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【完結】幼馴染の彼女は隷属された囚われ聖女。魔王の俺は絶対この国許さない!  作者: 安ころもっち
第四章・魔王vs勇者

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02 苦悩

Side:セイリウ・デウルズ神王


- 神託を受けました。

- 神王様に伝えなくてはこの国は滅びます。


神都ピュロスの冒険者ギルドから、伝道師というジョブの娘が私に謁見を求めていると報告を受けたのは、魔国と帝国の争い事が無事終わり、魔国の王、真司殿の結婚式が終わった頃だった。


国に戻って早々その報告を聞き、そのセレネという娘のジョブが本当に伝道師なのかと確認した。


伝道師は聖女や神官のように神の言葉を聞ける可能性のあるジョブだと書物にも記載が残っており、伝道師は聖女に並ぶぐらいの稀有なジョブであることは分かっている。


冒険者ギルドでも鑑定具によりしっかりと確認しているとのことで、慌てて会う機会を作って城へと呼んだ。


セレネは見た目は普通の娘であったがどことなく神々しさを感じる。

そんな彼女から、女神から聞いたと言う話を食い入るように最後まで聞いた。その内容は信じられないことばかりで頭を悩ませることになった。


- 魔王はこの世界をやがて洗脳し支配する。

- 魔王の次のターゲットはこの国だ。

- 勇者召喚により魔王を討つしか残された道は無い。


そんな言葉を聞いてすぐには受け入れることは出来なかった。

魔王から王国を救うために尽力し、魔人たちを抑え魔国を治め、帝国と敵対するも先制攻撃してきた帝王を、殺すことなく和解している。そんな魔王がこの世界のすべての民を洗脳して支配するなんて……

スサクに相談するがやはり真司殿がそのようなことをするとは思わない、と首をひねってしまう状態であった。


だが私の元へ毎日通い同じ話を繰り返すセレネの言葉に、私も、スサクも、少しづつ信じても良いのではないかと思うようになってしまったのだ。


そして4日目の朝、ついに禁忌の術として今まで王国でしか試したことのなかった召喚陣を試してみようという気になった。

教えられた勇者召喚は特別な道具などは不要なので「これなら再現が可能だ」と城の魔導士連中も断言してくれた。王国が行っていた聖女が対象ではなく、勇者を召喚する特別なもの……


そもそも勇者召喚など聞いたこともないのだが、実際にその召喚の儀式は成功してしまった。

しかも4人の上級職、いや、さらに上と思われる記録にも残っていない未知のジョブ……やはり勇者召喚はこの国を救うために必要な儀式だったのだ。


私は高揚する気持ちのままに、スサクと一緒ににその4人の異世界の者たちに魔王を倒してほしいと懇願し、この世界の未来を託すことになった。


そして私は思い描くのだ。

世界を脅かす魔王を倒した後……

私が、私こそがこの世界の中心になるのだと……



Side:直樹


召喚された日、城ではそれぞれに豪華な個室を用意してもらった。

夕食も俺たち勇者御一行専用の食堂で4人揃って食べることができた。

運ばれた食事はどことなく和食に近い物で美味しかった。


この国は日本と同じように米が主食の様で、小さな島国だというので海も近く魚介類も豊富だという。この国なら帰れなくて良いかもなんて思ってしまう。


そして教育係として魔導士のフェリルさんという女性を紹介される。

金の刺繍が施された白いローブに身を包んだ女性で、見た目は俺たちより少し年上に見える綺麗な人で、長くウェーブのかかった緑の髪から耳が少し長くとがっているのが見えた。

心の中でエルフ来た!と心が躍ったが、すぐに横から感じる早苗からのプレッシャーに、慌てて目をそらし咳払いをしてごまかした。


今後はこのフェリルさんに戦闘の事、特に魔法ついて詳しく教わって強くなってもらうとのことだった。


豪華なベットで一夜を明かした翌日、俺達4人はこの神国の中心、神都ピュロスの街を散策している。ザ・異世界、という街並みといわゆる獣人と呼ばれる人たちもチラホラと見え、4人共かなり興奮している。


今も近くで立ち話をしている猫耳のような耳を持つ女性の、お尻から伸びる細く長く柔らかそうな尻尾がゆらゆらと揺れる様を見て、思わずさわりたいと思ってしまう。


もちろんそれを言う勇気は俺にはない。

そんなことを口走ったら隣にいる早苗に殺される未来しか見えない。


同行しているのはフェリルさんの他に、一応護衛という名の監視の兵士が3人いるのだが、多分俺たちの方が何倍も強いだろう。勇者の能力なのかは分からないが、見ただけで何となく兵士たちが弱いなと感じてしまう。

俺たちとは纏っているオーラ的なものが違いすぎる。


それは俺だけじゃなく順平たちも同様にそう見えると言っているので、勇者固有のものでは無いようだと少しがっかりした。だが俺たちだから感じるだけで、この世界では一般常識ではないのかもしれない。


そう思ってフェリルさんに尋ねる、恐らく魔力感知によるものだと教えてくれた。

ただ全員が正確にそれを把握できるのでは無いようで、ざっくりとした感覚でしか分らない者、まったく感じられない者もいるという。少なくともそれらを感じ取れる俺たちはこの世界でも上位の存在なのだと教えられた。


街並みを歩くとどこを見ても幸せそうな笑顔が溢れていた。

聞こえてくる声に耳をかたむける。


戦争がおわり魔国が誕生して我が国や王国とも和平を結んだ。平和な世の中になった。安心して生活ができる。


そんなことを笑顔で話す人達を見て、俺は少しだけ胸が苦しくなった。


スサク姫の言った通りだ。

魔王によって苦しめられている人たちがいる反面、まだあまり影響のないこの国では仮初の平和を謳歌している状態なのだろう。すでにこの国以外が魔王の手に落ちている。この先には何が待っているのか……


俺は、俺たちと同じように日本から転生してきた真司という魔王を倒し、それに同調せざるを得ない転生者の聖女、そして王国の女王である女勇者、同じく転生者の聖女を救い出さなくてはいけない。


そしてこの国もその他の国も、全部まとめて俺たちが救わなくては……そんな重苦しさを感じながらも街中を歩いてゆく。


「直樹。美味しそうなのがあるよ」

早苗が俺の腕に体を寄せ店先にある屋台のような場所を指差し笑顔を見せている。


そうだ。早苗のためにもこの世界を平和にしなくては……


俺は美味しそうな匂いを漂わせている何の肉か分からない串についた肉を買う。こういうのは魔物の肉だったりしないのだろうか?そう思って売子に聞くと、ボアという魔物の猪の肉だと言う。


本当に良くあるファンタジーの世界だと改めて思う。

だがそのタレのかかった肉は、日本で食べた焼き鳥なんかとは違い肉厚で濃厚なうま味を感じるものであった。


「これ、旨すぎるな」

思わず出た言葉に、他の3人もうなづいている。護衛の一人から猪肉は一般的に食べられているもので、主に魔窟と呼ばれるダンジョンのようなものからとってくることを知る。


ぜひ自分で狩った猪を食べてみたいと思った。


それからいくつかの食べ物を買い食いしつつ、装備を整えるために武具屋を見たり普段着などを見たりしながら目的の冒険者ギルドへ到着した。

この神都の少しはなれた場所にもこの国で一番大きな魔窟があると言い、必然的にその近くに立ててあるその建物へ入っていった。


ここでは異世界転生のテンプレであるデカイおっさんから絡まれて、なんてイベントを期待したのだがまったくそんなことは起きなかった。少し残念だなと順平と話ながらカウンターで冒険者登録をする。


カウンターの上に出された手のひらに乗るようなサイズのシンプルな装置に指を押し当てる。これが魔道具というやつなのだろう。

受付の中の別の装置が光り、カードが排出されっている。

そのカードを見た受付の女性がすぐさま奥の方へ走ってゆき、中からごついおじさんが登場した。俺たちほどではないがそれなりの魔力量があるのだろうことが感じられた。


そしてそのギルドマスターだと言うおじさんが、丁寧に頭を下げながら俺たちに真新しい冒険者カードを渡してくれる。「期待しています」と一声かけられ頭をさげられ丁寧にギルドから見送られた。

どうやらこれで登録が完了したようだ。


受付後に出てきたギルマスには奥に連れていかれ「お前たちにやってほしい依頼がある」と頼られ……どうやらそんなテンプレイベントも起きないようだ。


ギルドを出るとフェリルさんから「冒険者ギルドの説明は城に帰ってからしますね」と言われ、結局その日はそのまま城まで帰ることになった。


城へと帰り着くとすでに今日選んだ武具などが配達されていると聞き、それらを着てみたり自室で時間をつぶしたりであっという間に夕方となってしまった。

楽しい時間はあっという間に過ぎるものだと感じながら、昨夜と同じように4人で集まり夕食を取りながらも、同席したフェリルさんから冒険者の依頼やランクなどの説明を受けた。


そして明日からは城の訓練施設で基本的な戦いを練習するのだと言う。

この世界では、魔物を倒さなくても訓練次第でレベルがあがるらしいので、多少のレベルを上げながら戦い方に慣れれば充分魔窟でも戦えるだろうと教えてくれた。

様子を見て大丈夫そうならすぐにでも魔窟へと挑むらしい。


明日から訓練が始まる……

そのことにワクワクしつつ、今日も与えられた自室でぐっすりと眠りについた。



Side:アイテール


『ん?なんだろう?』

私は、下界の様子をのんびりと眺めていた最中、強い力の歪みを感じてその発生源となる西大陸の南端、デウルズ神国の方角に視点を合わせた。


『これは……』

神都ピュロスの城の一室では、その国の王と姫、そして複数の護衛達に囲まれ召喚の儀式が行われたいるのが見えた。


そしてあっという間にその召喚陣が光り召喚が始まる。

その召喚陣は嘗て魔王メビオスが行っていた聖女召喚ではなかった。その紋様を良く観察するとどうやら勇者が対象のものであることが分かる。


『あれは勇者召喚陣。しかもさらに強烈な加護を付ける複雑な紋様……こんなの人間達が作り出すことなどできるわけがない。一体誰が……』

その時、頭の中にはカリスの顔が思い浮かんだ。


以前遊びに来た際に、妙に真司君の存在を気にかけたような素振りが見えたのは、勘違いではなかった様だ。カリスが何かを思って神託でも降ろしたのかもしれない……そんな考えが頭をよぎる。


『さて、どうしたものか……』

今更介入などできない。召喚されてしまったものを無かったことにはできない。


だがたとえカリスの小さな悪戯であったとしても、このまま放っておくことなどできないだろう。


1万年ほど前、2度目のやり直し(リセット)の際に、私のちょっとした思い付きで考え、生み出してみた4つのジョブ。


その時は大勇者たちの圧倒的な力により世界中の国が焼野原にされ、結果5年という短い期間で人類は滅びることになった。


『また、真司君には迷惑をかけそうだね』


次に真司君を呼ぶのは数週間後になるだろう。

本来人間をこの神の空間にホイホイ呼べるほど簡単なものではない。まずは召喚者たちの動きを見て何らかの対策を考え、真司君にアドバイスを与えなければ呼び出す意味がないのだから……


召喚された4人の若者を見て、深いため息をついた。

できれば何事も起きなければ良いのだが……

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