106:ひみつ道具
私は、翔稀が感じたことと、私自身が感じたことを田村さんに伝える。
「なるほどな~。そうなってくると……。イヤモニター使うか?広い会場やなとは思っとったから、一応持ってきたんやけど」
いつの間に……。そんなことを思っていると、田村さんは豪快に笑い飛ばした。
「まっ、ここで使えるかどうかはわからんけどな」
でも、使えるならそっちのほうがありがたいかも。音ズレによるパフォーマンス低下が私たちの中では一番怖いって考えるところもある。
「一応、使えるかどうか交渉してもらって、できるようなら、コネクトしてほしいです。音ズレが原因でパフォーマンスの魅力が半減したら最悪です」
「やろうな。美桜だけじゃなくて、翔稀もおんなじこと言うやろうな。オーライ。ほな交渉してみるわ」
「でも、なんでイヤモニを持ってるんですか?ミアシスで作った記憶がないんですけど……」
「うん?まぁ、いつかは使えるやろうと思ってチューナーだけは用意しとったんよ。自分のイヤホンさえ使えればあとはどうにでもなるしな。ただ、そんな規模のライブ何て今までなかったから日の目は見いひんかってんけどな」
チューナーを持ってること自体がすごいよね。
「まぁ、とりあえず交渉してくるわ。たぶん、機材もちらっと見させてもらった限りやといけると思うんやけどなぁ」
「すいません、お願いします」
「いいってことよ。これが俺の仕事やし」
そういうと、田村さんは本部のほうに言って交渉をしてくれる。その間を使って私は、メンバーに結果報告を。
「一応、翔稀から聞いてると思うけど、足元が変わるから、感覚はリセットしてほしいのと、田村さんに相談して、音ズレの対処法としてイヤモニターをつかえるかどうか交渉してもらってる」
「えっ、美桜姉、イヤモニあんの?」
亜稀鑼は物自体のことは知っているみたい。ただ、翔稀たちダンサー陣にはピンと来てないみたい。
「歌手とかがイヤホンしながら歌ってるでしょ?あれよ。もっと簡単なものらしいけど」
そういうと、3人は「あ~」とモノがどんなものかわかったみたい。
「一応、田村さんは、こういう場所にいずれ行くだろうって言って、チューナーを先に用意したんだってさ。ジャックからは有線だけど、自分たちのイヤホンが使えるから、仮でそれをって」
「へぇ、そうやったんや。まぁ、俺も中学の時のライブでモノは触ったことはあるけど、なんかようわからんかったから、諦めたけど」
「とりあえず、田村さんが結果を言いに来てくれるまでステイで。で、沙良はどう?違和感とかない?」
「違和感と不安しかないわ。人前で歌うのとか、コーラス以外でなかってんから。明日になったら緊張と吐き気とか凄そう」
まぁ、沙良も通常運転か。ならいいや。
「そんなこと言って、結局テンションが上がって楽しんでいるんでしょ?いつものことじゃん」
「ほんまにそうなったらええねんけどな」
なんか、いつもの沙良よりひどい気がする。考えすぎなのかもしれないけど……。
「よし、お待たせさん。イヤモニの件、オッケーもらったで。というか、逆に使わへんのかなっと不思議に思ってたらしいわ。やから、もう繋いで、もっかいリハできるけど」
「聞こえ方だけでええか?足元は明日変わるんやし、今無理にってこともないやろ。というか、当日感覚狂ったらかなんし」
「せやね。由佳もそれがええと思う」
「沙良とボーカル陣は歌詞の確認も兼ねとくよ。とくに沙良はね」
「わかってるわ。一番確認したいところやし。振り付けはもうどうでもええから、歌に集中したい気分」
それほど沙良に余裕がないのはわかっている。なんなら当日は、ボーカル陣の振り付けを無くしたいと思っているくらいだし。
「まぁ、沙良の気持ちもわかるよ、とりあえず、今は歌に集中しよ」
「オーライ。……ふぅ。よっしゃ行こ!」
一息ついて集中しだした沙良。その姿を見られれば大丈夫だろう。クラッチプレーヤーなんだから。
「なんか顔つきも変わったな。頼もしいやん。明日もやってくれそうやな。とりあえず、もっかいリハーサルやな。そのまえに、自分の有線のイヤホン持ってきて。それに繋ぐから」
みんなそれぞれが「はーい」と返事した後、それぞれが使っているイヤホンを取ってきて、田村さんから機会を一つずつ受けとる。
「よくやってんのは腰のところにズボンのすそに挟んだりとかやな。向こうからは音楽を流すだけ。自分で音量を変えたいときはつまみを回したら変えられるから。で、パフォーマンスしやすいように少しだけ音楽を大きめにしてる。もちろん、それは自分で変えられるからな」
ある程度の説明を田村さんから聞いて、リハの最終準備に入る。
「沙良、ここは沙良のタイミングに任せる。自分がいけると思ったら、合図を出してくれたらいいから」
そういうと、沙良は少しびっくりした顔をしていたけど、すぐに絵笑みを浮かべた。
「ほんま、そういうところやで。美桜がリーダーに選ばれるのは」
そういうと沙良は、ふぅっと息を吐いて少しの間、目を閉じた。




