08 葛藤
俺は大量の魔力がばらまかれる様子に驚きつつも、倒れる真理を支えようと食堂から駆け出した。
だがそれより先に隣にいたリザが真理を抱き寄せた。
4人は周りに広がっていた魔力に顔を見合わせながらも、その場から少し飛びのき距離を取って身構えていた。
飛び出してきた俺はリザに抱かれる真理と、4人の間で視線を漂わせていた。
「魔王……」
俺を見てポニーテールの子がそう呟く。
そうか、この子が鑑定持ちなのか……
その子の言葉にさらに警戒を強める4人を見て、俺は偽装の腕輪を外すと素早く魔法の袋へと押し込んだ。
偽装が解けたであろう俺を見て、4人がさらに顔を険しくしてゆく。
俺は気まずくなった空気を無視して真理の方を見ると、リザが本当に嫌そうな顔をしながら魔力ポーションを手に持っている。すでに蓋は開けたようで少し迷った様子でその瓶を見つめている。
そして近くまで来ていた俺を発見し、いつもの顔に戻ると手に持ったそれを差し出してきた。
悩むところである。あの味は良いとしてこんな人の目がある場所で……
だが目の前の真理は魔力枯渇で危険な状態かもしれない。迷っている暇はない。
そう思った俺は覚悟を決めてそれを受け取り、周りの目をできるだけ気にしないようにしながらそれを口いっぱいに含む。口の中の不快感を我慢しながら目を瞑り、真理を抱き寄せその柔らかな唇に触れる。
そして口の中の汚物を一気に流し込んんだ。
少しして「んぐっ!」という真理の声が聞こえ目を開ける。
目の前にはゆでだこのように真っ赤に顔を染めている真理が見えた。
真理はすぐに顔を両手で覆うと、抱き寄せていた俺の手から逃げるように転がり落ち、床を横に転がって離れていった。そしてリザが小さなため息をついた後、真理の方へと歩きだす。
後はリザに任せてしまおう。そう思って大勇者御一行の方へ視線を向ける。
「相変わらず初心いよねー。お姉ちゃん見てるだけで恥ずかしくなっちゃう。それより、そろそろ真司くんへの誤解も解けたんじゃなーい?」
俺が話しかける前に、茉莉亜が俺を茶化した後、4人に質問を投げかける。
俺が直接話すより良いだろう、と開こうとしていた口を閉じ静観する。
「たしかに、みんな何も変わった様子は無いな。だがしかし……」
何がそこまで引っかかっているのか俺には理解できなかった。
「なあ、そんなに凄いスキルを俺が持っているなら、すでにお前たちも洗脳できちゃうんじゃないのか?」
「それは……」
俺の言葉に剣士風の男が口ごもる。
「勇者の力とか?」
「随分とご都合主義なんだな」
隣の男が言った言葉に即座に反論する。
「少し考えさせていくれ……」
「分かった。だがせめて自己紹介だけしてくれないか?こっちは鑑定もはじかれてお前たちの名前すら知らないからな」
「分かった」
こうして目の前の4人は渋々ながら名前とジョブを明かした後、うなだれながら冒険者ギルドを出ていった。
さて、どうしたものか……
願わくばこのまま何も起きなければいいけどな。
そう思いながらも。いまだにギルドの床に寝そべりながらイヤイヤしている真理の方へと足を動かした。
Side:直樹
俺たちは居心地の悪さを感じながら魔都の冒険者ギルドを出ると、利用していた近くの宿へと戻ってきた。
部屋に入ると俺と順平は自分のベッドに力なく座る。別室を借りている早苗と加奈子も俺たちの部屋へ一緒に入ってくると、備え付けのイスに黙って座っていた。
「じゃあ、どうする?」
数分の静寂の後、やっとの思いで俺の口から出た言葉がこれだった。
さすがに今日の出来事は想定外だと思った。
どう見ても普通のお兄さんだ。少し年上な感じで、しかも聖女真理も恋する乙女にしか見えない。相思相愛で多分だが別に二人で居られれば他はどうでも良いのだと思っているタイプだろう。
今は成り行きで魔国を治めている。そんな感じに見えた。
「私はそんなに悪い事するように見えなかったよー?」
早苗が口に指をあて首をかしげながらそう答える。
俺も「そう、見えたな」と口にする。そして視線を加奈子に向ける。『神眼』持ちの加奈子ならもう少し冷静に判断できるかもと思ったからだ。
「私は、洗脳は、無いと思う。少なくとも偽装を解いた魔王、真司さんの持ってるスキルにそんな感じの物は無かった」
「視れたのか?」
「うん。前回の警戒した様子ではなかったから長めに視れた。スキルの詳細までちゃんと確認できたよ。だからそんなスキル無かったと断言できる」
「そうか……」
加奈子の言葉にどうやら女神の神託の方が怪しく思えてくる。
だが疑うなら女神様より伝道師のセレネ様の方では?とも思った。
「なあ、聖女の真理って子、魔力がすごく高いって言ってたよな?2万超えてるとか。それが魔力枯渇させてまで放ったスキルってなんだったんだ?」
「順平聞いてなかったの?」
今更そんなことを言いだす順平に加奈子が呆れている様子だ。
「いや、俺、聖女とか勇者とかがいきなり勢ぞろいで、緊張と言うか警戒と言うか……とにかく相手を観察することに精一杯だったからな。あまり話が入ってこなかったんだよ。何か呪いとか解くとかは言ってた気がするけど」
俺と加奈子がため息をつく。
早苗は首をかしげた様子だ。
もしかしたら早苗も分かっていない可能性も出てきたんだが?
「解放は、なんだっけ?すべての束縛を解放?とか書いてあった。多分だけど呪いとか洗脳とか状態異常のような状態を、全部解除しちゃうんだと思う」
「じゃあ、本当に魔王は洗脳なんてしていないってことか?」
「そうだと思う。だからあの化け物みたいな魔力を持った真理って子が、急激に魔力枯渇の状態になるぐらいのスキルんだもん。
前に聞き込みした時に王国の人達が言っていた、王国中の奴隷たちが一斉に解放された聖女の力って話もあながち嘘じゃないかもって思った。だからたとえスキルの影響で何かされてても、全部解除されると思う」
加奈子の説明に順平も黙ってしまう。
「じゃあまた王国の犯罪奴隷たちが一斉に解放されたりして、今頃かなりの騒動になるんじゃないか?」
「うーん、多分だけど今回は範囲がかなり狭まってた感じ?ギルド覆うか覆わないかぐらいの範囲限定してるのが見えた。その分かもしれないけどものすごい密度で魔力が留まってたから……思わず反射的に『魔力感知』切ったもん。スキル使われた瞬間、うってなった。あれはヤバかったよ」
顔を歪める加奈子を見て俺も同感だと思っている。
加奈子の『魔力感知』は周囲の魔力を視認するスキルだ。
不意打ちなんかを防ぐために張る警戒網のようなものとして常に使っていた。以前それで真司さんからの鑑定を感知して、身につけていた指輪の魔道具に魔力を流してはじき返した、なんてこともあったようだ。
俺も対峙した相手の魔力自体は何となく分かる。
だが魔力自体の流れとかは何となくしか見えない。だがさっきの『解放』の時には『魔力感知』が無い俺でも魔力が見えたかも、という感覚になるぐらいの大きなプレッシャーを感じたのだ。
「なあ、もしもだが、今4人で全力で戦って、仮に真司さんがソロだとしても敵うと思うか?」
おれは仮にと条件を付けつつも、加奈子に質問をぶつける。
「多分だけど、勝てそうな気はする。私たちは大体平均で6000程度の能力値。真司さんは9000ぐらい?眷属が増えて10倍って話もあるけど……それだってこっちも早苗の『祈祷』で底上げできるし、私が魔道具で補助できる」
加奈子が暫く考えた後そう返答する。
「じゃあ真司さんが10倍って考えても、俺たち4人で全力強化してなら何とか倒せる可能性もあるって事か?」
「そうだと、思うけど、本当に真司さん一人に限定した話だからね!スキルに『眷属融合』って眷属と融合して何倍の力も出すっぽいのもあるから『眷属召喚』で眷属呼んで一気に……なんてされちゃうから、今はほぼ無理かな?」
もしかしたら勝てるかも、を信じて真司さんと対峙することはできない。この世界でも失敗はすなわち死だ。
それに眷属だけでなく真理さんや茉莉亜さん、エステマさんにリザさんだって強そうだし、真司さんが孤立することなんてないだろう。
それにちょっと前は8000程度だと加奈子は言っていたはずだ。その真司さんが今日は9000前後だと言う。この成長速度はなんなんだ?どう考えても不安な要素があり過ぎる。
これは、一旦神国に戻って確認する必要が出てきそうだ。
「一旦戻ろう。戻って今度は直接セレネ様に伺ってみよう。真司さんに向けた目と同じように疑いの目で、俺たち自身で確かめる必要があるんじゃないか?」
俺の言葉に3人も同意する。
こうして俺たちは早々に宿を出ると、神国へと急ぎ飛び戻った。
Side:カリス
「なーんだ。またバトルにならなかった」
パパから任されている東大陸を適当に確認した後、召喚に手を貸した神国の4人を見守っていたのだが、結局話し合いで終わってしまった。
「胸躍るバトル展開が見たかったのに……」
私は口を尖らせそう独り言ちる。
召喚を後押しした翌日にはパパが私の空間まで訪ねてきた。
折角私が楽しいイベントを提供したのになんだかとっても怒っている様子のパパに、思わず空間にパパでも敗れないほどの強固なカギをかけた。
いくらパパと言えど、年頃の娘の空間に勝手に来てもらっては困るのよ。なんて考えているた訳はない。
単純に怒られそうだなって思ったから咄嗟に多重で鍵をかけて引き篭もってしまったのだ。
それから何度かパパは訪ねてきたけど、今更開けても怒られるのは変わらないだろう。いや、むしろキツイお説教タイムの後、東大陸の管理権まで外されて修行の日々に戻ってしまうかも……そんなのは嫌。
4人も折角強くなってきたと思って期待したけど、話し合いで終わってしまえばつまらない。
それに最近は魔王も時間ができたのか、お嫁さんと楽しそうに魔法をぶつけあってイチャついている。それでまた能力値が上がってるっておかしくない?
これじゃ普通にやってたら、あの4人は何時まで経っても追い越せないよ。
どうせ最後はパパに怒られちゃうんだ。そう思うと、どうせなら最後まで楽しんでやれ。そう思って神国に向かって戻ってきている4人を眺める。4人にはもっと真剣にレベルを上げてほしい。
その為にはセレネにどんな神託を伝えようか……
私は少し考えると妙案が閃き口元が緩む。
これなら……もしかしたら魔王を倒して結果パパも楽しんでくれて、何なら褒めてくれるかもしれない!なんだかんだでパパも下界を見るのは娯楽の一種でしょ?面白展開なら許されるよねきっと!
そう思いながら下界の様子をニマニマしながら眺めていた。
早く戻ってこーい。
私は再び召喚者たちが王城まで足を運ぶ時を、ワクワクしながら待ちわびていた。
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