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17:美桜さん、翔稀と暴走

「クールに参上!怪盗サラ!今日もあなたのハートを華麗に頂戴する。覚悟しな!」


 もういよいよ沙良のイメージがわからなくなってきた。それに、頭まで痛くなってきた。


「沙良おねえちゃん、いい?」

「あっ、ごめん。今日はよろしくお願いします!」


 会場、ドン引きだよ。これ、どうすんのよ。由佳もこうなればダダ滑りで続いていくんじゃないの?

 そんな心配も出てくる。


「はーい、ミアシスのキュートとダンス担当でみんなの妹の田沢由佳です。今日も皆さんの力で頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします!」


 由佳りーん!

 挨拶し終わったあと、由佳にもものすごい声が飛ぶ。

 由佳は少し恥ずかしそうに手を振って答える。でも、その顔はまんざらでもなさそう。

 さぁ、今度は亜稀羅。うまく行くのか。


「エスカルニックのギターボーカル、あっ、ちゃうわ。すいません。部活でバンドやってるもんで。改めまして、ミアシスのボーカル、金子亜稀羅です。ギターなら何でも任せてください!今日はないけど……。ツインボーカルの金子亜稀羅です。よろしくお願いします!」


 少し滑った気もするけど、大丈夫?失笑が起きてサブリーダーにバトンが回った。


「この空気、めっちゃやりにくいねんけど、亜稀羅どうしてくれるん?ほんまやりにくいなぁ。ふぅ。よっと」


 そういうといきなりバク宙してきれいに着地。アクロバットなんだけど、これ、自己紹介でする?普通。


「ミアシスのサブリーダー、野村翔稀です。今日はよろしくお願いします!」


 ついに私。どうしようかほんとに迷う。

 いいや。ここはシンプルに行ってやれ。


「えっと、この空気、どう処理したいいんだろうと困りながら、癖が一味も二味も強いメンバーをまとめている中川美桜、ミアシスのリーダーです。今日もこんなメンバーと一緒にライブをしていきますが、どうぞよろしくお願いします」

 ここはあえてシンプルに強弱をつけなかった。というより、このテンションで行ってダダ滑りするのが怖かっただけ。


「ってことで、ミアシスのデビューシングルのリリースイベントも早くも8回目を迎えまして、夕方から始まるライブが最後のイベントになります。最後のイベントに参加できないなって方はぜひとも見ていただきたいと思います。あっ、そうだ。今日はね、翔稀の暴走で会場がシュールなことになっていますが、普段はもっとおとなしくわいわい活動してます。そんなミアシスは今月の8日にファーストシングル『そよ風に』をリリースしてデビューしました。今日もたくさんのCDをご用意していただいてるみたいですので、さきほど披露させていただいた〈そよ風に〉という曲と、このあと披露させていただきます〈君のハートはインマイストマック〉という曲のどちらか、もしくは両方ともよかったなぁっていうのがあればぜひともCDをご購入いただいて、今日、ライブが終わった後に特典会を開催させていただく予定なので、ぜひ参加していただいたらなぁと思います。そしたら私しか喋ってないんで、他のメンバーの声も聴きたい方もいると思うんです。なので、由佳!次の曲紹介でお願い」


「えっ、由佳?あっ、えっと、そうしましたらポップな感じで〈そよ風に〉を歌いましたが、クールな感じでボーカルの二人が歌ってくれます。〈君のハートはインマイストマック〉です」


 気分は上がっていたけど、この曲で一気にクールにならなきゃいけない。

 この順番で持っていくのはかなり難しい。せめて真ん中くらいの曲だと思ってるんだけどね。


 なんとか気持ちを落として歌い切った。普段ならもう少し低い声が出るはずなんだけど、〈そよ風に〉のあとだと、キーを持っていくのが難しい。ただ、ここから上げていくなら、少し開けてリセットしてから出ないと。そのためにダンサーのダンストラックがあるんだけど……。


「さぁ、クールな感じで曲を披露させていただきました。どうですか?この2曲。ポップな感じとクールな感じ。そのあとはカッコイイ系に参りたいと思います。次は、今、後ろに並んでるダンサーの3人の曲です。曲と言っても歌うわけじゃないんですけど、3人のダンスパフォーマンスに驚いていただきたいと思います。続いては、ダンサーのダンスパフォーマンスです。どうぞ!」


 言い終わると重低音が響きだした。ダンサーが煽ってる間にボーカル二人は一度舞台袖に。そこからまた演技を見つめていた。

 この3人のダンストラックがたまんない。豪快に飛ばして、曲以上にダイナミックに見せる。

 ステージ袖で踊ってるダンサーを見たら、チラシとマイクを持ってステージ下に飛び出した。

 もちろん、目的はビラ配り。マイクは使わないけど、もしかしてってことないとは限らないし。一応ってことで。マイクはオフにしたままちょっとステージから離れたところに立った。


「すいません。チラシ、1枚もらっていいかしら?」


 どこから声をかけようか迷ってるとき、後ろから急に声をかけられた。振り返ると、まるでモデルみたいなサングラスをした女性が私の後ろの立っていた。

 ただ、どこかで見たことのあるような気がする。たぶん、気のせいだと思うんだけど、誰だっけ?

 まぁ、そんなことはどうでもいいか。ミアシスを一人でも多くの人に知ってもらいたいし。


「あっ、はい。どうぞ。ミアシスっていいます!今、そこのステージでライブをさせてもらってます。よかったら見ていってください」

「うん。見ていきたいんだけど、私、このあと仕事があるから見ていけないの。あなたみたいなきれいでかわいい子に会えたのに残念だわ。またライブを観させてもらうから、そのときはよろしくね。あっ、今日は写真はいいんだっけ?」

「はい。たぶん、今日だけになると思うんですけど」

「なら、一枚撮らせてもらっていい?あなたとの記念にしたいわ」

「記念って。こんな私でいいんですか?」

「私、あなたたちのデビューシングルが気に入ったの。さっきCDも買っちゃった」

「本当ですか?ありがとうございます!」

「特典会に参加できないのが残念だわ。サインをいただきたかったのに」


 なんだか、かわいそう。する時間はあるかな?時間があるんだったらしてあげたいけど……。


「私のだけになるんですけど、どうですか?ペンがあれば、今日だけ特別にサインさせてもらってもいいですけど」

「ほんとに?ちょっと待ってね。書くものがあったはず。……あった、ちょうどマジックがあったわ。時間もないから袋の上から出構わないわ」

「いいんですか?」

「いいのよ。そっちの方が大きくかけるでしょ?私、あなたのファンになってしまったみたい」

「わかりました」


 袋から手渡しされて受け取ったCDオンリーが収録されたジャケット写真のケース。まだ未開封でビニールに入ってる。

 開けるところに被らないようにサインを描いた。


「ありがとう。大切にするわ。あなたも頑張ってね。アイドル戦国時代って言われてるけど。応援してるから。最後に一枚」


 そういわれて顔を造る。スマホのインカメに納まった私。それじゃあ。と言って去っていった女性。

 あっ、名前を聞いて書くのを忘れた。まぁ、いいか。それにしても、ものすごくきれいな人だった。ただ、どこかで見たことのある人だった。

 だけど、今の時点では誰だったかわからない。思い出したくても、ダンサーのダンストラックがラストに入っていて、考える時間もなさそう。そろそろ戻らないと。

 誰か思い出せないままライブに戻った。

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