10:特典会
デビューイベントのプログラムのライブは終わった。あとは、ビラを配って、特典会に入るのを待つだけ。
「ありがとうございました!ここからはしばらく特典会の準備に移ります。準備の間、私たちミアシスが皆さんのもとへチラシをもってお伺いします。どうぞ私たちから愛のこもったチラシを受け取っていただきたいと思います!そしたらひとまずここで私たちは引き上げましょうか。それじゃあ、以上、ミアシスでした!ありがとうございました!」
私が勝手にひとりで締めると、メンバー一人ひとりがステージから降りて、一度ステージ裏に戻る。
汗をかいたまま人前に行くのはどうかと思うしね。ダンサーに関しては3曲もぶっ通しで踊りっぱなしだったからかなり汗だく。ただ、息が少ししか切れていないところはさすが。スタミナのタフさを感じる。
「美桜、行くぞ」
翔稀にせかされ少し慌てる。本当だったらいつも逆のはずなのに……。なんだか悔しい。
ミアシスのチラシを適当に取ると控室を飛び出し、観客席に飛び込んだ。
やっぱり、ライブを見るだけ見て時間をつぶして帰ったという印象が強い。客席に残っていいる人の数はかなり少なかった。
それでも残ってくれている人を一人ひとり回って話してお礼を言って次に行く。それが20回くらい続いたのかな。中には、私も着ている制服が見えて少しヒヤッとしたけど……。そこはあえて顔に出さず対応した。ただね、同じ学年の人たちなんだよね。こりゃ明日から大変だ。
そして10分くらいチラシ配りをして、マネージャーからの業務連絡でステージに再びミアシスが集まり椅子に座らされた。
今からサイン会が始まる。これを前もって言ってくれるならまだしも、昨日に言われたらね。丁寧にしようとしてもかなり雑になっちゃう。
しかも、こんなことになるとは思ってなかったから、昨日考えただけでは到底時間が足りず、結局思いついたのは名前を英語表記にしてハートで囲っただけというかなりシンプルなものにたどり着いた。もう、これで行こうか。シンプル・イズ・ザ・ベストが私の中でのモットーだし。
座っている順番はミアシスの綴り順。だけど、私に回ってくるのは最後。回ってくるサインを見てびっくりした。ほとんど書くところがない。リーダーなのに、これじゃあ全く目立たない。一番目立っていると思うのは由佳と翔稀。二人ともプロスポーツ選手がするようなサインを描いている。しかも若干大きい。
私のサイン、空いたところにちょろっとしか書けない。これじゃあ全く目立たないな。好感度がいるのに。……よし、思い切ってリーダーって付け足しちゃえ。これで少しは目立てるはず。
そんなことを思って付け足したサイン。少し窮屈になってしまったのが少し残念。
気付けば、書いている時間よりも待っている時間のほうが徐々に長くなってきた。それでも時計を見るとたったの15分。それでもそろそろイベントは終わりに近づいているのかもしれない。
初日にしてはまぁまぁの出だしだったかも。少ないと勝手に思い込んでいたから。予想よりも多かったことにいい意味で裏切られた。
これからは土日が中心になるから、天気さえ良ければ、この気候でお昼間のイベントだからかなりの集客は見込めそう。
少しだけ私の中の予想を上方修正しても大丈夫だよね。初日がこれだけよかったんだし。
あとは、着替えて、ミーティングという名の反省会をして今日を締めくくろうか。
「そうしましたら、おあと並んでいらっしゃらないので、これにてミアシスの特典会、ならびにリリースイベントを終了させていただきます。そうしましたら、メンバー全員に一言ずつもらいたいところですけど、お時間もないのでリーダーの中川さんに一言もらって閉めたいと思います」
また無茶ぶりだ。しかも、今回も何も考えてない。……ベタに行くしかないかな。思いついたら何か付け足したらいいや。
「今日は本当にありがとうございました。ミアシス一同深く感謝するとともに、ミアシスを代表してお礼申し上げます。デビューしたばっかりのミアシス。これから大きく羽ばたいていきたいと思います。そのためには皆さんの力が必要です。卵から生まれたばかりのような小さなひよこのようなミアシスですけど、どうぞよろしくお願いします!今日は本当にありがとうございました!以上、ミアシスでした!ありがとうございました!」
最後は九十度に腰を折って深く礼。そして、控室に戻るとホッと一息。なんとかうまくいった。そんな感じがして少し安心した。
それじゃあ、私服に着替えて事務所に戻って反省会ってところかな。
衣装は白色のシャツに淡いベージュのスカート。シンプルな感じが私は好き。だからこの衣装、ものすごく気に入っている。けど、問題が一つ。私服も今日は似たような感じなんだよね。素材こそ違うけど、白のロングTシャツに青のジーンズ。
もちろん、おしゃれとは程遠いことは私自身もわかっている。水泳をやっていている分、おしゃれをしようと思うと、それなりにサイズが大きくなっちゃう。だから、服装はシンプルにして、アクセサリーで少し飾る。みたいな感じが最近は多い。
「美桜~。そろそろいいか?」
あっ、男子が更衣室の外から帰ってきた。
私たち、男女混合だから、更衣室が二ついるけど、そんなの用意されているわけでもなく、男子が外で着替えて、そのあとにメークアップをする形でメンバー一致。
私も着替え終わったし、見た感じ、沙良も由佳も着替えは終わっている。女子は大丈夫そうだね。
「ごめ~ん、もう大丈夫」
そういうと、男子二人が入ってきた。
「長いわ。五分位待っとったんちゃうか?」
「女子の着替えは長いの。学校の体育でもそうじゃないの?」
「まぁ、そうだけど……。これが続くのか~。絶対しんどいわ~」
「まぁ、いいじゃん。それより、早く帰って反省しようよ。由佳、帰れなくなっちゃうよ~」
そうだ。由佳はものすごく遠いところからスタジオまで通っているんだった。早くしないと本当に帰れなくなりそうな感じ。
私たちは深くお礼を言って事務所に戻った。




