0:オープニング
さぁゆっくりと歩いていこう
このミチ未来へと続くミチ
離れていてもずっとずっと
ともに歩いていこう
君とずっと一緒に
君とともに歩いていこう
フェードアウトして音楽が消えた静寂の場内に少し溜めを作ってから私の声で最後のワンフレーズをマイクに通して響かせる。
私も最後のワンフレーズを静かに歌い上げると、会場は爆発的に湧き上がる。私も自分でいうのもなんだけど、最高のライブだった気がする。
今までやってきたワンマンライブの中で最大級の広さでのライブ。ミアシスの第一の目標が今ここで叶った。
とにかく、ここまでの道のりは描いていたものよりも長かった。
最年長の私とサブリーダーの翔稀は22歳になり、他のメンバーも20歳になったり近づいていたりと、個人としても、ミアシスとしてもかなり成長した。
最年少メンバーなんか、最初にあった時は中学2年生で幼くて小さくて、ものすごくかわいかったのに、今じゃ、喋り方こそ変わらないけど、かなり大人っぽくなった。
ほとんど毎日顔を合わせていたから、あんまり気にせず何も思わなかったけど、ライブのMCの時に流れた昔の写真を見ると、やっぱり、みんな成長したんだと思う。
今日のライブの演目が全部終わったから、ステージ袖に引き上げようと歩いていると、さらにアンコールを求める拍手が沸き起こる。
引き上げても鳴りやむことはなく、ステージ袖の少し離れているところにいる私たちにもしっかりと聞こえている。
私たちがセルフプロデュースしたんだけど、プロデュース通りというか、打ち合わせ通りというか、まさに描いたとおりになっていて、少し焦っている自分がいる。
いつもなら逆で、私たちミアシスがミアシス専用のライブハウスでする定期公演では私たちが暴れて予想外の展開を巻き起こしていたから。
これが、今日はこうなっているんだから動揺が隠せない。
「なら、最後に打ち合わせ通りに『報告』をして、ライブを締めようか。それで、今日のライブは全部終わりだね」
あぁ。そうだね。
それぞれの思いを受け取った。まだ終わりたくない。ほかのメンバーもそんな思いだと思う。
「さみしいけど行こうか。今日、最後のステージへ」
私の声でミアシスのメンバー5人はまた華やかなステージへと足を向けた。
真っ暗なステージ。拍手はいまだに鳴りやまないけど、私たちの姿がちらっと見えたんだろう。やがて歓声に変わった。
そして、5人がステージに等間隔に並ぶと、スポットライトに照らされ、さらに歓声が大きくなった。
その歓声に応えるように手を振ったりして、今日のライブの3時間。離さなかったマイクを構えて、息をたっぷりと吸い込んだ。
「アンコールありがとうございます!ライブには曲!アンコールには曲!という方が大多数だと思うんですけど、今日は私たちミアシスから皆さんに大切なお知らせがございます」
熱かった客席に大量の氷を投げ込んだ気分。一気に客席が静まった。少しトーンを落としすぎたかもしれない。
ちょっと不安になった私の顔。強張ったまま固まっているのが嫌でもよくわかる。
怖くなり、静かにメンバーの顔を見渡す。向かって左から由佳、翔稀、私、沙良、亜稀羅の順番に並んでいるミアシス。それぞれの顔をゆっくりと見渡す。
一人一人と目が合い、みんな大丈夫というようにうなずいてくれる。
これだったら心配はいらないね。思い切って行っちゃおうか。
「私たちミアシスは、みんな中学生や高校生の時に結成しました。それがあっという間にみんな高校を卒業し、私と翔稀は22歳になり、沙良は二十歳、亜稀鑼は19、由佳は18歳と、みんな内面、外面ともにとても?大きく成長しました。そして、今年はミアシスがデビューして5周年というメモリアルイヤー。それも来月から六周年に入るので、今月で終わりなんですが、最終月にこんな大きい会場でワンマンライブができることを幸せに思います。こんなにうれしいお祝いはありません。出逢ってからは6年という月日が過ぎました。この6年、メンバーそれぞれに思い悩んだりとか、辞めたくなるとき、たくさんありました。そのたびにたくさん話してたくさん悩みました。でも、誰もやめなかった理由。それは『皆さんに笑顔を見せたい』『こんな小さなグループだけど、応援してくれる人に恩返しをしたい。できるまで辞めない』その思いだけはみんな一致していました。笑顔を見せること、応援してくれている人に恩返し、今日のライブでできたんじゃないかなと思います」
ここで一度言葉を切り、メンバーの表情をうかがう。……みんなやり切った顔をしている。当たり前か。今日のライブのこともあるしね。
「小さかったミアシスをここまで大きくしてくれたのは、ミアシスを6年というものすごく長い間ずっと応援してくれた皆さんのおかげです。皆さんがずっと応援してくれたおかげでミアシスはここまで大きくなりました。メンバーの夢だった収容人数5千人の会場で単独ライブをするという夢、皆さんに叶えさせていただきました。今日のライブ、ものすごく楽しかったです。ミアシスを代表してお礼を申し上げさせていただきます。本当にありがとうございます。 そんなミアシス。夢を描き続けるために、長すぎた第一章に幕を閉じます!……」
一度言葉を切って続けようとしたけど、その前に場内からの響く驚きの声や悲鳴に負けて言い出せなかった。
切らないほうが良かったかな?いや、私の言い方が悪かったな。ちょっと反省。
「ちょっと待ってくれよ。確かにさ、美桜は幕を閉じるとは言ったけどさ、まだ解散するとは言ってねぇよ。頼むからさ、話は最後まで聞いてくれ。ミアシスのファンはみんなってわけじゃねぇけど、ほとんど早とちりするんだから」
騒がしい場内を切り裂く翔稀の小さなフォロー。
目で翔稀に合図を送ると、首を場内に一瞬だけ振った。こういうクールなことをするから、翔稀は女の子のファンから人気があるんだよ。わざとかもしれないけど……。
まぁ、そんなことはどうでもいいや。翔稀がなだめてくれたんだから、私も続こうっと。
「確かに私はミアシスの結成当時から描き続けていた第一章に幕を閉じるとは言い切りました。ですけど、翔稀が言うように、解散、休止、離脱という言葉は何一つ使ってないんですよ……。勘のいい方はお気づきでしょう。でも、あともう少し静かにしていてください。もうすぐ言いますからね。……ミアシスは6年間という長かった第一章に幕を閉じ、充電期間も設けずに、今日から同じメンバーで、また皆さんとともに終わりの見えない第二章を描き始めたいと思います!」
その瞬間、また会場がドォッと揺れた。
やっぱりミアシスのファンは感情豊かな人が多いね。見ていて楽しい。
それに小さなことでも反応が大きいから私たちもやる気になる。そういうところが楽しいかな。
幕を閉じたミアシスの単独ライブ。
一緒に第一章の幕も閉じたけど、同時に私たちの新たなステージが幕を開けた。