15:ステージの確認
2週間頑張ったご褒美に近いようなステージでのイベント。狭いところでしかできなかったから、ものすごくテンションが上がる。
できることなら、カップリング曲は外して、ポップな曲ばかりでライブをして締めたかったなぁ。まぁ、いずれそんな日が来るんだろうけど。
「そしたら、ミーティングして、リハーサルと行きましょうか」
それだけ言うと、円陣を組んで声を吐き出す準備をした。
「わかってると思うけど、デビューシングル〈そよ風に〉のリリースイベント最終日です。振り合わせの時にも翔稀が言ったけど、完璧にこなして成功して終わりましょう!行くよ!」
「っと、その前に」
思い切り叫ぶ準備ができていたところにマネージャーがミーティングに参加してきた。
「俺から一つだけ。今日のイベントは今まで写真撮影とか一切NGだったけど、最終日の今日はファンサービスってことで、写真撮影だけイチブオッケーってことになりましたんでよろしくお願いします」
おぉ。珍しいな。たしかに今までのイベントは撮影禁止で統一していた。なんの心変わりだろうか。
「イチブって、昼からのライブ全体ですか?それとも一部分って意味っすか?」
「おっと、そういえばそうだな。ライブから特典会に変わるときとか、リハーサルとか本番のフリートーク中とかだから、そこだけってことで。だから一部分だな」
「了解っす。知名度アップを狙ってるんすか?」
「それしかないだろ。オリエンタルライムはミアシスしかいないんだから」
まぁ、そりゃそうだ。田村さんは、初めてあった頃に、「新規事業として」って言ったもん。詳しいことは分からないけど。
「そうっすよね。あっ、なら、リハと本番の間、ステージ下に降りてもいいっすか?ファンサービスとして」
「いいけど、調子に乗りすぎるなよ。中にはサービスを勘違いする奴がいるらしいから。やるんだったら、チラシ配りと写真撮影と握手。この3つだけ。それ以外はNGで。あと、誰にでも平等にいくこと。それさえ守ってくれたら大丈夫」
ここはいつも通りにしたらいいということか。それなら問題は無いだろう。
「了解っす!ほないこか!」
「はいはい。行くよ!ゴーハイゴー!」
『ウィーアーミアシス!』
そんなことで始まったリハーサル。リハーサルに使う曲はデビューシングルの2曲。あとはネタバレになるから、リハーサルなしのぶっつけ本番に。
いつもと同じように、立ち位置をしっかりと確認してからリハーサルを始める。
ステージの感触、声の伸び方、振りの柔らかさなど。ただ歌ったり踊ったりするんじゃなくて、水泳のアップみたいに丁寧に。
それぞれ1番だけを歌って、リハーサルは終わり。あとは確認だけだけど、時間がもったいないから撮影のことだけ伝えようか。
「えーっと、そうしましたら、リハーサルはここまでです。あとは本番をお楽しみってことで、引き上げるんですけど、その前に、私たちミアシスもこのリハーサルで確認しておきたいことがいくつかあります。それを今からさせていただいて、13時からの本番にしたいと思ってます。で、今日はこのシングルのリリースイベント、最終日を迎えています。日頃の感謝っていうものあれなんですが、こういうフリートークや、ミアシスのメンバーが皆さんのお近くに伺うときとかこういうトークをしてる時だけ、写真撮影をオッケーにさせていただきます」
きょとんとしてる方が多い。
私たちに興味がないんだろうなと思いながら、話を進めていく。(一人でしゃべってるから余計に寂しい。)
「写真撮影に関して、少しだけ注意点があって、今はこうして私だけが喋ってますけど、こういうトークの時だとか、さっきも言いましたが、皆様のお近くに伺うときだけ写真撮影のみオッケーにしてます。写真はオッケーなんですけど、動画の撮影はご遠慮ください。そして、私たちを可憐に撮ったら『こういうグループがいたよ』みたいな感じでSNSとかにアップして拡散してください」
勢いで言っちゃったけど、一応、舞台袖にいるマネージャーに顔を向ける。
マネージャーは縦に首を振るだけ。どうやら大丈夫みたい。
「それじゃあ、ルールを守ってお楽しみください」
ここからはミアシスで確認。マイクを離して近くいた翔稀と話した。
「感触は?」
「悪くねぇよ。沙良の言う通り、詰めれるところは詰めて、大きく見せるところは広がった方がいいな」
「立ち位置のマーキング、調整する?」
「ボーカル陣が必要ならすればいいし、いらんねんやったらせんでええんちゃう?ダンサー陣は感覚で行くし。亜稀羅と相談してきたら?」
「ダンサーはいらないのね」
「今あるやつに合わせるだけ」
「了解」
翔稀と話した後は亜稀羅と話す。
「亜稀羅、翔稀が沙良の言ってた通りにするってさ。で、ポイントが若干変わってくるけど、マーキングしとく?」
「そう。ならあったほうがええんちゃう?それやったら感覚もうまいこと行くやろ」
「オッケー。それだけ。マネージャーに言って足してもらうね」
それだけ確認すると、マネージャーのいる舞台袖に。
「すいません、色を変えてマーキングを足してもらっていいですか?」
それだけ言って、沙良と翔稀の近くに行った。
「沙良、どれくらい大きく見せるつもり?それを聞いてなかったんだけど」
「そうやね。3列で2歩くらいとちゃうかな?それ以上行ったら、広がりすぎるやろうし。詰めるところは靴一足分でええ?」
「そうやな。それくらいがええんじゃねえか?1歩も詰めたらぶつかるぞ」
「それは俺の歩幅でいいのか?」
「はい。大丈夫っす。田村さんの足の幅で」
そこから沙良と翔稀の言う通りにマネージャーが動いていく。
「こんなもんでいいか?」
「田村さん、完璧っすあざっす。なら、美桜、一回地声で軽く合わせて降りるか」
「どの部分歌えばいいの?」
「Aのサビでいいだろう。あれ、俺と美桜は横一列の隣だろ?そこだけ確認しようぜ」
「わかった」
ってことで〈そよ風に〉のサビだけ歌って翔稀と距離の確認をした。
「サンキュ。これで行けるだろ。なら、ファンサービスに移るか。また喋ってくれよ」
「はいはい。たまには自分で話せばいいのに」
「だから何度も言ってんじゃねぇか。俺は話ベタだって」
「はいはい。わかったよ。言えばいいんでしょ、言えば」
少しあきれながらマイクを構えた。
「そうしましたら、これでリハーサルは終わりです。本番が始まるまでの十分弱。皆様のもとへミアシスがお土産を持ってお伺いします。ちょっとでもお話ができたらなぁと思ってます。 そうしたら、以上!」
『ミアシスでした!ありがとうございました』
最後を合わせていったんステージから降りた。




