14:イベント最終日
すたすたと歩いていく沙良についていき、クレープ食べて、時間いっぱいまでショッピングモール内を巡っていた。
「そろそろ行こうか。ありがとうな美桜」
「ライブなのにほんと元気だわ。ついていけなくなるかと思った」
「昨日もこんな感じやったけどな。ほかのアイドルのイベントとか時間いっぱいまで楽しんで、そこからライブみたいな感じやったから。当然っちゃ当然やねんな」
どうやら、沙良はいつもこんなことをするみたい。元気でいいんだけど、飽きてくるとかないのかな?
「なら、ステージに行こっか。そろそろ時間だしさ」
「そうやね。ちょうどええくらいの時間やね。ほんなら、パァーっと飛ばそうか」
「それもいいけど、今日も二部あるからね。後半バテないでよ。後半のほうがセットリストはしんどいんだから」
イベント初回となった水曜日は、時間の関係でライブと特典会が1回ずつしかできなかった。
だけど、そこからのイベントは土曜と日曜だけなり、ライブも特典会も2回ずつ、2部構成になった。
「そこまでうちもアホとちゃうわ。ちゃんといつも考えてあげてるところは上げてるんやから」
「じゃあさ、曲の合間の深呼吸は何なの?」
「あれは思った以上にあげすぎた時。それ以外は思ったより続いてるやろ?深呼吸するときは、ブレスのタイミング間違えて酸欠なってるとき」
「まぁ、水曜日の最初はね。よくあれだけ行けるなぁって思ったけど。正直言って、カップリングなんてサボってやろうかと思ったくらいだから」
なんなら、予定になかったMCを入れようとしたくらいなのに。
「美桜、さすがにそれは言い過ぎやわ。うちにそんな力ないし」
「でも、ダンサーのパフォーマンスの時、ぞろぞろと立ち見客増えたじゃん」
「あれはたまたまやわ。電車がちょうど何本か同時についてちょっとしとったから。たまたま人が流れただけやって」
「沙良が言うならそうしておこうか?で、今日はどんな形で集めようとしてるの?」
「どんな形って。そんなんあんま気にしてへんさかい、その時の状況によるやろ」
そんな話をしている間に集合場所にたどり着いた。見る限り、まだ私と沙良だけみたい。
「集合時間、過ぎてないよね?」
「まだやと思うで。だって今日は11時やろ?」
「あっ、やっと見つけた。おはようさん2人とも」
「あっ、おはようございます。田村さん」
私たち2人に近づいてきてるなぁと思っていたけど、どうやら、田村さんだったみたい。
「ほんならあとは由佳と亜稀羅と翔稀の3人か。いつも遅いからなぁ、この3人は。迷ってなかったええんやけどな」
「誰が迷ってるん?」
「翔稀やん。なんちゅうタイミングで来るねん」
「別に変なタイミングでもないやろ。普通に今来たし。あっ、マネージャー、おざーす」
「あぁ、おはよう。手首とか大丈夫か?前ひねってから安静にしてたと思うんやけど」
「寝起きやと思うんすけど、体が硬いなぁって思うくらいっすね。問題ないっすよ」
「そうか、頼むぞ。広いんだから派手に決めてくれよ」
「任せてください。やるときはやりますからね、俺は」
翔稀、やる気十分。どうしてもところどころにあるバク宙とかのアクロバットを決め切るつもりだ。まぁ、それでこそミアシスのダンスリーダーだ。
「美桜、今日は昨日みたいに観客を煽るのか?」
そういえば、考えてなかったな。コールで煽りながら目立たせることもできそうだけど、最初から行けば変な感じになりそう。
最初はクールに行って2回目に煽って終わらせようか。
「後半だけかな、煽るのは。頭から行くとドン引きされそう。それに、日曜日の昼下がりだから、子供連れが多いし、清楚に最初は行こうかなって。後半はカバー曲で上げられるから、あげられるまで上げていくつもり。最初は新人らしく行って、後半に勝負を仕掛けるといったところかな」
「なら、頭は亜稀羅と一緒に間違えずに頼むぞ。そこを外すとめっちゃダサいから」
「わかってるって。そんな失敗、私はしませんよ。緊張もある程度抜けてるし」
実をいうと、ものすごく不安。昨日も振りを抜かしてシュールなことになった。目立たないところで助かったけどさ。
「あと、カバー曲で煽れそうなところあるけど、どうするんだ?」
「これはボーカルに振りがないからそこは全力で煽るよ。煽れそうなところは全部煽っていきたいんだけどね、中途半端にはしたくないし、煽ってるだけで振り付けのできないボーカルダンスグループなんてしたくないしね。亜稀羅とはコール入れる曲は決めてる」
ただ、どうなるかは私もやってみないことにはなんとも言えない。今回も出たとこ勝負になるかもしれない。
「了解」
「今回はアドリブ入れないつもりだから、そこのところも安心してね」
「先に宣言すんのか。珍しいな。まぁ、そっちの方がありがたいけどな。美桜が何してくるかわかんぇし」
「あっ、曲間のフリートークは知らないよ。なんにも話してないし、台本もないから」
それを言うと、翔稀の額から汗が伝った。
「マジ?」
「ほんとに何もしてない」
「無しにしねぇか?フリートークは」
「なんで?」
「トーク苦手にしてんの知ってるだろ?」
そう。あれからほんとに治らないの。ほんとにトークは苦手なんだと思わせてしまうほどの話ベタ。
なんで関東から来た私がこんなにサクサクと行くのに、関西人はダメなんだろう?納豆とかだったらわかるけど。(そういう私は納豆がダメなんだけど……)
「おはようございまーす」
調子のいい声は由佳と亜稀羅だ。
「はい、おはようさん。これで全員だな。よし、控室に行くか。今日も礼儀正しくな」
『はーい』
5人の声がそろい、控室へと向かった。
そして、いろんな人とあいさつして、控室に入った。
「やっぱりひとつか。ならまた出るから早く着替えてくれよ。メークアップはそのあとでも間に合うだろ?」
「だってさ、由佳」
「はーい」
たいてい遅くなる原因は由佳なんだよね。理由は由佳の衣装だけやたら小物が多いから。
あとでつければいいのにと思っても、それができないらしい。見れば、春夏秋冬関係なしに着てパフォーマンスできるようにパーツになってる。時間をかけられすぎないけど、時間をかけないと着替えられない。
「今日も多いの?」
「みたい。寒いし」
若干、由佳のテンションもダウン。仕方ないんやけどね。と無理やりテンションを上げた。
「さぁ、早く着替えてメークアップしよう!」
そんな由佳を見てると、沙良に「早くせんと男子にまた遅いって言われんで」と言われた。
そうだ。私も早くしないと。由佳みたいに数が多いわけじゃないけど、気分的に早く着替えを終わらせたい。
まぁ、私は白のトップスに白のロングスカートだから、そこまで時間はかからないはず。今日はメークアップに時間をかけたいけど。
「どうすんの?つけるん?」
沙良がいたずらっ子のような顔で私を見てくる。
「何をつけんの?」
「うん?沙良に言われて、カチューシャを買ったの。そしたら、あまりにも似合いすぎたから今日つけてみようかな話になったの」
「え~、いいな~。由佳も欲しい~」
「それならあとで一緒に見に行こか。うちも欲しかってんけど、気付いたら美桜の見とってん。うちも後で買いに行くし」
「ほんまに?合間で一緒に行こうや」
結構テンションが上がってきたな。このまま上げ続けて、ライブに入ってほしいな。
そう思いながら買ったばかりのカチューシャを頭に付けた。
黒一色から色が増えたヘアスタイル。カチューシャをつけただけで一気に変わったような気がする。
「美桜~、いいか?」
翔稀の声だ。さすがに5分あれば着替えられるはず。
「由佳は?オッケー?」
「オッケーやで。今日は早いこといったわ」
「了解。翔稀、女子もオッケー!入ってもいいよ」
男子が入ってきて、そこから少しあわただしくメークアップ。といっても、ほぼすっぴん。ヘアスタイルをセットするだけだとか、少し顔の色を明るくしたりと。べたべた塗りたくるのは新人らしくない。明るく、元気よくありのままって言うのが新人らしくていいような気がする。
「どうする?メークアップしたら軽く合わせる?」
「そうやな。そのほうがええな。今日ラストやし、最後くらいびしっと決め切りたいしさ」
やっぱりそうだよね。びしっと決めて終わらせれば、次がいつになるかわからないけど、つながると思うし。
「なら、いつものようにボーカルと合わせながら行くか。亜稀羅、振りはコール以外間違えんなよ。見ててダサいぞ」
「わかってるっつうの」
今日はやたらと念入りに。シングルのA面、B面はもちろん、カバー曲も入念に確認していく。
「亜稀羅、昔行ったこと忘れんなよ。むずくてもひとつひとつ丁寧に止めろよ。見ててダサいぞ」
「はいよ」
「沙良、ダントラのラスト、由佳と少し距離詰めれないか?最初の時の癖が残ってるわ」
「でもさ、今日は広いんやし、わざわざ小さく見せんでもええんちゃう?うちは広げてもええ気はするけどなぁ」
そうか。前よりも広いんだよね。それだったら、ここで確認するよりも、現地で確認する方がいいのかもしれない。
「どう見えるかはさ、リハの時にマネージャーに動画を撮ってもらわない?それか諦めて今まで通りいくか。たぶん、動画撮ってもらった方がどういう風に見えてるのかわかると思うんだけど……」
「いや、マネージャーもいろいろ仕事あるから無理じゃねぇか?それに、ステージは俺たちに任されてるしさ」
「ならさ、大胆に見せるところは大胆に見せて、大きく盛り上げるところは広く使おうや。たぶん、そうした方がええと思う」
「ならそうしよっか。最高に盛り上げて、最後を締めようか」
そこからは気になったところを微調整。それが黙々と続いていき、気付けば、リハーサル15分前。全員すでに汗だく。集中してやりすぎているような気がする。
水分補給をして、汗をぬぐってるときにマネージャーが入ってきた。
「よし。そろそろ行くか。今日も頼むぞ。特に子供連れが多いし、何で知ったのかわからないけど、若い人も多い。それもみんなと同い年くらいの子が。見せつけてファンにしてくれよ」
『はい!』




