13 日常
あの神の間から戻った俺は、真理に散々泣かれてしまった。
どうやら数分程度、まったく意識が無かったようで死んだかと思い茉莉亜が何度か『死者蘇生』を発動したそうだ。
俺と同時に意識を取り戻した4人も、アイテールが言っていたように操られていた間の記憶を補完され、ものすごい勢いで謝られた。
俺は「被害者なんだから」と神の間で言っていた通り、水に流すことにした。
だが散々破壊した魔都のあちこちは責任を取ってもらうことにした。
魔力もすでに回復していた俺たちは、早速城まで戻ると破壊された城の再建から着手しようとしたのだが、加奈子の魔道具生成スキルにより、1時間程度で完全修復されてしまった。
さらには強力な結界が張られるようで、定期的に王座の前にある魔道具に魔力を注ぐよう伝えられた。俺にとっては軽くで満タンになるようだが、俺以外が王なら補充もままならない量ではあった。
満タンになれば2~3ヵ月以上は持続すると言うので、今までの結界装置の何倍も効率が良い。今までは俺がそれなりに注ぐか、魔人たちが数人掛かりで満タンにして1週間も持たなかったから。
性能も申し分なく、試しにと悪意を持って外壁を殴ってみると、今までより少しだけ力を籠めなければ破壊できなかった。
驚く俺を放置し、4人はニガルスたちを中心に今後の予定を話し合ったようだ。
それから1週間。
俺は何事もなく平和を満喫していた。
4人は各地に赴き、新しい建物を作ったり、病人たちの治療などを行ったり、各地のギルドで依頼をこなしたりと、西大陸全体を贖罪の旅をしているのだと報告を受けた。
特に魔国では小さな魔窟周りの遅れていた建物や道路の建設などを中心に、ドンドン改革を進めているようだ。
さすがに建築関係で加奈子にだけ負担がかかりすぎじゃないか?と聞くと、なんでも先の戦闘で『魔力貸借』というスキルを覚えて、他の3人から魔力をガンガン吸い取れるらしい。
特に無尽蔵の魔力持ちの順平からは魔力を際限なく吸い取れるので、今は2人がペアで動いているのだとか……
加奈子に骨の髄まで吸い取られる順平を想像してちょっと可哀想に思えてきたが、そう言えばそもそもあの二人は付き合っていたかと思い出し、良いコンビだと改めて思った。
直樹も加奈子と仲良く治療に討伐にと各地で依頼をこなしているようだ。
魔人族に対するある一定の信頼をすでに勝ち取っていると思った俺は、各地に派遣する魔人たちの数を減らし、4人の手の届かない範囲でお手伝いをするよう命じ、浮いた分を国内の拡充に充てていた。
今や各地の発展は目覚ましい魔国。
王国や帝国からも移住者が増え続けている。商人たちの手伝いとして魔人たちを力仕事などに従事させている。
だがいずれは魔人たちを持て余してしまうかもしれない。
なんなら魔窟の無い空白地に巨大なコロシアムでも作りそこで毎日戦わせ、それを目玉に新たな観光地を作るのもいいかもなと思っていた。まだまだ開いている土地はいっぱいあるのだ。
今後はそんな都市計画の立案に力を注ごう。そう思いまたニガルズたちに上辺だけを話して丸投げする俺だった。
直樹からは2日おきに通信具で連絡が来て自分たちの報告と称した冒険譚を聞かされるので、2度目からは他の事をしながら何となく聞くようになっていた。人の自慢話ほどつまらないものはない。
どうやら俺は4人の脳内では兄貴的存在になっているようで、まあ可愛い弟ができたのかと思えなくもない。
これから4人はまたどんどん強くなるだろうし、仲良くしておくに越したことは無いのだ。
「なあ、いくらお詫びだと言っても、そこまで急がなくてもいいんじゃないか?」
『えっ?僕はお詫びなんて思ってないですよ!頼られるのは本当に嬉しいし、毎日が充実してます!ほんと楽しいです!異世界最高ですよね!』
直樹からそんな言葉が返ってきたので、どうやら心配するだけ損なのだと思ってしまった。
「じゃあ良いが、それより二人はどうなんだ?仲良くやってるんだろ?」
『ああ、俺たちも、順平たちもそれなりに仲良くやってますよ。少なくとも人前でキスして顔を赤らめるような関係じゃないです』
「ほっとけ。まあ、仲が良いことは分かった。もう勝手にやってくれ」
俺の言葉に笑い声が返ってきて挨拶を交わした後、その日の連絡は終了となった。
それにしても直樹たちとは2つしか違わないはずなのだが……今の若いものは進んでいるんだなと意味もなく嘆いてみた。
まああいつらもそれなりに異世界生活を満喫しているようだ。
俺も負けないように異世界と楽しまなきゃ損だな。
まず手始めに真理と楽しい異世界生活を満喫しようと思い、今の時間はリザと食堂に居るはずの真理の元を訪ねてみた。
食堂では真剣な表情で何かを話し合っている様子の二人。
真理が俺に気が付くと、ツカツカと真顔で近づいてくる。
そしてその表情のまま「部屋に戻る」と俺の手をつかみ、そのまま真理に手を引かれる形で部屋まで戻る事態になった。
あれ?俺、何かやらかした?
そんなことを思いながら、自室にたどり着く。
「真司、そこに座って」
何故に床ですか?真理が部屋の床を指差しそう俺に告げる。
「真理?俺、何かしちゃった……かな?」
暫く沈黙が続く。そして少し真理の顔が赤くなってくる。
「違うの。私も座るから……」
そう言いながら指差していた床の前に先に正座する真理。
俺もドキドキしながら大人しくその前に正座する。
後ろからついてきたはずのリザはそのまま奥の部屋へと消えていった。
何がはじまるんですかね?
「真司……あのね……」
「おう。何かな?」
ごくりと喉をならしてしまう。
「あ、あ、」
「あ?」
「あ、あう……」
「あう?」
真理の顔がゆでだこになっている。
「赤ちゃん!」
「赤ちゃん?真理……昼間から何をいきなり子作り宣言を……」
俺の言葉に真理が戸惑い両手が定位置を求めて右往左往している。
「いや、違うくて……その、できたの……」
「できたか!……えっ?できたの?」
多分俺は今間抜けな顔をしているだろう。本当にできたの?赤ちゃんがってことでいいんだよね?そう思っていると、真理が恥ずかしそうに小さくうなづいた。
「そうか、そうか!おめでとう!いや違うな。ありがとう!真理、赤ちゃんができたってことでいいんだよな?」
「合ってる、よ。真司との……赤ちゃん」
照れながら赤ちゃんと口にする真理に思わず抱きしめようとして、少し躊躇して優しく抱きしめる。危うく全力で抱きしめてしまうところだった……
「何か月とか分かってる感じか?」
抱きしめながら質問する俺に、真理が「3ヶ月……だって」と言われて腕に力が入りそうになるのをこらえる。
「そうか。3ヶ月か……名前どうしようか」
「いや早いよ、まだ男の子か女の子も分かってないのに……」
真理は嬉しそうな顔を両手で挟んで体をくねらせている。
「そうだよな。でも両方考えとくのも良いんじゃないか?」
「そうなの?でも多分もう少ししたらどっちか分かるって」
「そうなのか?地球でもそうなんだろうか……」
「多分そうじゃない?遺伝子検査とかなんとかで?」
そうか、日本ならそう言うのも有りそうだ。知らんけど。
「まあいいよどっちでも!どっちであっても俺たちの子供だ!絶対に幸せにすることに変わりない!」
「真司……一緒に幸せにならなきゃね。私たち長生きするんでしょ?」
真理の言葉に思い出す。
「そうなんだよな……どうしよう。子供が死んでもまだこの姿だったとか……ハイエルフあるある的な……」
「なんかそれ嫌だね……」
ちょっとテンションが下がった真理を見てまた自称神アイテールへの怒りが湧いてきた。
「くっそ!あの自称神め!また会ったらきっちり聞き出してやる!」
「頑張ってね……その、お、お父さん……」
今の俺はアホみたいに口を開けているんだろうなと思う。
「おと……おお。おお!頑張るよ!お父さんだからな!じゃあ真理も、その、お母さん、かな?」
「それはまだちょっと嫌、かな?」
そうだ。真理は真理だ。間違いない。
そんなバカな事も考えつつ、心の底から幸せな時間は続く。
何年も、何十年も……
この異世界で、真理は聖女、魔王の俺は絶対この国で幸せになってやる!
・・・ END ・・・
駄文にお付き合い頂きありがとうございました。無事完結いたしました。
このお話は西大陸で繰り広げられたお話でした。
そして女神カリスが管理していた東大陸は平和で長閑な大陸で、今後この世界では特に大きな波乱は起きません。
決して東大陸の連邦国と共和国が争い、裏切りと虐殺の中で力を付け、国がまとまめた大帝国が、念入りに準備した兵力を武器に遂に西大陸へ戦争を仕掛けたり、さらには地中から謎の闇の民族が這い出てきて日の当たる世界を欲し人類を脅かしたり、隕石とともに地球外生命体が侵略を企て混乱の渦を巻き落としたり、力を蓄えた眷属竜族が真司に謀反を起こして大抗争に発展したりはしません。
ええ。しませんとも……
いや?無いよね?そんなんありえんし?無いってば。
ということで、妄想もこの辺で、今後ともどうぞよろしくお願いします。
そして最後のお願いです。
ブクマ、評価、励みになります。感想お気軽にどうぞ。




