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Go high Go! We are MiASYS!  作者: 黒龍
3年目
129/576

127:葛藤

 ……えっ?これって、私、相当ヤバくない?いや、いつもそうなんだけど、いつも以上に完璧を求められている気がする。


「というのも、私たちの体力を考えたら、ダンスフロアみたいなアップテンポの曲が増えちゃうと、どうもついていけなくてね。で、テンポを落としたら思った以上に重く出来上がっちゃって。でも、天国の4人にしっかり届けたいのよ。私たちは前を向いて進んでいるよって伝えたくて。だから、メインは私たちで歌わせてもらって、さらに強調したいところはバックコーラスで萌奈ちゃんと市原さんをお願いしたくて、美桜ちゃんと竹田さんは本来ならお休みにしようかなと思っていたけど、それもそれで少し寂しいかなって。だから、ダンス専任でお願いしたいって」


 なるほどね。だからか。私をダンス専任にしたのか。……えっ!?ボーカルじゃなくて、ダンサー!?


「ちょ、橋爪さん!私がダンス専任ですか!?最初のころにも言いましたけど、私、ボーカリストですよ!ダンスのスキルが上がったとは思いますけど、さすがにそこまで……」

「本音は、萌奈ちゃんをダンサーにお願いしようかと思ったんだけど、そうすると、バックコーラスで高音がいなくなるから、萌奈ちゃんの高音ボイスも捨てられなくてね。だから、美桜ちゃんには申し訳ないけど、ダンサーでお願いしたいの」


 ……マジか。こうなれば、やるしかないか。


「わかりました。声なら仕方ないですね。まぁ、私に萌奈ちゃんみたいな高音な声は出せないので」


 こういうときだけ、声がハスキーなことをちょっと恨んだりする。だけど、ミアシスのときだと、この声がものすごくありがたいと感じる。

 とりあえず、明石さんに振り付けをレクチャーしてもらって、身につけないと。


「み、美桜ちゃん、なにか怒気を感じるんだけど、なにか、あった……?」


 レクチャーしてもらってから、一人でもくもくと振り付けの練習をする私を見て、心配そうに声をかけてくれる明石さん。そんな明石さんに飛び切りの笑顔で答える。


「いえ、なにもありませんよ」

「ちょい、美桜ちゃん、その笑顔が逆に怖いって!ほんと、何があったのよ!」


 私はいつも通りだと思ってるんだけどな……。なにがそんなにおかしいのか……。


「み、美桜ちゃん、いったん休憩にしようか。動きが雑になってるからさ」

「というかさ、振り付け覚えるの、いつもより速すぎない?今回だけ簡単ってことはないでしょ?逆に僕が置いて行かれそうなんだけど」

「逆に二人だけだから、難易度は上げたわ。今までは市村さんがいたから、ある程度落としていたし。だから、今日の美桜ちゃんが怖いって言うのもあるけど、いつもより表情が怒ってるのよね。前を向くはずの曲なのに、なにかに当たり散らしてる。そんな風に感じるの」


 なぜだろう。そんなつもりはない。だけど、そう感じられてしまうって言うのは、たぶん、今回の曲のフォーメーションが絡んでいるのかもしれない。

 ただ、自分でもわかる。言葉の節々に棘が付きまとっているのが。だからと言って、人に向けるつもりはそうそうない。ただ、向いてしまっていたならごめんなさいって感じ。

 そんなことを思いながら、壁際に座って少し口に水を含んで、一息つく。


「美桜ちゃん、顔が怖いって。なにかあったなら、教えてよ」


 隣に腰を下ろした明石さんが声をかけてきた。


「いえ。特には……」


 でも、正直なことをいうと、橋爪さんには聞きにくいところを聞いてみようか。明石さんがわかるかどうかだけど……。


「明石さん。去年、橋爪さんと話しましたけど、もしかして、明石さんもボーカリストの私をダンサーに推しました?」

「……そうね。正直なことを言うと、私もボーカリストで選んでいると思っていたわ。逆に、ホワイトマーガレットのメンバーとして活動していた萌奈ちゃんをダンサーにすると思っていたの。だから、正直、私もビックリしたわ。それに、あまり大きな声で言いたくないけど、萌奈ちゃんって、意外と音痴でしょ?だからこそってところはあった。だから、正直なことを言うと、反対だったのよ」


 えっ、意外な反応。私はてっきり明石さんがダンサーに推したのだと思ってた。

 だとしたら、なおさら、橋爪さんは私をダンサーとして選んだんだろう。本当に謎だ。


「どうやら、怒気は消えたみたい。だけど、困惑な表情ね。悩み事を増やしちゃった?」

「いや。そういうわけじゃ……」

「わかるよ。その気持ち。慣れないところを急に言われると、そうなるよ。私だってそうだった。正直なことをいうと、ポップスやジャズとかラテンは専攻だけど、クラシックとかバレエが苦手でさ、だけど、とあるアイドルグループの振り付け師をしていたとき、曲調がクラシック系ばっかりでさ、参っちゃってさ~。さすがにあのグループのおかげで克服したけど、あのときはしんどかったなぁ」


 そういえば、最初にあったときにポップス、ジャズ、ラテンが専攻って言ってたな。だけど、そのすぐあとに、リバイバルライブの最初でバレエに近い振り付けを考えられたのって、そういうことなのか。と納得。

 ただ、元からダンサーの明石さんだからできたことなのかもしれない。たしかに、私もできることは増えた。だけど、私はまだダンス歴2年。明石さんみたいに器用じゃない。ただのクラッチプレーヤー。まだまだついていくこと、レベルを上げることに必死になりすぎる。

 またこうやって悩みすぎるのも私の悪い癖なのはわかってる。だけど、やっぱりなぁ。悩みすぎるなぁ。


「でもさ、正直に話すことも必要だと思うよ。橋爪さん、自分が思い込むとそのまま突っ走っちゃうタイプだから。ちゃんと物事を言わないと、取り返しのつかないところまで突っ走ってしまうから」

「でも、たぶん、私がボーカルに専念したいと言っても聞いてもらえないと思っていますけどね」


 橋爪さんにも林さんにも話しても聞き入れてもらえないことはないと思ってる。だけど、いったん言ってみるか。だけどなぁ。


「今なら、たぶん、橋爪さんも休憩してるんじゃないかしら?休憩室で」


 なら、いっそのこと言ってみるか。


「ありがとうございます。明石さん。ダメ元で言ってみます。少し外しますね」

「そう。わかったわ」


 そう返されて、部屋を出る私。ただ、出たところで、今日の朝のことをいろいろ思い返す。

 ……。やっぱり、難しいかな。

 だって、はっきり言ったんだもんね。萌奈ちゃんの高い声がコーラスに欲しいって。

 せめてもう一人ほしいよね、ダンサー。そうじゃないと、普段から5人組で活動している私からすれば、この人数分けがものすごい違和感。

 やっぱり、ダンサーの数が多いほうが私的には安心する。その点を橋爪さんはどう考えているんだろう。

 いろんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか、橋爪さんたちが練習している部屋を通過しようとしていた。


「中川ちゃん、どうかした?」


 フラフラ歩いていた私に林さんが声をかけてきた。


「というか、いつになく考え込んでない?やっぱりなにかあった?別れて練習する前からずっと険しい顔をしていたけど、もしかして薫に言いたいことある?」

「い、いや。とくになんでもないですよ。ちょっと振り付けのことでいろいろ考えてて」

「そう?無理しないでね」


 そういわれて、「はい」とだけ返してきた道を戻ってお手洗いに籠る。


 はぁ。やっぱり言えない。せっかく橋爪さんが考えたパフォーマンス構想。さすがに言いにくい。やっぱり、なんとかして我慢だなぁ。

 とりあえず、このままここにいても迷惑がかかるだけだし、振り合わせに戻ろうか。やることはできる限りやっておかないと。

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