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19:美桜さん、ブチギレる

 デビューシングルの『そよ風に』はそこそこ売れる出だしでミアシスはスタートかなぁって勝手に思っていたんだけど、4枚の写真が私たちの知名度を爆発的に押し上げた。

 リリースイベント最終日のお昼の部。ダンサーのダンストラックがステージ上で披露されているときに、私がステージから離れてビラ配りしているときの写真。そして、ダンサーがダンストラックで暴れている写真、『そよ風に』の、たぶん、サビの写真。

 あのとき渡した人が何と国民的女優の虹谷理恵さんだった。


 デビューシングルのイベント最終日の夜。SNSに異常なほど通知が来た。

 見れば、見覚えのないツイートばかりで、写真のタグが付いたものがリツイートされたものが通知としてきただけだったんだけど、その通知だけで400件。そのあとに一番新しいツイートにコメントが60件ほど、『いいね』が100件もついた。


 それから私たちの生活は爆発的に変わり、イベント終了後からレッスンどころではなくなり、とある週は雑誌の取材が毎日あり、休日はテレビの収録、生放送に出演だとか。とりあえず、ものすごく忙しくなった。

 そして、マネージャーが、メンバーの体調のことを考えてくれたり、リーダーの私と相談して運営に支障が出てくるということで、五月くらいから雑誌の取材に対してはシビアになった。


 ファーストシングルのリリースイベントが終わった後に次のシングルをリリースすることを伝えられていて、取材や収録で思うように進んでいなかったから。

 平日は放課後になると、由佳が帰れる22時まで、休日は朝の9時から夜の20時までというかなりオーバーペースで振り付けの練習や、コーラスを入れながら振り合わせというものすごい忙しい日々を送った。(由佳は稀に帰れなくなって、私の家に泊まったりした)

 中でも私は部活をしながらだから、筋肉痛の中泳いだり、振り付けをしたりと、去年までだったらありえない日々を送った。


 そして、爆発的に人気が出てしまったことで、3年B組の中川美桜=ミアシスの中川美桜ということがバレてしまい、クラスや学年、クラブは大騒ぎ。

 菜乃葉発信じゃないから、菜乃葉は許してる。ちなみに、バレた時の彼女の顔は「あちゃー」みたいな感じ。

 バレたことによって立ち振る舞いはガラッと変わった。


 クラスや学年なら、休み時間に絡んでくる人が増えたけど、ほぼ笑顔でスルー。

 部活では、私を守るように菜乃葉をはじめ、部員が完全にブロック。泳ぐときは特別扱いをしてほしくないんだけど、私専用に一レーン。

 あと、新聞部という学校の行事とか載せる校内紙みないなものを作るクラブがあるみたいなんだけど、それにも追いかけられるようになった。

 新聞部の生徒とはこれに関して、本気で怒鳴り散らして生徒指導部も交えてキレて言い合ったほど。

 ……えっ?そこをちょっと見たい?

 私自身、そこはお勧めしないんだけどなぁ。そこまで言うなら、その時のことをちょっとだけ話すね。


 あれは、梅雨入りが発表されてすぐだったかな。梅雨らしくじめじめした日だったと思う。

 最近はまたミュージックビデオの撮影だったりで忙しい日々を送っていた。

 実は今日も放課後に少しだけ撮りきれていないシーンの撮影がある。

 ただ、やっぱり遠くに住んでる由佳のこともあるから時間は5時半から。それまではいつも通り部活をして時間をつぶすつもり。

 周りはそろそろ試合だということで熱く燃えている。菜乃葉を中心に。

 私ももちろん、その試合に出るつもりでいるから、急いで階段を昇っていく。


 これにはわけがあって、早く泳ぎたいって言うのもあるんだけど、最近、新聞部っていう部活があるらしいんだけど、どうも私が狙われているみたい。お願いなんてしてもないのについてくるし、それもしつこい。

 ただただ部活の風景を撮るなら全く問題ないんだろうけど、私個人を撮ろうとしてるからね。

 入ってこようとするなら、菜乃葉が完全ブロック。いれさせることはしない。けど、諦めの悪い人ばかりで、私一人でいつも上がるんだけど、それを待ってる。何を狙っているのかわからないから余計に怖い。

 いつも気分良く泳いでるんだけど、これに鉢合わせると気分が一気に悪くなる。

 今日こそあったなら一言でも二言でも言ってやる。そろそろ我慢の限界だ。


 そう思って、泳いで気分をリセットさせてプールから上がった。いつもよりちょっと長めに泳いだから気分は爽快。気持ちよくレッスンできると思った矢先……。

 耳のいい私は、吹奏楽部が放つ雑音の中にカメラのシャッター音が聞こえた。

 たった1枚だったけど、我慢のできなかった私は思わず音のした方へと走り出した。

 モデルのような体形を目指してる私は軽やかな足音を立ててカメラを持った男子を追いかけた。

 ただ、思ったより私の足が速かったのか、後ろを振り向いたら、再び前を見て全速で走り出した。

 でもね、私だってまだ本気は出していない。

 スポーツ少女の私が全力で走れば50メートルを7秒台で走る。長距離になればなるほど安定して走り、1500メートルを4分台で走る。

 その脚力を活かして男子を捕まえた。


「新聞部?」


 はい。とか弱い声で男子は言った。


「新聞部の部室に連れて行って。部長に話したいことがある」

「いや、今日は……」


 続きを言おうとした男子に睨みをきかせて怯ませる。


「何?いないって言うの?誰かいないの?」

「今日は誰も」


 いまにも消えそうな声でつぶやく。


「なら、ついてきて」


 そういうとおとなしく私についてきた。普通なら逃げると思うんだけど……。

 歩いていった先は生徒指導室。ここなら私の見方をしてくれると思ったから。それに、新聞部の顧問はいつもプールに泳ぎに来る岡田先生ってことを知っていたから。ついでに注意してもらおうっと。


「失礼します。水泳部の中川です。岡田先生いらっしゃいますよね?」


 入る前にドアを乱暴にノックして開けたところからすでにけんか腰になってる私。こうなればなだめられて落ち着くまでずっとこの調子だ。それは自分でもよくわかってる。


「騒がしいな。静かにできひんの?」


 乱暴にドアをノックしたせいか、一番近くにいた春川先生が驚いて聞く。


「この顔を見て静かにできると思いますか?」


 それだけ言って一番奥にいる岡田先生のもとへ男子の腕を引っ張りながら行く。


「先生!いい加減に新聞部の盗撮を辞めさせてください!菜乃葉から聞いたんですけど、新聞部が個人の写真を撮るときは本人の許可がいるんじゃないんですか?なのになんでこんなことさせてるんですか!迷惑してるのは私だけじゃないんですよ!」


 普段、ものすごく温厚なことで知られている私が、あまりの勢いで迫っていることに、部屋の中の音がすべて止まった。先生がパソコンを打ってる音も、他のクラブの生徒と顧問が話してる声もすべて音が止まり、私を見てる。

 それにも関わらず、さらに攻勢をかける。

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