101:知らないフリ
「あら、おはよう、萌奈ちゃん。やっぱり美桜ちゃんと一緒ね」
何も知らないふりをする橋爪さん。本当は一番事情を知っているけど、いろいろかくして顔に出していない。
そんなことを知らない萌奈ちゃんは愛そう笑いで軽く受け流す。
「さっ、あとはいつも通り、男性陣とみさね。まぁ、私たちが早すぎるっていうのもあるんだけどね」
そこから鼻歌まで歌いだす橋爪さん。今日はだいぶご機嫌だな。
対する私は、陽が上る前から動き出しているから、かなり眠気が来ている。新幹線で少し寝たとはいえ、朝から動き回ったことで、疲れが少し出てきた。
油断すると、不意に大きなあくびが一つ出ちゃう。やっぱり、お疲れなのかな、私。
しばらくぼーっとしながら待っていると、林さん、竹田さん、市原さんの3人が似たタイミングで到着。やっぱり、集合時間の10分前。
ここからテレビ局に入り、先に打ち合わせをしてから、リバイバルライブのときの衣装に着替える。というか、レトロフェスのときの衣装だと恥ずかしすぎて、私が「これにしたい」ってわがままを言ったんだけど……。
簡単に打ち合わせを終えて、橋爪さんに用意してもあった衣装に着替えて、カチューシャを選ぶ。
今日は、上から下まで白一色で統一しようかな。そっちのほうが落ち着いて見えるし。そんなことを思いながら、白いバラの飾りがついたカチューシャを取り出し、いつものようにヘアスタイルを決める。
さすがにブームが来ているとはいいえ、おでこ丸出しは恥ずかしいし、かと言って、ストレートヘアにカチューシャだけだと面白くない。だとすると、今日もライブスタイルで行くか。スタイリストさんがいれば、任せるところなんだろうけど。
「萌奈ちゃん、ヘアスタイル作ってあげようか?」
「すいません、お願いします」
萌奈ちゃんは、いつも林さんに手伝ってもらっている。というのも、林さんがスタイリストの経験があるから。本人の話では理容師の免許も持っているらしい。まぁ、ムーンライトスターを結成する前に専門学校に通って習ったらしいし、ムーンライトスターが再結成する前も仕事で少しやっていたらしいし、実力はお手の物。
今回は、私も少しヒントをもらおうかな。そうじゃなきゃ、最適なヘアスタイルが見つからない。
「中川ちゃん、どうかした?」
「いや、大したことじゃないんですけど、私、どんなヘアスタイルが似合うんだろうなって思ったりするところがあって……」
「ささってやってあげようか?萌奈ちゃんのヘアスタイルは整ったし」
どうしよう……。ここは甘えるべきか、もう少し考えるか。
「そうね~。カチューシャも持ってるから、あんまり盛るのは却下かな。髪も萌奈ちゃんに比べたら短いし、だいぶ限られてくるわね。思い切って、横だけ巻いちゃって、あとはウェーブさせちゃいましょうか」
そういうと、私を手招きして鏡の前に座らせ、コテをとりだし、先にサイドをクルクルと巻いて、横から垂らす。そして、後ろに回ると、慣れた手つきで私の髪をうねらせていく。
その速さは、まさにプロそのものだった。
「よし、こんなものでいいでしょう。試しにやってみたから、だいぶ弱めにしたつもりだったけど、中川ちゃんの髪の硬さからしたら、これくらいで大丈夫かな。にしても、中川ちゃんの髪の毛って痛みまくってるよね。何かしてる?」
……思い当たる節はある。体力づくりと肺活量を増やすために、週一でプールでがっつり泳いでいるからだろう。っていうか、それしか思いつかない。
「一応、週に一回だけプールで泳いでます。もちろん、ケアはしているつもりですけど、追いついてないですか?」
「プールか。そりゃ、髪がやられるわ。若干、色も抜けてるしね。少しだけ試しでやったのに、思ったより型がついたからびっくりしたわよ。まぁ、趣味だし、何か理由があるんだろうから、やめなさいとは言わないけど」
やっぱりわかっていたか。やっぱり、スタイリストさんは違うよね。
最近、真っ黒のカチューシャをつけてもちょっと色が目立つから気にしていたところはあるんだけど、やっぱり、黒染めをしないといけないかなぁ。
そんなことを思いながら、真っ白のカチューシャをつむじより少し前から耳の後ろに流してつける。
さぁ、そろそろ言ってる間に本番1時間前だ。そろそろ奈緒美さんモードにしていかないと、自分自身がしんどくなる。
「橋爪さん、今日の〈ダンスフロア〉ですが、なにかこうしてほしいっていうのはありますでしょうか?」
「あら、すでに奈緒美さんモードなのね。まぁ、時間もそうだし、そろそろか。そうね。今日も楽しんでくれたらそれでいいわ」
いつもと変わらないご用命。本日は生放送ですが、緊張せずに行きましょうか。




