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【完結】幼馴染の彼女は隷属された囚われ聖女。魔王の俺は絶対この国許さない!  作者: 安ころもっち
第四章・魔王vs勇者

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09 雪辱

直樹たち大勇者御一行との話し合いから1週間。

平穏な日々が続いている。


前回の遭遇時、ダメ元で影鼠かげねずみを潜ませようとしたが、それは残念ながら無理だった。影鼠かげねずみからは常時聖なる魔力でなんたらといって入っていられない的なことを言われ断念した。

エステマからも『特に動きが無い』と影から報告されているようだ。


そんな中、エステマが城を訪ねてきた。

何やらいつになくモジモジとして気持ちが悪い。


そして俺に「落ち着いてるようだし!」と真っ赤な顔をしながら手紙を手渡し、逃げるように帰って行った。

なんだあいつ、と思いながら手紙に視線を向けるが、すでにその手には手紙が見当たらず戸惑いながら周りを見渡した。どうやら手紙は真理に奪われていたようで、その真理は開封した手紙を真剣な表情で見ていた。


「エステマちゃん結婚するんだって!」

「あ?まじか……」

真理の喜ぶ声に俺も近くにいたリザも驚いていた。


「相手はレイモンズでいいんだよな?」

「うん。今週末に急遽結婚式するんだって。その招待状だねこれ」

「随分急だな」

「準備はしてたと思うよ?恥ずかしかったからギリギリまで隠してたのかも……いやーやっとかー。じゃあ盛大に祝って……華々しく送り出してあげなきゃね!」

俺は真理がにんまりと笑っているのを見て思い出す。


そして「そう言えばそうだな」と真理の思惑に乗っかることにした。


今でも思い出すと悶絶してしまうあの恥ずかしいメインイベント。

今度はエステマたちが受けるのかと想像しただけで、日頃のストレスが全て吹き飛ぶように感じた。


そして週末。あの世界会議があった大講堂近くの広間前。

そのオープンな場所で女王エステマとそのパートナーであるレイモンドの結婚式が、集まった大観衆に見守られながら始まった。


広場の周りは王国兵士たちがぐるりと囲み、万全の警護で執り行ってゆく。

その周りには一目見ようと集まった国民たちが、すでに飲めや歌えの大騒ぎをしていた。露店もいくつか出ており、食べ物やお酒などを提供している。


そんな中、エステマが真理の時と同じようにあの蚕糸で作成した純白のドレスに身を包み、レイモンドにエスコートされ登場した。すでにその顔はゆでだこのように真っ赤であった。

周りからも一際大きな歓声が上がっている。


「エステマちゃん綺麗……」

「そうだな。こうやって見ると普通の女にも見えるもんだ」

「真司はもっとデリカシーってものを学ぶべきだと思うよ」

「まあ怒るなって」

俺の言葉に頬を膨らませて怒る真理を見て、やはり可愛いなと思ってしまう。


そして主役となるエステマが終始顔を赤らめたまま、式は滞りなく過ぎる。

そして遂にその時が来た。


兵士たちがフィナーレを飾るため城までの道を作り出し、それに沿って並び始める観客たちは最高潮の盛り上がりを見せる。俺たちは周りの招待客と同じようにエステマとレイモンドのそばへ移動する。


俺はエステマに向かって「いよいよだな!頑張って励めよ!」と声を掛けると、真っ赤な顔でこちらを睨んできたが、すぐに悔しそうな顔を浮かべその顔をそらしてしまった。


「ふっふっふー!エステマちゃんもレイモンズさんにいっぱい可愛がってもらうんだよ!ちゃんと赤ちゃんできるように神様にお願いしてね!」

用意していたであろう言葉をエステマに向ける真理。


エステマが「くー!」と声を漏らしながら両手で顔を覆う。

だがその言葉を発した真理もまた、顔を真っ赤にして悶えていた。


「なあ真理、そんなに恥ずかしいなら止めておけば良かったんじゃないか?」

「いや、でもやっぱりね、あの時の雪辱を晴らさなきゃと思って……色々頑張って、考えてみたんだけど……やっぱり恥ずかしいねこれ」

モジモジしている真理を見て、よし!俺も赤ちゃんできるように神に……いや、うーん、あの神に祈るのは嫌だな。誰に祈ったらいいのだろうか?


そんなことを思っている間に、俺たちよりもっと卑猥な言葉を集まった知人や国民たちに投げかけられ、すでに目をつぶってしまい、今はただレイモンズの腕にしがみ付いて歩いているエステマを生暖かい目で見送った。

逆にレイモンドの方はそんなエステマを愛おしそうに撫でながらも堂々と手を上げ、時折「任せとけ!」と答えたりと余裕の表情であった。相変わらずコミュニケーション能力の高い人だと思った。


まあ何はともあれ今回はこれぐらいで良いだろう。

一定の満足を得た俺たちは、茉莉亜まりあたちに軽く挨拶をして魔都へと戻った。



そしてその2日後、あの4人が姿を消したとエステマから報告を受けることになる。


警戒しつつも不安な日々を過ごしさらに3日後。

城で朝食をとっているとスドドンという轟音とともに城全体が揺れるほどの衝撃を感じる。


そして食堂の石壁が再度の轟音とともに破壊され、砂煙のようなものが巻き上がり、それが晴れた先には直樹たち4人が立っていた。


「あれ、直樹くんたちで良いんだよね?」

「そう、だな。『魔眼』で見てるが間違いは無いようだ」

今度は弾かれなかった『魔眼』には、しっかりと直樹たちのステータスが表示されている。


だがその4人は、同じ人間と思ってよいのだろうかというぐらい様子がおかしい。まるで魔王メビオスに操られているように赤く目を光らせ、全身体から魔力が駄々洩れの状態でこちらを睨んでいる。

ステータスもかなり上がっているようで、直樹は1万前後のステータスになっている。それよりも『状態異常・女神の呪い』という文字を発見してしまいその文字にくぎ付けになる。

また頭が痛い状況に落ちっているなと感じざるえない。


「女神って……神というか邪神だろ」

「えっ?何?」

思わずつぶやいた言葉に真理がこちらを見ずに反応する。


「4人共、女神の呪いって状態異常になっている。多分女神に操られてるとか、そんな感じじゃないか?」

「なるほどねー。なら、どうしよう?」

「とりあえず意識を失う程度にできれば良いのですが、無理かもしれませんね」

轟音を聞いた瞬間動き出し、戦闘能力のない者たちを避難させるよう指示していたリザも、すでに俺の隣で身構えている。


確かにあれは手強いだろうな。

高まる緊張感の中、俺は魔装の箱でフル装備に着替え、直樹たちを威圧するように睨みつける。


「多分目的は俺だろ。外へ出るから一応エステマにも連絡しておいてくれ」

俺は真理に向かってそう声をかけると、こちらをまだ赤い目で睨んでいる4人の横を『神速』ですり抜け、破壊された大穴から外へと飛び出した。


飛翔を使いながら城を出ると、振り返り城の方を見る。

どうやら俺の考えは正解の様で、同じように飛翔を使った4人が俺に向かって迫ってきていた。


俺はさらに逃げるように飛び、戦いの場所をどこにしようか考えていた。

修行の場となっている魔都の魔窟でも、と思ったが多分広範囲での魔法を使われる可能性もあるなと思い、結局さらに先、あまり手入れがされていない海岸近くの草原まで飛んできてしまった。


ここなら良いだろう。そう思って急ぎその場へ降り立つと、後を追うようにドシンと音がして4人が降りてきた。


そして直樹がどこから入手したのか聖剣バリに輝く剣を抜き、その斬撃による攻撃から戦闘が始まった。


以前見た時より何十倍も強く魔力を感じる。ステータス以上の力を感じるのは多分、大神官の早苗が持っている『祈祷』と、大賢者の加奈子が作った魔道具の力だろう。

4人が付けているお揃いの指輪から禍々しい魔力があふれている。ちょっと危険な感じもするが、もしかしたら体に負担のかかるほどの強化が付与されているのかもしれない。


しかしさすがにあの神でさえ使うのをやめたと言っていた危険なジョブだ。

とんでもないスキルをバンバン覚えているようだ。


だが、良く見ると直樹の背後に1mぐらいの緑の風を纏った何かがいるのを感じ、そこに『魔眼』を向けると『風の精霊・シルフ』とという存在がそこにいるのが分かった。

同じように他の3人を見ると、順平には『火の精霊・サラマンダー』、早苗には『水の精霊・ウンディーネ』、加奈子には『地の精霊・ノーム』というのが付き従っているように見える。


四大精霊って奴か?この世界にもいたんだな……

ファンタジー全開のその存在に少しだけ胸が高まるのを感じるが、そうも言ってられない。精霊の力が加わっているからだろう。魔眼で見た能力値より遥かに高い動きを見せている4人の攻撃を何とか捌く。


こちらも一応装備には能力強化の効果があるものも多い。そして眷属たちの力により何倍もの上乗せを受けている。だがそれに匹敵するほどの強化が成されているのを感じる。


そんなあまり余裕がない中、なんとか打開策を探す。


4人は操られているからなのか、躊躇なく殺傷性の高い攻撃を繰り出してくる。

そして4人の連携能力も高い。


直樹が早く鋭い斬撃を繰り返す。それを今愛用している双頭の鎚矛つちほこでさばく。

この鎚矛は使い慣れた棍に代わる本気武器として、固く丈夫な矛を両方に付けた俺専用の魔道武器であった。強い打撃を与えることができるので、相手を切りつけるというより破壊するというものになっている。

少なくとも直樹たちが相手なら、多少手加減を加えれば一撃の元で殺してしまうことも無いだろう。と思って使っているのだが、若干不安でもあった。早く茉莉亜まりあが来てくれればいいのだが……

万が一、死傷者が出てしまっても茉莉亜まりあがいればよっぽどのことが無ければ蘇生できる。そう思いつつ直樹の斬撃をさばき続ける。さらには真理もいたら助かるな。そう思いながら槌矛を動かしてゆく。


だが直樹だけに構ってはいられない。


斬撃の合間を縫って順平が炎、氷、岩、風の攻撃がバシバシ降らせてくる。

しかもひとつひとつが多段に重ねられた攻撃であるため、槌矛で打ち落としても重なる攻撃全てを落とすことができず結局避けるしかなくなってしまう。


さらには大神官の早苗からは『ホーリーライト』がかけられ、体からごっそり何かが抜け落ちた感覚となる。

魔王メビオスの時は頼もしくもあったスキルだが、いざ自分に向けられるととんでもなく相性の悪いスキルだということが分かる。そして時折『結界』により逃げ道を塞がれたりとかなり厄介である。


大賢者の加奈子からは周りに浮かんだバズーカのようなものから絶えず爆弾のようなものが撃ち込まれている。ひとつひとつがかなり強烈な爆風を生み出すので、視界が遮られて仕方ない。


それでも全身で魔力感知を広げながら躱したり捌いたりと忙しい。せめて加奈子のように『魔力感知』のスキルがあれば良いのだが、俺の場合はリザやエステマから教わった自前の修練により身につけたものだ。

自然に見えるようなものではないので、常に精神疲労を感じながら対処している。


今のところ何とかなっているのだが、長期戦ともなると厳しい戦いだと思わざるえない。

さらに言うと、時折視認できる直樹たちもあちこちから血を流しているため、このまま凌ぎ切るだけでも全身を酷使している4人が心配になってしまう。

ああ言った傷も回復で治ると思ってはいるのだが、色々と後遺症などが残ったりしないか心配になる。


できればこれ以上直樹たちが傷つくことは避けたいのだが、そうも言っていられないのが現状だ。


俺は、最悪の事態も想像しつつも、全力の力(・・・・)で直樹たちを叩き伏せる。それ実行する覚悟を持つための時間を、向かってくる攻撃をさばきながら稼いでいた。

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