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Go high Go! We are MiASYS!  作者: 黒龍
3年目
127/576

125:ヲタクと表彰式

 ただ、さすがに最初の100メートルはセーブしながらもみんなほぼトップスピードは保つか。

 別れるのは100メートルを過ぎてから。

 後半型の選手もいれば、行けるところまで飛ばして逃げ切りを図る選手もいるわけで、正直なことを言うと、レースは最後まで読めないところはある。

 そして、今言った最初の100メートルを通過。まだ原田選手がトップで身体ひとつくらい遅れて大迫選手。

 大迫選手に関しては、まだ様子見というところかな。


「最初の100は53秒前半か。相当ペースが速いで。絶対落ちてくるよな」

「かなりね。予選の時は最初の100を55で入っていたから。原田選手がこれより落ちないなら、日本記録は狙えると思う」


 そこからまた50メートルを泳いでまたターン。さらにグイと離した気がする。


「ラップで28!?全然落ちてへんやん。普通やったら29くらいで入るやろ?

「日本記録ならね。たぶん、ここから落ちてくるでしょ。さすがにスプリンターなんだから」

「やと思うんやけどな……。ただ、今年は何か起きそうやわ」


 沙良は何かを予感しているみたい。ただ、私もそう思って胸騒ぎがする。今年の日本選手権は何かが起こる。


『200メートルでの途中時間が1分51秒23と相当早いペースでレースを進めていきます。原田直哉選手』


 男性の声も冷静を装っているけど、中身はかなり興奮しているな。いや、観客席もかなり興奮気味か。


「スプリンターやけど、なかなかのタイムやな……」


 沙良がポツリと呟いた。それもそうか。後続を5メートルほど離れている。しかも、モニターに映る日本記録のラインを身体一つ以上も前に出ている。


 相当早い前半を泳いだ結果、後半に少しばてたようで、ラスト100メートルの場面で日本記録から少し遅れ、ラストの100メートルもタイムを伸ばしきれず、日本記録から2秒ほど遅れてフィニッシュ。そして、大迫選手はさらに3秒遅れてフィニッシュ。

 それでも、一応気にしないといけないアジア大会とパンパシフィック大会の派遣標準記録は二人とも突破している。そこはさすがと言うべきか。


「さすがやな。後半さえどうにかすれば、日本記録は出そうやな」

「本当にね。でも、スプリンターがミドルでここまで来るとは思わなかったね。大迫選手がもっと来ると思ってたけど、原田選手の勢いについていけなかった感じなのかな」

「そこは本人に聞いてみなわからんな。とりあえず、金メダル一号は原田選手ってことやな」


 場内では原田選手のインタビューが始まっている。息を切らしながらでも淡々と答える原田選手はまさに冷徹な王子様。


「さすがやね。ロングでも出れそうやで、ほんまに」

「いやいや、無理でしょ。さすがに練習を積まないと。それに、イーブンペースで泳ぐ練習もしなきゃダメでしょ。来年じゃない?」


 ここからさらに女子の半バックと女子の半ブレが進み、それぞれトップの選手がアジア大会とパンパシフィック大会の派遣標準記録を突破してフィニッシュしていた。


「さて。ここからは私たちが選手たちをさらに輝かせる番だな。有終の美をもっと輝かせられたらいいな」


 私もそう思う。

 そんな話をしていると、私を呼ぶ声がする。


「そろそろやな、ちゃんと見させてもらうわ」


 そう茶化す沙良はニヤッと笑みを浮かべ拳を私に向けてきた。

 私もその拳に向けて軽くぶつけると、呼ばれたほうに向かう。


「すいません、お待たせしました」

「いえいえ、突然すいません。そろそろ出番ですので。打ち合わせの時にも伝達があったと思いますが……」


 最終確認をして、認識のすり合わせをする。

 私の認識がずれていなかったことに安堵するものの、ここから少しずつ私の心臓も音を立ててくるのがわかる。

 そして、場内では表彰の時のBGMが流れ出していて、少し懐かしくも感じた。


「それでは……」


 そういわれて、先導の女性の後に続く。


『ただいまより表彰を行います』


 この声のあと、正面を向くと、場内ビジョンに私の姿が映し出されている。

 こうやってまじまじと見ると、やっぱり、少し恥ずかしいな。

 そんなことを思っていると、美祢さんの声が響く。


『男子400メートル自由形のメダルならびに副賞は、オリエンタルライム株式会社、ダンス&ボーカルグループ、ミアシスのリーダー、中川美桜様より贈られます』


 美祢さんのアナウンスを合図に軽く会釈をし、表彰台に向き直る。

 そして、先導の人に手を指しだされて3位の表彰台のところに。


『第3位、渡邊雄介君、大村スイミング』


 と、言われるところで、表彰ボランティアの人からメダルを受け取り、選手の首からそっとかける。


「お疲れ様です。おめでとうございます」


 と優しく声をかけて、おめでとうの気持ちを伝える。それを、2位の大迫選手と日本選手権を獲得した原田選手に同じことをする。そして、原田選手には副賞のぬいぐるみを渡す。

 これで、なんとか大役をやり切って、控え室に戻る。あとは、会長と沙良か。でも、さすがに会長は慣れているだろうけど、沙良はガチガチだろうな。


「お疲れさん。すごいな、やっぱクラッチやわ」

「素敵な表彰だったよ。お疲れ様」


 2人に労われて私はやっとホッとできる。そして、この真っ白な衣装も報われることだろう。


「お疲れ様、そして、ありがとう」


 衣装に向かってだけど、お礼を言った。


「ほんなら、うちの番やな。美桜みたいに行けるかな」

「リラックスしていこうよ。心からおめでとうさえ言えたらいいって。ミスってもそれさえ届ければ大丈夫だって」

「美桜がそういうんやったら……。とりあえず行くか」


 沙良は何か心に決めたみたい。凛とした顔で控え室から出ていく。


「続いて表彰を行います。女子50メートル背泳ぎのメダルおよび副賞は、オリエンタルライム株式会社、ダンス&ボーカルグループ、ミアシスの長谷川沙良様より贈られます」


 緊張気味に出た沙良は、私と同じようにカメラ目線で軽く会釈する。その姿を見て、なんとか行けそうじゃん。と思ってしまった。私も同じように思われていたのかな。なんて思ったり。

 そんな沙良は、少し緊張した面持ちで、プレゼンターの役目を終えると、ひときわ丁寧な会釈をして控え室に戻ってきた。


「あかん。マジで緊張したわ。でも、トップ選手にメダルとか渡せたんは、かなりの財産になるやろうな。たった一瞬だけやったけど、めっちゃ幸せやったわ」


 戻ってきた沙良の顔は、緊張と大役から解放されたのか、とろんと溶けている。こんな沙良を見るのもかなり久しぶりだな。そんなことを思いつつ、さらに続く表彰の式を見つめる。

 そして、会長がメダルと副賞を渡している姿を見て、さすがにやり慣れているな。と思いつつ、なんとか、初日が終わった。とやっと息が抜ける。


「ふぅ。なんとか終わった……」

「美桜、気を張りすぎやろ。どんだけ集中しててん」

「でも、もうちょっとかな。周りはもう少し仕事残ってそうだし。もう少し周りを見てからにしよう」

「せやな。うちらがさっさと撤退するわけにはいかんよな」


 ということで、私たちは何をするわけでもなく、会長が戻ってきて、しばらく場内の様子を眺める。


「これにて第94回日本選手権水泳競技大会、競泳競技、1日目の決勝競技を終了いたします。競技役員が退場いたします。拍手でお送りください」


 これでようやく終わりかな。私は明日もあるけど、今日よりはかなり気も楽にできる。あとは、帰って反省会だな。


「みなさん朝早くからお疲れさまでした。素敵な時間をありがとうございました」


 丁寧にお礼を言ってから、私たちは控え室に戻って着替える。


「あとはホテルに戻って反省会やな。たぶん、いろいろ出てくるんやろうな」

「翔稀がいろいろ言いそうよね」


 亜稀鑼もよね。とだけ返して、さっさと着替え、沙良と一緒に控え室を出る。


「お疲れさん。ええパフォーマンスやったし、表彰式もいい表情してたな。俺も一安心やわ」


 と、合流した田村さんと話しながら、スタンドにいる翔稀たちと合流。

 私からすれば、いつの間にスタンドに行ったんだ。と思いながらも、無事に合流でき、そのままホテルへ直行。


 そして、自由時間を設けた後、日付が変わる直前くらいで反省会を始める。

 もちろん、初めての会場・ステージだったということもあって、みんなの口からはもっとできたはずと、口にしていた。


 ただ、気になったのは、それ以外を翔稀が特に何も言わず、亜稀鑼がいろいろと口にしていた。それに、由佳もいつもより口数は少なめ。これが一番私を困惑させた。だけど、それぞれが思うところはあるだろうし、翔稀も由佳も何かしら頭の中で考えているのかもしれない。そう思うことにした。


 そして、話は明日のライブの話に。お菓子をみんなでつまみながら簡単にセットリストを確認して、見せたいところなどの要点の認識をすり合わせる。

 この話をしだすと、翔稀もいつもの調子になり、パフォーマンスリーダーとして手腕を発揮してくれる。

 ただ、時間は日付も変わろうとするころ。亜稀鑼も由佳もだいぶ眠そうだけど、必死に話しについてきてくれている。なんとかなるだろうけど、明日の朝、もう一度話をするか。

 そんなことを思って話し合いをして、男子を部屋から追い出し、眠りにつく。

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