある。それをしって、わざわざ田村さんが翔稀の実家に手紙を送り、返答を書いてもらった。
そうとも知らない翔稀は赤面している。
そんな翔稀を横目に、手紙を静かに読み上げて、次の曲に入る曲振りをする。
「翔稀、ハッピーバースデー!」
私の声を合図にまた音楽が流れ出す。今度の曲は、翔稀以外の4人で歌う誕生日を祝う曲。
ここからは打ち合わせ通りに進んでいく。
翔稀にはずっと隠れて練習していた。
サビ以外は4分割でそれぞれソロで歌う。
翔稀は唖然として、直前に〈君のハートはインマイストマック〉の立ち位置で立ちつくしている。
まぁ、無理もないか。なんにも知らないんだしね。
歌い終わる3フレーズくらい前にクライマックスの準備。本来なら歌詞もあるんだけど、歌うのが恥ずかしいというのが本音。
だから、話して盛大に祝おうかって話になって、歌い終わり直前に4人全員で「ハッピーバースデー!」と叫んで一気にクラッカーを鳴らすように感じにした。
「翔稀!」
『ハッピーバースデー!』
4つのクラッカーが鳴る。
ハンドレスマイクを使ってる由佳と沙良はタイミングよく、ハンドマイクを使ってる私と亜稀羅は少し遅れてクラッカーが鳴る。
「なんか照れくさいな。けど、ありがとう」
「そしたら、ミアシスの最年長になった翔稀兄さんからひと言!」
「おいおい、いつもしゃべらねぇ亜稀羅が言うかよ。まぁええわ。えっと……。こういうときって何話したらええん?」
目線がこっちに来るけど、あえて後ろを見て受け流す。そうするとあきらめたように前を向き直し、ハンドレスのマイクを口元に近づけてしゃべり始めた。
「えっと、何も考えてへんかったし、自分が今日、誕生日ってことを忘れててめっちゃびっくりしてるんですけど、こんなヤンチャなメンバーがいたからこそ今日みたいに盛大に祝ってもらえたと思ってます。ほんまにありがとう。えー、まだ結成して半年もたってへんし、これからまだまだ伸びしろのある野村翔稀をよろしくお願いします!」
きれいにまとめたように見えるけど、翔稀一人だけが飛び出した感じ。
「翔稀お兄ちゃん一人だけじゃなくて由佳らミアシスやろ?翔稀おにいちゃん一人で頑張れるわけないやん」
由佳の大阪らしい鋭い突っ込みが入る。初めてライブでメンバーの突っ込みを聞いた気がする。今までシャイだったからねぇ。年下二人もものすごい積極的になった。
私にとってはありがたい成長。いつまでも私一人でしゃべってるわけにもいかないから。そろそろ成長してほしいなぁ。とか思ってた時期だったから、この成長はうれしい。
「はいはい、わかったよ。これからミアシス一同、もっともっと頑張っていきます。皆さんの応援が本当に力になります。どうぞこれからも、成長していくミアシスだけを応援してくれたら幸いです。……ウソです。ほかのアイドルグループさんとともに切磋琢磨して成長できたらと思います。今日は本当にありがとうございます!」
湧き上がる会場が静かになるのを待ち、口を開いた。
「そうしましたら、長丁場お疲れ様です。名残惜しいんですけど、ミアシスのライブは次の曲が最後になります!」
場内からは『え~っ!』という声の大合唱。
「うちらかてめっちゃ楽しいのに終わりたないよ。もうちょっと遊びたいし、もっと踊りたい。けどさ、この後特典会もあるんやし、そこでいっぱい話そうや」
沙良もトーク力上がったもんね。ペラペラものをいうようになった。
「さぁ、そうしましたら、ミアシス最後の曲は、宇宙初披露の曲になります」
『おぉ~!』
さっきから反応の一つ一つが大きすぎてしゃべりにくい。けど、我慢しようか。
「ミアシスは来月の23日にニューシングル〈仮面舞踏会〉をリリースします。その表題曲の〈仮面舞踏会〉を披露させていただきます。聞いてください。〈仮面舞踏会〉」
中世をイメージしたようなこの曲。山添さんが「せっかくだからワルツのステップに挑戦してみよっか」といったのが、この曲を難しくした理由。
ただ、ボーカル陣はそんなことを頑張ってもできないのは山添さんにはわかっていたみたいで、ダンサー陣の振り付けに課した。
ダンサー陣もやったことのないステップに大苦戦。形は出来上がっていたものの、満足度が異常に高い3人。そこからステップだけを1ヶ月以上練習していたそう……。吐き気を覚える。
でも、撮影までに見せても恥ずかしくないレベルまで持ってきたんだからすごいよね。
軽やかなメロディーが流れ出すと、私の歌い出し。
ライブも終わりかけって言うのに、まだ透き通った声も出るし、暴れられる元気も残ってる。
月明かりに照らされ
君はドレスアップ
いつしか君がパーティの主役さ
踊ろうか 飲もうか
夜が明けるまで歌おうか
鳴り続ける音楽に身を任せる
サビを歌い切れば、次は亜稀羅から。
交互にそれぞれのパートを歌うようにして曲が進んでいく。
途中で気づいたけど、照明が明るくなって、本当に教科書で見たような中世をイメージした雰囲気になってる。
最後だけど、テンションを最高潮にあげていく。ただ、マックスにすると雰囲気が出なくなるのはわかってるから、少し控えめに。
ニューシングルの表題曲を歌い切り、今度こそ本当に終わり。
なのに、まだ物足りないと『アンコール』という声と手拍子が鳴り続く。




