26:こけら落とし
そして、気付けば、開場の30分前。輪転を回してそのまま置いてたミアシス通信を持って出入り口付近にまとめて置いた。
もともと狭い歩道の近くに建てられたミアシスマジックホール。
菜乃葉に見せてもらった前売りチケットには会場の時間が10分ほど遅く表示されていた。田村さんに聞くと、ミスじゃなく、あえて、この時間にしてスムーズには入れるようにしたかったらだそう。
それでも、さっき倉庫から窓の外を見たけど、すでに敷地に沿って30人は並んでいた。
「田村さん、すでに外、40人くらい並んでいましたけど、大丈夫ですか?」
私が確認した時より増えている。それほど楽しみに待ってくれているのか。
「思ったより多いな。三宅さんと金山さん、外に行って、外にいる全員をCフロアに誘導してください。戸山君はCフロアとBフロアを仕切ってる扉を外してCフロアに誘導した人たちを整理番号順に並ばしてください。開場の時間を5分遅らせてから入場させます。初めての取り組みであたふたしてるところ申し訳ありません。私予測が甘かったです。少し早いですがお願いします」
『お願いします!』
バイトの人を雇わないと運営していけないことはわかってる。私たちが出るとパニックになることはわかってるからの対応だろう。
早めに一部開場したマジックホール。徐々に人の声で溢れてきた。私たちは我慢して大ホールの入り口で待っていた。
時間が近くなったのか、無線でマネージャーからの指示が。
『それじゃあ、時間になりましたので、大ホールへの誘導を整理番号順にお願いします。ミアシスのメンバーはチケットの半券と通信の引換を忘れないようにお願いします』
「はい」
無線を使うときは、リーダーをあらかじめ決めて置き、リーダーが無線に応えることになった。そうしないと、誰が何を言ってるのかわからなくなるから。
「お手持ちのチケットを見せてください。はい、ありがとうございます。こちらお渡ししますね」
そんな調子で15分間、半券をちぎってはミアシス通信を渡す。みたいなやり取りがずっと続いた。その間、誰もメンバーだっていうことは気づかなかったみたい。よくバレずに行けたなって思ってる。
開演15分前になると、入ってくる人は少なく、バイトの人の3人で回せる。お願いします。とだけ言って、急いで更衣室に入って衣装に着替えた。
みんなが着替えてメークアップもしてきて、ステージ袖の階段下に集まった。
「時間ないからさくっとミーティングするね。ミアシス初のワンマンライブです。緊張でいろいろやばいかと思うけど、楽しんでいきましょう!もう昔と違うから、間違えた時のごまかし方も覚えたと思うし、とにかく笑顔で行きましょう!行くよ!ゴーハイゴー!」
『ウィーアーミアシス!』
叫んだあとにハイタッチして本番に備える。
ただ、今日は司会・進行が田村さんじゃない。主役の私たちが最初から最後までやりきり。つまり、ワンマンライブで田村さんは進行に関してまったく関与しない。まぁ、トラブルとか特典会は別だけどね。ほとんど私たちで。
さぁ、ここから私たちの出番。暴れようじゃないの。
「準備オッケー?」
「あぁ。どんとこいや」
翔稀を先頭に、メンバー全員が返事してくれる。個人的には沙良が心配だけど、まぁ、大丈夫でしょ。
「沙良、トップバッター避ける?」
「あ、アホ言いな。ここで逃げてどないするん?逃げてもなんもあらへん。どうせ、どのライブもこれから先はみんなうちスタートやねんから」
「さすが沙良。そうこなくちゃ。ずっと待ってたんだから。そういう沙良を見るの。なら、ミアシスマジックライブの始まりよ!」
ちょっと強がる沙良を見て、笑ってしまった。けど、これでみんなリラックスできた。ひとつ暴れようじゃないの!
私が照明席に向かって細いペンライトをくるくると回した。それを合図に場内の照明がゆっくりと落とされた。
そして、臨場感のある音楽が場内を支配する。そこから私がカンニングペーパー見ながらだけどを英語でしゃべる。6分弱ある曲で一人ずつダンスパフォーマンスしながらステージに出ていく。これがミアシスのライブの1曲目『カモンミアシス』。
順番にメンバーをステージに送り出して、最後の自分の名前を呼ぶ。そして、カンペを置いて、ステージに飛び出し、合わせられるところから合わせて、コールに備える。そして、そのままフィニッシュ。
途中から合わせるのは難しいけど、楽しんだら勝ち。間違っても何にも気にしない。
「みなさん、今日はミアシスの初めてのワンマンライブ『ミアシスマジックライブ、~The first time. We are MiASYS. Nice to meet you~』にお越しいただきましてありがとうございます!今日は皆さんで楽しんでいきましょう!よろしくお願いします!」
「さぁ、ミアシス初のライブということで、皆さん以上に興奮しているのがミアシスのメンバーだったりするこのライブ、ゲストも呼ばない、ほんまに小さなワンマンライブですけど、楽しんでいきましょう!」
最近、翔稀はMCに絡んでくるようになった。その辺は慣れたところもあるんじゃないかな。
「翔稀が珍しく前に出てきたところで水を差すようですけど、次の曲に行きたいと思います。続いての曲は、セカンドシングルのカップリング曲で『フライトゥブルーバード』を聴いていただきたいと思います」
まだ少し続けようと思ったんだけど、続ける前に音楽がなっちゃって、始めざるを得ない状況に。急いでフォーメーションを組みなおして歌いだしに備えた。
順調にライブは進んでいき、カバー曲を挟みつつライブは終盤戦に入ってきた。
「さぁ、そろそろライブも終盤戦に入るところですが、ここでとあるメンバーととてもゆかりのある方からお手紙をいただいております。それを少し読ませていただきたいと思います」
この企画は、私と田村さんしか知りえない企画で、実は今日までシークレットでひそかに動いていたもの。
メンバーの顔にも、頭の上にもクエスチョンマークがたくさん浮かんでいる。
そんなこともお構いなしに、私は話を進めていく。




