13:美桜さん、可愛くなる
4月8日から始まったミアシスのデビューシングルのリリースイベント。5回目の今日でいったん終了。
イベントの反響は大きく、私の予想をはるかに上回っていて、私たちがいい意味で困惑しているほど。
まだ街を歩いて声をかけられるといったことは少ないんだけど、ライブ終了後の特典会に来てくれるお客様は日を追うごとに多くなっていった。
ありがたいことなんだけど、飽きられて終わりみたいな雰囲気だけは避けたいと思ってる。
こういうのって必死の努力とパフォーマンスが重要になってくるのかな。
私も何かアクロバットなことしてみたい。関節の節々は柔らかいから、それを活かしてみたいけど。
まぁ、それは次のシングル以降に頑張ってみようかな。そんなことしても意味ないことはわかってるんだけど……。
さぁ、それよりも、最後のイベント。日曜日だから家族連れを狙い昼から二部構成。
やましい気持ちはないんだけど、少しでもミアシスって名前を憶えてまたライブにイベントに来てほしいというのが本音。
ラスト、頑張るぞ!
ラストの会場は今までよりも広くて広場のほとんどからステージが見えるようになってる。こういうタイプのところは初めてだから緊張する。
あとで相談して今日はどうするか考えようか。カバー曲も考えてるからそこまでやってる時間はないかもしれないけど……。
電車に乗って一人で会場に向かう。まだ下見をしてないから少し早めに出て確認する。
聞いたのは沙良からだし、私自身でまだ見たわけじゃない。自分で先に確認してイメージを膨らませて動く方が私的には楽。
ただ、知らない場所で迷子癖だから、乗り換えのアプリだったり、地図のアプリは必須。
地元の沙良が言うには、出口さえ間違えなければ大丈夫らしい。けど、沙良はいたずらっ子。本当のことを言うときと、ウソを言うときがあるから、どっちが本当なのかわからない。
ただ、今回は本当のことを教えてくれたみたい。出口の番号も、出口から出て一本道だということも。
とりあえず、下見をしながらメンバーを待とうか。
ステージは私の歩幅で端から端までが30歩。で、だいたい18メートルほど。
長さ的にはちょうどいい。端の2メートルほどは照明があるから使えないけど、ちょうどいい感じ。幅も10歩と広い。最後にこんなところでできるのは本当にうれしい。
「美桜~」
ステージの周りをさりげなく歩いていると、私に駆け寄ってくる人物が。沙良だった。
「おっはー」
本当に元気。ライブでテンションが上がるのはわかるんだけど、さすがの私でもここまでは行かない。
「ほんとに元気だね。沙良は」
「だって最後のライブやで。テンションが上がらへんわけがない。それに、こうしとかんと、素直な気持ちでライブに入られへんし」
たぶん、由佳も同じ気持ちで私に言うんだろうな。「これがいつもの由佳だよ」って。
「で、沙良は何してたの?」
「ステージの下見。どれくらい使えるんかなって」
やっぱりそうだよね。下見はやっぱりいるよね。
「沙良はさ、このステージ見てどう思う?」
「どう思うって?」
「踊りやすいとか、移動しやすいとかあるでしょ?」
「まぁそうやね。今までで一番やりやすいんとちゃう?一番最初のあのステージから始まってるんやで。あれを考えたらこんなステージはご褒美でしかないやろ」
「そうだね。だからウキウキしてるんでしょ。こんな大きなステージでできることに」
「ものすごくね。 あっ、見て。またあの子来とるで」
私もさらにつられてその子のほうを見る。
まだあどけない雰囲気に包まれてるけど、ネックレスにちょっとビジュアル系な格好をした男の子。年齢は由佳に近い気がする。
「よく覚えてるね」
「毎回最前列のセンターで見てくれるから覚えちゃった。毎回特典会にも来てくれるし」
「もしかして沙良のファンの子なんじゃない?」
「まさか。ほんまにそうやったらええねんけどな。そや、まだ集合時間まで時間あるさかいに、ちょっと買いもんせぇへん?うち、ちょっと欲しいもんあんねん」
「いいよ別に」
沙良が向かったのは雑貨屋。男の子っぽい沙良には失礼だけど、似合うのかなって思うものばかり置いてる。
ボーイッシュな沙良がアクセサリーね。ベリーショートの髪を編み込んで、ワックスでガチガチに固めてる沙良がアクセサリーか。でも、ものによったらかわいいかもしれないね。
「美桜もレッスンで使うカチューシャ、新しいのにしたら?黒一色で可愛らしないやん。いつも思うけど、風呂上がりみたいな感じになってんで」
「う、うるさいなぁ。別にいいじゃん。シンプルイズザベストでさ」
「シンプル過ぎてもダサいで。せっかくさ、華の高校生がするもんちゃうで」
沙良が言うことはわかってる。だけどさ、飾ろうとして、逆にダサくなるもの恥ずかしいじゃん?それが嫌なんだよね。
でも、全部100均で手に入れたものがから少し奮発しておしゃれなもの買ってみようかな。
「美桜やったらこれがええんとちゃう?」
沙良に見せられたのは真っ白なカチューシャ。サイドには真っ白もバラの飾りが。
「沙良は私にこれをつけてほしいって言ってるわけ?」
「だって美桜にお似合いやん。清楚な感じに、ショートヘア。かわいいやん。ちょっとつけてみてや」
押し付けるような感じでつけさせられたカチューシャ。鏡で見ると、思ってたよりかわいい。思わず自分でも照れてしまう。
「やだ~、美桜かわいい~。こっちのほうがよっぽどかわいいやん。美桜、買っちゃいなよ。絶対、衣装と合うわ」
確かに。それは思うかも。今までこんなことしたことなかったから、なんだか新鮮。
思わずつけただけで気に入っちゃったこのカチューシャ。勢いで買っちゃったけど、マネージャーとかに止められないんだったらつけてイベントしちゃおう。
「よし、美桜がかわいくなったから、あとはクレープ食べるで。ついてきてや」
沙良はそんなことを考えていたのか。なんだか、沙良の意外とおしゃれ好きについて行けそうにないな。




