128:悩み
「おっ、戻ってきたね。ってか、顔、暗くない?橋爪さんと相談してまた悩み事増えた?」
やっぱり悩み過ぎたのかな。ただ、誰にも相談なんかできない。
橋爪さんだって、いろんなことを考えてグループを運営している。さすがに私ばっかりわがままを言ってられない。
いつも、私がミアシスの活動中心で日々を過ごしているせいで、サンシャインの活動にはみんなより関わることができていない。それは、事務所同士の契約ということもあるけど、やっぱり、みんながサンシャインの中でいろいろできることが増えるなかで、私だけが取り残されているようにも感じる。だからこそ、こういう日にどうにかして追いつきたい。
「いえ、大丈夫です。私は私らしく頑張りますから。ご心配おかけしました」
「そう?ならいいけど……。よし、それなら続けましょうか。先に、竹田さんは……」
無理しすぎなのかな、でも、無理でもしないと、私が私でいられなくなる。とりあえず、この振りを完ぺきにするか。それが今、私のやるべきことだ。
「そして美桜ちゃんは、スローテンポだけど、曲自体はしっかりしているから、振り付けで気を付けるのは、指先までしっかりと伸ばしきること。そのほうが断然エレガントに見えるから。ただ、たまに意識が抜けて指先が丸まっていることがあるから気を付けてね」
明石さんからの指摘は確かに的を得ているところはあるし、自覚はある。ただ、久しぶりに言われたな。指先までしっかり伸ばすようにって。
ちょっと気持ちを入れ替えて、優雅に踊ってみるか。
確かに、明石さんが言うように、スローテンポでしっとりした曲。ただ、私の中では、サビで少し前を向けるように明るく感じる。それに合わせて振り付けも強弱がついている。
振りの強弱をミアシスの曲で例えるなら、〈アオスジアゲハ〉とか〈仮面舞踏会〉に近い感じかな。
ここまで強弱がはっきりすると、やりやすいものだけど、歌がない分、タイミングが取れなくなっていくのかもしれない。歌詞も早いうちに覚えてしまいたいな。
そんな調子で今日1日が終わった。忘れないうちに復讐しないとなぁ。
とりあえず、お母さんに連絡して、実家に送ってもらいましょうか。
本来なら、大阪の自宅に帰るんだけど、今週は土曜日もこっちでサンシャインの活動をするために、また東京に出てこないといけない。そんなことをしていたら、お金がかかって仕方がない。だから、土曜ないし日曜にサンシャインの活動があるのなら、有休をとって、ホテルも取って、活動に備える。
ただ、サンシャインの活動があれど、ホテルを取らないことはたまにある。というのも、萌奈ちゃんの家に泊めてもらうことが多いから。
それでも、今回は、萌奈ちゃんが明日の朝早くから別の仕事があるということで、さすがにそんなところに「泊って行ってよ」って言われても、ずうずうしく泊まる勇気はない。
それに、今オリエンタルライムでは、学生メンバーがテスト期間中ということもあり、普段の私なら、事務の仕事が残っていたりするけど、今回は有休をもらって、久々に地元の友達と遊びに行く。
萌奈ちゃんは遠慮しなくていい。とは言っていてありがたいところなんだけど、さすがに実家からのほうが遊びに行くのに都合がいい。ということで、久々の実家に帰ることに。
もちろん、実家には連絡を入れている。前は、春休み休暇でいきなり帰ったから、怒られたんだけど……。
とりあえず、ここから実家の最寄り駅まで行くとなると、難所は新宿だよなぁ~。毎度ながら迷子になる自信すらあるくらい。萌奈ちゃんに新宿の乗り換えができるまで一緒に送ってもらおうかな……。
ただ、今回は、万が一の時に歌えるようになるため。とか言って残ったからなぁ。明石さんを含めて、スタジオ兼自宅にしている橋爪さんしか残ってないのよね。
だから、ここは一人で実家の最寄り駅まで行かないといけない。
まぁ、とりあえず、実家に向かうか。
ということで、なんとか乗換をスムーズ(?)に済ませ、1時間くらいかかったけど、実家の最寄り駅に着いて、お母さんに迎えに来てもらった。
「ほんと、美桜、また痩せたんじゃない?ちゃんと食べてるの?それに、連絡も全くよこさないで」
またいつものように車内で始まるお母さんのお小言。まぁ、毎回のことなんだけどね。
「そんなことないって。ちゃんと食べてるよ。それに、忙しいだけでちゃんと元気だから」
「本当に~。過労で倒れないでよ。あのときは本当にびっくりしたんだから」
「はいはい、すいませんでした~」
「で、何泊するの?それを聞いてないんだけど」
「えっ、言ったよ。日曜の朝までって。今回も仕事だからさ」
なんか、こういうときだけミアシスのこともサンシャインのことも忘れられる。やっぱり親ってありがたい存在なのかも。
「あれ?そうだっけ?まぁいいや。で、ミアシスの活動はどうなのよ。うまくいってるの?この前のテレビでもすごい注目されていたけど」
「おかげさまでね。まぁ、どっちかというと、経歴に助けられたって言うのは強いと思うかな。それがなかったら、まだもがいてたかもしれない」
「根っからの水泳バカな娘がね~。ただ、逆に好きなことを仕事にできるっていいわね。苦労はしているみたいだけど」
「それでもいいよ。すごい人と仲良くなれたんだから。これもミアシスで活動することを決めたおかげだよ」
「苦労してても充実しているならそれで安心だよ」
そういいながらお母さんは実家に向けて車を走らせる。
ちらちら見える街灯がいつも見ているはずなのに、なんだかきれいに見える。
「窓の外ばっかり見てどうかした?」
そんな珍しい私を見たのか、お母さんが声をかけてきた。
「ううん。なんでもない。窓の外がきれいだなって」
「珍しい。今までそんなこと絶対しなかったのに。っていうか、絶対車の中でゲームしてたのに」
私もそんな記憶がある。この車の後部座席で移動中はずっとゲームをしていた。でも、いつからだろう。ゲームすらしなくなったのって。とりあえず、調子に乗って大人ぶってみるか。
「これでも大人になったからね。そろそろ二十歳になるんだし」
「私から見たら、まだまだ子どもだっちゅうの」
お母さんにド正論をかまされたところで、ちょうど実家に到着。器用にバックで駐車した後、車から降りて、実家に入る。
「おう。美桜、帰ったか。久しぶりだな。元気やったか?」
「それなりにね。お父さんも現役バリバリで」
「舐めるなよ。まだ定年じゃないからな。で、またこっちで仕事か?」
「まぁねぇ。私にもいろいろあるから。あっ、そうだ。お母さん、土曜なんだけど、帰ってくるの遅くなる」
「はいはい。そんなことだろうと思った。で、何時くらいになりそうなの?」
「実際に終わってみないとわからないけど、10時は回るかもしれない。ご飯は外で食べる予定にしてるから、用意してくれなくていいんだけど、鍵だけ貸してくれない?真夜中にピンポンで起こすのは申し訳ないし」
「ほんと、そういうところだけはお姉ちゃんと違ってしっかりしてるのね。とりあえず、今日は遅いからお風呂に入っちゃって」
「は~い」
とりあえず、お風呂に入っちゃうか。ミアシスの時と違って、レッスン終わりのシャワーを浴びれてないし。
やっぱり、ミアシスって恵まれてるよなぁ~。
おそらく、このお話の中で初めて両親が登場しましたかね?
今までずっと大阪でのお話でしたからね。
美桜が東京に出てきたときも、ほとんど実家には寄らないで、萌奈の家を宿にしていましたし、出てこないはずですよ。
美桜さん、もっと実家に帰ってあげてくださいw




