21:美桜さん、ブチギレる part 3
お昼休みに写真部の部長に話をつけていたから、放課後はスムーズだった。
写真部の部室は質素で、パソコンと机があるくらいで使ってる様子はなかった。
向こうは、私が怒っているのを感じ取ったらしく、小さな紙パックのジュースが机の上に置いてあって、私はイスに座らされた。
なんだか、こういう扱いをされると、逆にイライラするんだよね。同じ立場で話がしたいというか、これだと、様子を伺う気でいるのがバレバレ。
「ごめんね。早く帰りたいだろうに。私も早く部活したいから単刀直入に言うね。高崎君、なんでこんなことをしたの?」
「中川、これは全部俺の責任や。こいつは帰したってくれへんか?」
「なんで当事者を返さないといけないの?」
写真部の部長は、何かを隠すように、2年生の男の子を庇う。
「こいつ、大阪でトップの成績を取るバカ真面目なやつやねん。ただ、こいつ、メンタルめっちゃ弱いねん」
「そんなの私が知ったことじゃない。私は理由が聞きたいだけ。こういうことされて私はものすごい気分が悪いし、腹が立ってる。アイドルだからって盗撮していいと思ってるの?成績が学年トップだろうが、ルールを守れない人が許されると思ってるの?」
「そ、それは……」
庇うように前に立っていた部長だけど、1歩だけ後ろに下がった。それでも私は話を続ける。
「この学校で写真撮るときのルールって、相手に承諾をもらってからでしょ?この前、それで新聞部とけんかになったの」
「知ってるよ。部長の坂部から聞いたよ。ほとんどしゃべらねぇ中川がブチギレたって。あいつもその場にいたらしいしな」
「そこまでは知らないけど、事情は知ってるんでしょ?だったらなんで徹底させないの?」
「そ、それを林部長から直々に聞いて、怖くて声をかけられなくて……。それで、バレなきゃいけると思って」
もうびくびくしすぎて声も聴きとれない。
「だからってそんなことしなくてもいいじゃない」
「中川、大概にしてくれ」
そう言われた時には、私は大声をはりあげて、机の向こうにいる2人に怒鳴っていた。
「1ヶ月の間に何回言えばいいと思ってるのよ!話を聞いたなら同じことさせないでよ!私だって本当はこんなこと言いたくない!お願いだから静かな1年を過ごさせてよ!最後の高校生活なんだから。正直いって、こんなことで目立ちたくなかった。だから、最初の時の挨拶でも、親の都合って嘘ついたし、なにもかも隠してた。こうなることが嫌だったから!」
言い終わった後に頬を伝い冷たい何かがこぼれ落ちた。
「高崎、お前は先に帰れ。もういい。あとは俺たちで話す。まぁ、気にすんな。お前も悪いけど、止められなかった俺のせいだ。何かあったら俺が責任を取る。明日も気楽にこいや」
「……はい。すいませんでした。お先に失礼します」
引き戸が静かに絞められた後は沈黙が少し流れた。
「中川、すまなかった。ほんまに申し訳ないと思ってる。新聞部の件を伝えられてから緊急ミーティングを開いて伝えたんだが、俺の監督不足だ」
「監督不足って何をしようとしてたのよ」
「今年から生徒会の連中がミストーモリとかいうコンテストをやるって話で、エントリー者の写真撮影を写真部が頼まれたんだ?お前もエントリーしただろ?」
なにそれ?全く知らないんだけど。こんなばかばかしい企画があることさえ知らなければ、エントリーした記憶もない。
「ごめん、それ、私じゃない。そんなことあることさえ知らないし、エントリーした記憶なんかない」
「ウソやん?だって、エントリー用紙、コピーやけど、ここにあるで」
「ちょ、ちょっと見せて!」
林君からひったくったエントリー用紙の束。一番下にあるのを見つけると絶句した。
「これ、私の字じゃない。こんなに私の字。丸くない。それに、こんなバカなことしない」
「と、とりあえず、生徒会行くぞ!事情を話して確認してもらおう」
そうして、一つ上の階の生徒会室に飛び込んだ。
「村主!ミストーモリをやめろ!失敗に終わるぞ!」
「静かにしてくれないか。いいところなのに」
「そんなのんきにしてる場合じゃないんだよ。お前の適当な考えで被害者が出てるんだよ!中川はエントリーされてるけど、こんなのあることも知らなかったんだ!」
「じゃあ、このエントリー用紙は嘘だと言うん?」
「ええそうよ。私の子のノートがその証拠になるでしょ?」
そういって、引きちぎってきたエントリー用紙のコピーと自分の授業用のノート二冊とミアシス用のノートを机にたたきつけた。
授業用のノートは急いで書くことが多いからあまりに証拠にはならないと思って、たまたま持ち歩いてた、清書したミアシスのノートを叩きつけた。
「ほ、ほんまやん。何でこういうことが起こったんや?」
「お前がエントリーボックスなんか作って直接受け取れへんからやろ!おかげで新聞部と写真部が活動休止になるところやったわ!」
「そ、そうなのか?」
どうやら、こいつは生徒会長のくせして、とんでもない馬鹿なのかもしれない。
よくもこんなやつが生徒会長になれたな。
「知らねぇのか、くそ野郎が!うちと新聞部が盗撮して、活動休止になりかけてんだよ!お前のこの企画が無ければこんなことにはならなかったんだよ!」
写真部の部長は、私よりも怒りのボルテージが湧き上がっている。そんな私も負けてないけど。
「お、落ち着いてくれ。その話は岡田先生からちょっとだけ聞いた。あとでそれを話そう。で、ミストーモリのエントリーは偽が含まれてるってことか?」
「あぁ、そうだよ!やから、ハンドルを握られへんねんやったらやめろって言うてるねん!」
「私もこういう企画に反対ね。女の子は見世物じゃない。男子もやる話があっても反対ね。気持ちいい気がしない。するわけないじゃない。やる気のある子はともかく、私みたいに勝手にエントリーされてるの。企画するならもっと考えて企画を組みなさいよ。バカみたい」
私も正直な気持ちをこのバカに吐き捨てる。
「た、ただ、今すぐにはやめられへんから、エントリーした人に話を聞いてあまりにも偽エントリーが多いのであれば辞めるということでいいか?」
「たぶん、他から見て可愛いって思う子を中心に出てきて、自分がかわいいって思ってるブサイクだけ残るよ」
「ハハハ、中川って意外と毒舌だよな。とにかく、このままやったら生徒会に協力はできひんな。ほんまに倒れて終わるで」
毒舌なのはもとからだよ。なんて思いながらも、あえてスルーして、余計な怒りを溜め込まないようにする。
「中止にするか、開催するかは、先生と話して決めるから決定まで待ってくれへんか?」
「ほんなら、写真部も新聞部もどうするかまで決まりまでは写真は集めへんから、それでよろしく。ほな、俺、帰るわ。ほなね~」
「それじゃあ、私もレッスンあるから帰るね~。あなたとはいろいろ喧嘩したい気分だけど、時間が無いから許してあげる。次、私と何かあったら本気で怒るから」
最後に口調を強めて牽制した。
そして、生徒会室の扉を勢いで閉めた。
バン!と廊下に響き渡った。
これくらいかな。学校でマジギレした話は。
結局あのあと、生徒会がエントリーした生徒一人ひとりに回って意思を確認すると、とんでもない数の不正エントリーが多数発覚してミストーモリは中止決定。犯人まではわからないけど、とりあえず、生徒会や先生に提出するのは、本人が直接手渡しというルールが決まった。最初からそうすればいいのにとか思った。
で、私がマジギレした話。あまり面白くなかったでしょ?だから、あまりお勧めはしなかったのに。まぁ、いいや。ここから楽しい話を続けるから、最後まで見てよね。




