10 支配
Side:直樹
魔国から戻ってすぐ、俺たちは王座の間でセイリウ様に謁見した。
当然スサク様も同席していた。
そして今日あったことを全て報告した。
セイリウ様はその内容に驚いていたが、俺は女神、もしくは神託を伝えたセレネ様を疑いの目を持って見てしまうことも伝えている。
そしてセレネ様に直接会って見極めたいと申し出た。
セイリウ様は悩んでおられたようだが、スサク様が「すぐに参りましょう」と俺たちをそのセレネ様の元まで案内してくれた。
初めて入る部屋。
両脇に立っていた兵士がスサク様が来たことに気づくと、即座に扉をノックして「セレネ様!スサク姫殿下が参られました!」と告げている。
そうか、姫殿下と呼べば良かったのか。
こんなところで正しい敬称を知る。
だが今更直すのもおかしいような気がして、俺は勇者だ。このままで良いだろう。なんてことを考えていた。
部屋の中から「はーい、どうぞー」と可愛い声が返ってきた。
兵士が扉を開けると広い室内に備え付けてある豪華なベットの端に、ちょこんと座っている女の子がこちらを向いて笑顔を見せていた。
何度か顔を見る機会はあったがこうやって直接話す機会は初めてのこと。少し緊張してきた気がする。
「セレネ様。4人をお連れしました。直接話されたいとのことですが、宜しいでしょうか?」
スサク様が丁寧に頭を下げている。
伝道師と言うだけでそこまで高い地位扱いされるのか、と改めて驚く。
「もちろんいいですよー」
そう言ってベットから降り、こちらへ歩いてくる少女。
やっぱりその小さい見た目に、普通の少女としてしか見れない。
「私はセレネ。よろしくね」
「よろしくお願いします、セレネ様」
俺は差し出された手を握り軽く握手をすると、セレネ様はまた嬉しそうに笑顔を見せていた。
順平たちとも握手をしている無邪気な少女。
いったいどのようにして神託を告げるのか気になって仕方なかった。
挨拶を終え、いよいよ本題となる。
俺は先ほどセイリウ様達にしたように、今日あった出来事を話す。そして女神を、さらにあなたを疑いの目で見ていることを伝える。
「そう言われても、私には分からないです」
少し泣きそうな表情をするセレネ様。
「神託の内容とか、私は覚えてないんです。その間は意識がどっかに行っちゃうので……」
そんなことを言うセレネ様を見て、嘘は言っていないのように感じる。
「では神託を頂くにはどうしたら良いですか?」
「では、ちょっと待ってくださいね。神託を受けれる状態ならスキルを使えば自然とそうなりますから……」
そうなる?少し意味が分からない返事をされ首をひねるが、目の前のセレネ様は再びベットに座ると目を瞑り両手を胸の前で祈るように握った。
「あっ」
瞬間セレネ様から声が漏れる。
そして首を横に振る。
どうやら今は神託を受けることはできないようだ。
「でも、近いうちに神託の兆しが見えました。1週間ぐらいだと思います。だからその間は毎日この時間に来てください。私ももっと4人とお話したいです!」
そう言いながら笑顔を見せるセレネ様は、やはり普通の子供のように見えた。
そして俺たちは暫くの間また4人で修業を続けた。
夕方にはセレネ様の元に訪れると暫くおしゃべりをする。そして夜になると部屋に集まり、もっと強くなるための方法を話し合った。
そして1週間後の夕刻、俺たちは今日もセイリウ様とスサク様と一緒に、セレネ様の部屋へと集まった。
「多分今日です!」
部屋に通されてすぐ、セレネ様はそう話しかけてくる。
そしていつもの様に……リラックスした様子でちょこんとベットに腰掛け祈り始めるセレネ様。
少しして、突然部屋の中に強い魔力が広がり思わず身構えてしまう。
だが目の前のセネレ様から発せられる魔力はとても暖かで優しいものだった。その感覚に安堵し、俺は全身の抜いた。そして一瞬身構えてしまった自分を恥じた。なんたる不敬。そう思ってしまう。
そして次の瞬間、セレネ様からセレネ様のものではない声が聞こえる。
『この時を、待ちわびてましたよ。私の可愛い愛しい子たちよ……』
その言葉には黙って聞き続けるしかない気持ちしか湧かなかった。
周りの様子も確認したいが、もはやセレネ様から目が離せなかった。
『魔王は倒さなければなりません。その為に……愛しい子たちには力を、新たな力の道を示しましょう。その後は、思うがままにその力を、邪悪なる魔王にぶつけるのです』
その言葉に俺は「はい」とだけ答える。
『大勇者にはこの剣を……』
俺の前には銀に輝く剣がいつの間にか浮かんでいた。
俺はゆっくりとそれに手を伸ばし、腰へと添えると、自然とすでに装備されていた剣の横に装着されていた。そして膝をつき心からの感謝を口にした。
『大魔導士にはこの杖を……』
順平の前には赤く大きな輝く石が杖先に埋まっている杖が贈られたようだ。
同じように早苗には首飾り、加奈子には腕輪が贈られている。どれも俺の剣のように強い魔力を籠められているのが分かる。
『行きなさい……愛し子たちよ……新たな力の道へ……』
その言葉を最後に神託は終わったようで、きょろきょろ周りを見渡し俺たちを見るセレネ様。
俺はぼーっとした意識の中、周りを見渡すとセイリウ様もスサク様も片膝をついて祈る姿勢のまま固まっていた。
順平たち3人は俺と同じように少しぼーっとしているのが、虚ろな表情をしている。だがそれも仕方のない事だと感じる。偉大なる女神様のお言葉を聞いたのだから。
そして次の瞬間、俺は脳内に鮮明に思い出す。
この世界に来る際に、女神カリス様と一度会っていたことを……
真っ白な空間で、4人と一緒に魔王が如何に巧妙で残忍なのか、そしてこの世界にこれから起きる惨事が如何に恐ろしく、惨い出来事となるのかを……
絶対に止めなくてはならない。
内側から怒りと共にとてつもない何かが湧きあがってくる。
そして俺はそれを受け入れる。
女神様も言っていた。
『新たな力の道』
そうだ、女神様は俺にすでに示してくれた。気付けば俺は気持ちのままにその示された道に沿って城を飛び出した。
◆◇◆◇◆
女神さまの神託を受けた4人は、城を飛び出しそれぞれの心のままにある場所へと向かって行った。
可能な限りの魔力を垂れ流し、まず最初に目的地に到着したのは順平であった。
デウルズ神国の最南端。
山頂からは綺麗な海が見渡せる絶景スポットではあるが、今ではあまり人も寄り付かない休火山となっている。
この山の中腹に順平はいた。
今は忘れ去られた小さな神社のような建物。その建物も今では朽ちかけボロボロの有様である。そこ境内にある小さな祠だけは不思議なほど綺麗に保たれている。いわゆる聖域になっているようだ。
順平はその祠の小さな扉へと手を伸ばす。
バチバチと白い光が飛び散り、順平の手を傷つけてゆく。
順平はそれに悲鳴を上げることも無く、強引にその扉をこじ開けてしまう。その扉の中には真っ赤な炎がゆらゆらと燃えているように浮かんで見える。
その炎にさえも順平は手を伸ばし掴む。
順平の手には焼けるような熱を感じているはずである。辺りには皮膚が焦げる嫌な匂いがしているだろう。だが順平は黙ってその炎を強くつかんだまま引き抜いた。
やがてその炎は形を変え、赤髪の人型へと姿へと変えて行く。
そして苦しそうに順平の手を逃れようともがいているのだが、順平の手から白い光があふれ、その光が消える頃には、順平と同じように虚ろな表情になったそれが、ふわりと浮かび順平の右肩の上あたりにとどまった。
これが火の精霊・サラマンダーという存在であり、これにより順平の魔力が数倍にも膨れ上がってゆく。
他の3人も同様に新たな力を得ようと動いている。
王国の東側の廃坑の奥では加奈子が地の精霊・ノームを、帝国の西の森の中の巨木から直樹が風の精霊・シルフが、そして魔国の北の海中からは早苗が水の精霊・ウンディーネを強引に従えてゆく。
そして新たな力を得た4人は魔都を目指して飛び立ち、そのすぐ後には魔都の上空へと4人が集まってしまうのだ。
女神に操られし4人が揃ってしまった。
女神によりその精神を汚染され、女神の計画通り身体を操られ、押し進められた魔王を殺すための準備は、全てが整ってしまった。
「アソコニ魔王ガイル!」
4人が揃ったのを確認した加奈子は魔王の魔力を感知する。そしてその魔都の城を指を差し他の3人を見ながら声をあげる。
「「「「魔王、殺ス!」」」」
4人の意思は一致した。
虚ろだったその瞳は血のように赤く光り、魔王に対する憎悪を宿らせ、どす黒い魔力を纏った体でその城へと突き進んでゆく。
最後の殺し合いが始まった。
Side:カリス
「ふう。ちょっと頑張っちゃったけど、これで後は高みの見物で楽しめそうね」
私はこの1週間寝ずに頑張り作成した神話級の武具を、神託の際に4人の召喚者たちに贈ってみた。
我ながら最高のできてある。
地中深くの真祖の竜の化石から作った、聖剣にも負けず劣らずの『銀の剣』
神力で凝縮した魔石を嵌めこみ強い魔力をさらに倍増してくれる『魔道の杖』
恋に敗れた人魚の鱗を素材に、神聖力を周りからかき集めてくれる『聖恋の首飾り』
妖精の魂を封じ込め、大地の力を吸い上げることのできる『大地の腕輪』
おかげでちまちま貯めていた神力がごっそり無くなってしまった。
でもこれで後は見守るだけて良い。
「これならパパもきっと楽しんでくれるはず!」
ワンチャンお小遣いまでもらえちゃうかもしれないわ!私はそう思いながら口元を緩ませる。
白い空間に備え付けられたベッドに寝そべり、下界から拝借した焼き菓子を片手に下界の様子を見ている。
これから暫くして怒るであろう最高のショーの開幕を、今か今かと待ちわびている。
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