117:しれっと
そんな時間も気づけば2時間も過ぎていた。遊菜ちゃんがそろそろチームのところに戻ると言ったからお花見もお開きに。
みんな大満足な顔で競泳場に戻った。
さて。……そういえば、朝に反省会ってしたっけ?……いや。してないな。夕方にもう一度パフォーマンスタイムがあるから、そこにつなぎたいというのはある。
「はぁ~、楽しかった。めっちゃ気さくな人やね、遊菜選手って」
「ほんまに。意外やわ。トップ選手ってもっと堅いイメージがあってんけど。ラフ過ぎてほんまに同じ人かと思ったもんな」
「遊菜ちゃんはそういうところあるからね~。私も初めてあった時は翔稀と同じ感覚だったもん。本当に高校女王なのかなって。対談の時はずっと楽しかったけどね」
「それは何よりで」
だけど、そういう翔稀の顔は満更でもなさそうだった。あの様子じゃ、堕ちたな。遊菜ちゃんのあのギャップに。なんて思いながらも、気持ちを切り替えてみんなに言う。
「そしたら、控室に戻って軽く反省会しようか」
「えっ?今からやんの?明日でもええやん」
「夕方にもう一回パフォーマンスあるじゃん。気になったことを話し合って、ちょっとでもいいパフォーマンスにしたくない?私は少なくともそっちのほうがいいかなって思ったり」
「それやったら、由佳、一個あんねんけど」
「とりあえず、先に戻ろうよ。ここだとあれだしさ」
ということで戻ってきた控室。もちろん、私たちが出たときのまま。ただ、衣装ラックが増えて、私たちの衣装がかかっていた。
「おう、戻ってきたか。どうやった?予選のレースは。見てたんやろ?」
不思議そうな顔で戻ってきた私たちを見て控室にいた田村さんが言った。
「めっちゃすごかったっす。美桜の解説付きでものすごいわかりやすかったっすよ。これが決勝やったらもっとすごいんやろうなってくらい予選から楽しませてもらいました」
「そうか。ほんなら曲に対してももっと熱が入るよな?」
「入ると思います。美桜姉の解説でシビアな世界ってのがわかったんで」
「それに、歌詞の意味も意外と深くて、由佳もビックリしたし。沙良お姉ちゃんと美桜おねえちゃんのはまる理由がわかりましたし」
「そうか。あれっ?沙良は?」
「あぁ、たぶん、この大会に同級生が出場しているみたいで、その同級生のところに行ってると思います。あっ、そうだ。沙良には遊菜ちゃんに会ったことは内緒でね?話したら拗ねそうだから」
あっ、そうか。と3人の顔が少しハッとした。
そりゃそうよ。遊菜ちゃんと2時間楽しく過ごしていた。なんて言えば沙良が露骨に拗ねるし、なんなら機嫌を悪くするかもしれないのに。
「逆に沙良が花見におらんくてよかったんちゃう?沙良なら大発狂やろ?ほんで話ならんやろうし」
「かもね。あっ、そうだ。田村さん、この衣装って」
「あぁ、たった数分のパフォーマンスタイムやったけど、場所柄、ジメッとして暑かったやろ?もう一回パフォーマンスタイムあるから、せめて控室におるときくらいピシッとしときたいやん?せっかくの場やし、卸したてやし」
「あ、ありがとうございます。そこまで気にしてなかったんで……」
「いいってことよ。気持ちよくパフォーマンスしてもらうのが俺の仕事でもあるし。やからと言って任されっぱなしになるつもりはないからな」
まぁ、そりゃそうよね。いつまでもこういうのにおんぶに抱っこじゃ、私たちも伸びるわけないし。そこは考えようね。
「とりあえず……沙良が戻ってくるまでステイか。まぁ、私が4時に戻って来てねって言ったから仕方ないか。とりあえず、自由にしてていいよ。寝ててもいいし、宿題とか課題があるならそれをしてもいいし」
ということで、沙良が戻ってくるまで自由時間。それだけ言って私は、プールのほうに近づく。
まだ3時半だけど、アップをしている選手が何人か確認できる。それぞれが自分の思うように泳いでいる選手もいれば、コーチやマネージャーにフォームを撮影してもらいながらダッシュで泳ぐ選手もいる。
「ほんと力感ないのにスイスイ進んでいくよね。こんな風に泳いでみたかったな。一回でいいからここで泳いでみたい」
「お前ならレースの決勝で泳げたら最高やろうな」
心の中で思っていたことだと思っていたけど、口に出ていたみたい。翔稀が返してきた。
「泳げたら最高だと思う。まぁ、夢のまた夢なんだろうけど」
そんなこと叶いもしないと思いながらまたプールのほうを見つめる。
……まだ私は未練を残しているのかな。レースに出ることに対して、たぶん、まだ残っている。でもどうする。泳ぐ時間なんてないし、会社員なら、マスターズかな。でも、エントリーをどうするかわからないけど、調べてみるだけ調べてみるか。
ただ、トレーニングはなまっている分、相当キツいものになったりするよね……。影響が出ないくらいにしないといけないのもあるけど、どうなるかは、もうなるようになるしかないかな。
「おっと。みんな揃ってるやん。お待たせさ~ん」
そんな調子で沙良がお気楽な状態で控室に戻ってきた。
「おっ、やっと戻ってきたか。とりあえず、反省会……というか、共有会するか。美桜の提案でこのあとのパフォーマンスタイムに繋げたいって話やし」
「そうゆうことね。オッケー。っていうか、うち的には自分のことで精いっぱいで考える余裕はなかってんけど」
「そういえば、さっき由佳がなにかあるって言ってたよね?なに?」




