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11:イベント終わりに

 事務所に戻ると、時間は九時を回っていた。


「由佳、終電は大丈夫?」

「うん。11時にここを出たら何とか間に合いそうだし、いつものレッスン着じゃないからいつもよりは少しだけ長い時間は行けるはず」

「無理はしないでよ。帰れないってなったら明日が大変そうだし」

「由佳はそこまでアホとちゃうし!」


 ちょっと由佳をバカにしすぎたみたい。一番年下だけど、それでも私と4つしか変わらないのよね。


「まぁ、そんな話は置いといて、今日のライブの反省会しようぜ。まずさ、よかったところから行くか」


 なぜか翔稀が仕切り始める。ここも私の立場なのに……。まぁ、いいか。翔稀はミアシスのダンスリーダーだし。


「まず、私からいい?私自身が思ったことは、思ったより人が立ち止まってくれたこと。もっと少ないと勝手に思い込んでいた。けど、時間がたつにつれて立ち止まる人が多くなったなっていう印象。パフォーマンスは急に変えたし、まだできてない、足りてないところはあったと思うけど、課題が見つかったのも、集客力があったのも収穫だと思う。次の土曜日のライブはもう少し見込めそうな気がする」

「俺も美桜姉と一緒で、思ったより人が多かったことにびっくりした。しかも、ダンサーのパフォーマンスのところで余計に来たからそこにも驚きかな」


 たしかに、そこが1番大きいことだと思う。正直に言って、今のボーカリストの力だけではこういったことはできないはずだから。


「確かにそこは大きな手ごたえだよな。あまりにも予想を下に見すぎてたぶん、びっくりしたところはあったな。由佳と沙良は何かねぇか?」

「うちは、〈そよ風に〉の振り付け、直前で全くちゃうもんにしたけど、うまいこといったなぁって思った。もちろん、うちらのスキルが高いのわかってるし、レベルも高いからできたことやなって。やけど、やっぱり、不安なところがあったし、まだパーフェクトには程遠いと思うけど」

「確かにそうだね。でも、正直に言うと、由佳はあの振り付けに関しては、もしかしたらあのままでいいかもしれないと思うんだけど……」

「まぁ、由佳。それはまた今度にしようか。今はライブのよかったところと反省することを上げてるだけやから。ほかにあったりする?」


 私が思ったのこれくらいかな。逆にほかに何かあったかなと思うくらい。


「翔稀はなんかあるん?」

「いや、初めてにしては上出来やなぁって。たった1ヶ月でここまでこれたんは隠れた2人のスキルもあったからやと思う。その辺が毎日やってる分の収穫とちゃうかな」

「ほんならさ、逆に翔稀兄さんは今日のイベントの反省点はどこやと思うん?」


 なんだか、違和感がある言い方だけど、亜稀羅の他に男子メンバーは野村翔稀だけだし、翔稀のほうが亜稀羅より年上だから、兄さんと付けているのか。


「ステージの下見に行かれへんかったことやろ。ほんまのこと言うたら、変えた振り付けのところ、わざと離れとってん。タイミングも若干あわへんかったし、ぶつかりそうな気がして。もうちょっと時間があったらタイミングも完璧にできた自信があった」

「やっぱりそこだよね。時間が無さすぎたっていうのが一番考えなさないといけないところだと思う。今度は下見をしてから振り付けを変えるか変えないか決めようか」

「そうだな。今回は振り付けを完ぺきにしようと振りだけをメインにしてたけど、状況に合わせないと今日みたいにドタバタになるな」

「ボーカル陣はほかに何かあったりするん?」


 私は個人的に何かあったかな……特になかったような気もするけど、どうだろうか。


「ごめん、〈そよ風に〉のラストサビ歌ってるとき、振りをど忘れして勝手にちゃうことしとった」


 素直に自分がミスったことを報告する亜稀羅。ここで隠さずに言えることが次に繋がるだろうな。


「まだ歌ってるときやったらまだええわ。ボーカルって盛り上げるために、振り付けなんかせずに自分でできる範囲で盛り上げようとするから今日はええやろ」

「今日は最後の伸ばすところやったし、いきなりやったからちょっとびっくりしたけど、ど忘れせぇへんようにしてや。場所によったらめっちゃ恥ずかしいし」

「逆に美桜はなんかある?」

「私?いや、個人的に気になるところはないと思う。満足はしてないけど、翔稀と一緒で、初めてのライブにしてはうまくいったなって感じ。あとは個々のレベルアップって感じかな」

「だな。そんじゃあ、帰るか。美桜がきれいにまとめてくれたからこんなもんでいいか?」

「明日もみんな学校があるもんね。緊張の中でのライブで動きっぱなしで疲れてると思うし。ゆっくり体を休めてまた万全にして頑張ろうよ」

「それじゃあ、明日も頑張りましょう!ゴーハイゴー!」

『ウィーアーミアシス!』


 いつもの掛け声を私がかけて1日は終わり。あとは戸締りをして外に出る感じ。

 そういえば、事務所に戻ってきてから田村さんの姿を見てないけど、帰ってくるのかな?まあ、鍵を閉めてても、持ってるし開けて入るだろう。

 帰ってブログ書いて、ツイッターを更新して寝よう。明日はほぼ1日自由な感じだし、ゆっくりやることにしよう。

 大きく伸びながらフローリングに寝転んだ。


 ……本当にデビューしたんだよね。まだイマイチ実感が沸かないんだよね。なんていうんだろう。あまりにも物事が早く進みすぎて、ライブも実は予行演習だったりするんじゃない?とか思ったりする。


「美桜姉、帰らへんの?」

「帰るよ~」


 亜稀羅にせかされるように言われて考えることをやめた。あまり深く考えるのはやめよう。無駄に疲れちゃう。それで考えることをやめれたらいいのにね。

 起き上がってゆっくり胡坐をかいてゆっくりと立ち上がった。

 亜稀羅にナマケモノみたいって言われたけど、いつもみたいに頭を叩くとかそんなことをしなかった。それは私にもわからなかった。

 制服の入ったバッグをつかんで、スタジオを後にした。


 駅から私の家の帰り道。

 私は、亜稀羅にさっき思ったことを言ってみた。


「亜稀羅はさ、CDデビューしたことに実感って持てた?」

「急にどうしたん?」

「いや、なんとなくだけど思っちゃって。私にとっては立つステージが違いすぎてなんだか違和感があるのよね」

「そっか。美桜姉はあんま人目につくようなステージには立ってこうへんかってんな。俺は、部活が軽音やから何回もステージに立ったりとかしてるからそこまでではないけどな」


 そっか。亜稀羅は軽音楽部に入って、楽器やってるって言ってたっけ。人前に出ることもある程度はなれてるのか。そんなことを思いながら、次の質問をぶつける。


「見知らぬ5人がさ、集まってレッスンとか受けて練習して1ヶ月でデビューしたことは?」

「う~ん。どうやろう。部活でCDは出したことないし、ライブすることには違和感はないけど、CDデビューした!って言われたらちょっと『うん?』ってなるかな。大きな有名グループとかに所属してCDをリリースするなら違うやろうけど」

「そっか。亜稀羅でもそうなるんだ。なら、私が持ってる違和感って普通なのかな?」

「たぶん、ダンサー3人も同じこと思ってるんとちゃう?」

「なんかすっきりしたかも。ありがとね。亜稀羅」


 なんだか、少しだけ気持ちが晴れた気がした。やっぱり、誰かに相談するものだね。


「でも、美桜姉はすごいよな。あんだけ実感が沸けへんって言うてるわりには、台本のないのにすらすらってもの言いよるもん」

「そこよね。私もびっくりしてるのよ。たぶん、緊張ばかりの中でレースしてたから、そこでガチガチにならないことは覚えたかもね。それに、ここは大阪だし、何か変なこと言ってもすぐに突っ込んでくれると思ったら、だいぶ楽な感じはしたけどね」

「たぶん、それは無理かもしれへんな」

「何でよ」

「正直に言って、平常心に近い状態でおれたんは美桜姉だけやと思う。俺もいつもとちゃう雰囲気に飲み込まれて、立ってるだけでもしんどかったもん。足も結構意識せなすくんで動かれへんくらいやったし」

「そうなんだ。普段と状況が変わると、平常心にはなれないんだね。あんなステージに立ってると。これからも勉強だね。なにもかもが」

「そうやな」


 いろいろ亜稀羅と話していると、気が楽になってくるのを感じる。気のせいなのかもしれないけど、人の考えを聞いて考えるって、大事なのかもしれない。


 そんなこと言っても、なんだかんだ言ってても仕方ないのはわかってるし、これから先、何が起こるのか?それさえも見えてこない今後の活動。楽しみ八割、不安が二割ってところ。

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