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Go high Go! We are MiASYS!  作者: 黒龍
3年目
116/567

114:冷徹な王子様

『プログラムナンバー2番、男子400メートル自由形、予選1組の競技を行います』


 ここから男子か。4フリもレース展開が読めないんだよね。男子も全員が前半型に見えて、半分くらいは後半型もいるわけだし。抜け出したからと言って逃げきれるとは限らないし。

 アナウンスの後、笛が鳴り、最初のレースを泳ぐ5人の選手がクラウチングスタートの構えで合図を待っている。そして、合図が鳴った後、豪快に飛び出していく。

 ほんと、男子のスタートは豪快よね。逆に高校時代の部員がおとなしかっただけなのかな。でも、遅いながらもきれいにイーブンペースで泳いでたもんな。


「うわっ、めっちゃ豪快やん。こんなんでほんまに最後まで持つんか?」


 浮き上がってきた5人の選手を見て翔稀が声を小さく上げる。その声は、私に解説を求めたいのか、ちゃんと私に届くくらい。


「たぶん、無理だと思うよ。ただ、こんなに最初から飛ばすのは私も記憶にない。もしかしたら、最初の50メートルはけん制で飛ばして、あとは、ペースを保って刻もうとしてるのかも」


 こんなレースを見たことがないなんて、私もまだまだアマちゃんだな。

 そんなことを思いながら、最初の50メートルを27~28秒で泳いだ選手たち。ここからどうレースを展開するのか。と思ったところでひとつ気づいたことがある。


 フォームがミドルになっている。さっきまでは確実にスプリントだった。やっぱり、先行逃げ切りか?いや、そうだとしても、ヒート全員そうか?そんなわけはないだろう。ただ、読めない分、今は静観だな。

 そこから予選1組から3組まで静観していたけど、やっぱりみんな同じ形に。最初に飛ばすのはけん制か?その可能性は薄いんだろうけど、読めない。沙良だったら、この意図はわかるんだろうか?聞いてみないと何とも言えないな。


 そこからしばらくの間、レースが進む姿を眺めていた。そして、私が驚いたのは美祢さんの声が聞こえて、ビジョンを見た時だった。


『同じく予選4組の競技を行います』

「えっ……」

「どないしたん?」


 私が驚いたのも無理はない。冷徹の王子様が出ているから……。

 てっきりスプリントの2種目だけにしか出ないと思っていたから、ここに出てくるのははっきり言って予想外だった。


「4フリにでも出るんだ。スプリントにしか出ないと思ってた。挑戦、なのかな……」


 ずっと短距離でレースに出続けている人が、さすがに練習は積んでいるだろうけど、ミドルに挑戦するとは……。泳ぎ方だった大きく変わるはずなのに……。


「……お姉ちゃん?どうかした?」


 由佳の声でハッと我に返った。


「うん?どうかした?」

「いや、いきなり画面見て動かんようになったからさ。なんかあったんかなって」

「あぁ、ごめんごめん。なんでもない。ただ、出ている選手にびっくりしただけだから」

「そうなんや。で、誰なん?」

「さっき、話題にもなったでしょ?冷徹な王子さまって言えばわかってもらえると思うけど」

「えっ?さっき、お前、短距離の選手って言うてなかった?」

「うん。そのはず……」


『テイクユアーマークス』


 言葉を続けようとしたとき、遮られるように出発合図員の声が響いた。そのすぐあと、甲高い音が鳴り、飛び出していく8人の選手たち。

 そして、浮き上がりから飛ばしていく7レーンの選手。まさに冷徹な王子様こと、原田直哉選手。ミドルのレースにも関わらず、頭から飛ばしているようにも見える。


「前に出てんのか?」

「たぶん、ただ、飛ばし過ぎているように見えるから、後半が心配なんだけど……」


 たぶん、最初の50メートルを25秒で入りそう。そこからは30秒キープな気もするけど、どうだろう。

 最初の50メートルは原田選手が引っ張るような形で最初の50メートルをターンしていく。……予想通り最初のラップを25で入ってきたか。ただ、25秒前半とは。そこは予想外だな。こうなってくると、最初の100メートルは55秒くらいで回るのか?そんな気がする。

 そして、すでに最初の100メートルのターンに差し掛かり、流れるようにターンをしていく。


「マジか……」


 ふいにこぼれた言葉かもしれない。ただ、こぼれるのは無理もない。だって、驚異の54秒67で最初の100メートルを泳いでいるんだもん……。ほぼ短距離のレースに近い泳ぎを見せた。しかも、すでに身体二つほどもリード。やっぱり、後半、どこまでスタミナが持つのか気になる。

 ただ、その中でも少し違和感を感じるのはなんでだろう?


「やっほ~。やっと見つけたわ。ってか、あの二人、ほんま凄いな。きれいにワンツーフィニッシュやん?」

「それどころじゃないって。冷徹な王子様が4フリのこのレースに出てるのよ」

「嘘やん!?そんなん、ありえんの!?」

「だって、ほら、7レーン。原田直哉、東天満大学って書いてあるでしょ?」

「……うわっ、マジやん!いや、だって、あの人、スプリンターやろ?泳ぎ切れるん?」

「いや、さすがに泳ぎ切るだろうけどさ、問題はタイムでしょ?しかも、そのタイムも頭の100を54で回ってるのよ?飛ばし過ぎじゃない?」

「たしかにスプリンターらしい入りやな。ただ、そんな泳ぎに今は見えへんな。なんていうか、静かで、ミドルを意識してるみたいな感じ?」


 それか。見ていたのはいつもスプリントのレースだったから、いつもの迫力がだいぶ欠けていたのね。


「ただ、それでも滑らかに流れるな。力を抜いて、持ち味のフォームで力ます、推進力が減ってるものの、抵抗を減らしてカバーしてるようにも見えるな。それでも推進力がないからあれやけど。100から150のラップも29キープか。ほんまに飛ばしてるな」

「まるで最初から決勝のレースをしてるみたい。あっ、そういえば沙良、あんた、さっき何処から見てたのよ。声だけはすぐに分かったけどさ」

「あぁ、まさか呼ばれると思ってなくて、チケット買っとったんよ。そこから見てた。思ったよりええ場所やったからさ。うちもターンの時、思った以上に響いたから焦ったわ」


 そういうことか。全部納得だよ。

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