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【完結】幼馴染の彼女は隷属された囚われ聖女。魔王の俺は絶対この国許さない!  作者: 安ころもっち
第三章・魔王vs魔道

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09 怨恨

Side:ギルダーク


帝国の王、ギルダークは自室の椅子に深く腰掛け、大きく息をはく。


「これで後戻りはできないな……」

強く握る拳をじっと見ながらそう話すギルダークは、憎き魔国とそれを良しとする王国への攻撃が行われた報告を受け、想像以上の興奮を覚えていた。


「やっと!やっとだ!積年の恨み……この国がどうなろうと構うものか!徹底的にやってやる!」

その言葉を苦々しく思いながらも、室内にいる帝国の重鎮たちがそれを批判することはできなかった。


「ぼっちゃま、どうやら被害は建物のみで、死人などはでなかったようでございますが、今後は如何いたしましょうか?」

宰相ドルジアーノがそう話しかける。


ドルジアーノはギルダークが幼き頃から世話をしてきた執事であった男だ。


旧ベルライト正教国を故郷とし、ギルダークと一緒にこのスライス帝国に逃げのび、そしてこの国の宰相に収まった男……

この男もまた復讐に燃えていた。それは魔王というジョブを持った別人だということを理解はしてもなお、その恨みは消えることはなかった。


世話になったギルダークの父への恩義がそれ恨みの原動力となっている。


「ああ、忌々しい事に被害はほぼないようだ。王国については警告だったからな。だが魔国の方にはあの1号機を送り込んだというのに……やはり数を送り込むべきだったか……」

「結果を見ればそうだったかもしれませぬね」

「まあ良い!我が帝国の力はあんなものではない!人的被害は無いとはいえ、街の被害は甚大だっただろう。王国とて城の上部が大破したという。私も直接みたかったが仕方ないが、今頃は事後処理であたふたしているだろう!」

魔界が焼き尽くされたのを想像したのか、拳をにぎり喜びを隠せないギルダークの口元は緩んでいた。


ギルダークが言う1号機、というのは魔国を襲った飛行艇のことである。

魔道兵器大国と言われる帝国の技術の髄を集めた飛行艇。


考えうる最大の火力、大量の魔石を積み込んで巨大な動力を保持しており、転移から即攻撃に移ることのできる迅速さも兼ね備えた最大戦力であった。

飛行艇だというにも関わらず、全てを動力として利用するため、あの大きな機体にも関わらず、3名ほどが乗り込むスペースしかないというまさに兵器として作り上げた飛行艇であった。


今回は操縦者は1名だけで乗り込んでの玉砕攻撃……当然ながらその命は機体と共に失われてしまった。


「先の攻撃で……尊い帝国民が一人、魔王によって殺されたのだ!尊い犠牲のためにも魔国に総攻撃を仕掛け、魔王を討伐するのだ!」

そのギルダークの強い言葉に、室内の者達は無言でうなづいた。


「準備は整っております。何時でも出陣できますので……」

ギルダークは明日にも保持する全機を出撃させ、魔都への侵攻を開始することを考えていた。


「出撃は明朝!まずは国境にあるあの壁を破壊し、全攻撃を魔王に叩き込んでやる……今から楽しみだ!」


そんなギルダークを執務室のソファーに座り、うっとりと見ているのは帝王妃エドワースである。

その瞳は恋する乙女そのものであった。


彼女の頭の中には、今夜もきっと滾る気持ちを抑えるため自分を抱くのだろう、出撃を前に無理はできないだろうがきっと何度も私を抱くのだろう……そんなことを考え、ギルダークの顔を凝視し、その顔を赤く染めるのであった。


明日は帝国の総力を挙げての攻撃になるだろう。

帝国が現在保持しているのは、魔国へ送り込んだものと同等のものが100機とまではいかないがかなりの数だ。それらは帝国の技術者が各々の技術を駆使したもので、1機1機が様々な特徴を備えた機体である。


ある機体は雷のような雷撃を放出し、ある機体はレーザービームのような光線を複数放ち、そしてまたある機体はいくつもの機体にばらけると地上に降り注ぎ爆発を起こす……


そんな機体に乗り込むのは、帝国の兵である。

もちろん生きて帰るつもりはない。その兵士たち全員の首には黒い刺青がぐるりと刻まれている……帝王ギルダークの命令には絶対服従の隷属の紋である。


今や兵士たちは物言わぬ人形となって、明日の突撃を待っていた。



Side:エステマ


夜も更ける。

別室では真司と真理が悩み、苦しみ、そして抱きしめ合っている頃、エステマもまた苦しんでいた。


こんな時だというのに、魔国との交流の反対派であった貴族たちから「やはり同盟を結ぶのは早かったのではないか?」との内容の陳情が届いていた。

普段は何かを命じても腰が重い貴族たちが、こういう時だけ素早い動きを見せることにまず腹が立った。


イラつく気持ちを消化させるため、バカな陳情を送ってきた貴族たちをしっかりとリスト化しておく。全てが終わればどうやって罰してやろうか考えながら……


「エステマ様、明日も早いのですよ。もうおやすみになっては?」

「あ、ああ。もう少ししたら寝るよ。レイモンズ殿も先に休んでいてくれ……大丈夫だから。ちゃんと寝る。子供じゃないんだ」

「分かりました。おやすみなさい、我が女王よ……」

「ま、またバカなことを……」

レイモンズの言葉に思わず顔が赤くなるエステマは、そっと部屋を出るレイモンズの後姿を見送った。


ここ最近、自領を離れ自分に付き添って支えてくれるレイモンズ。

今回もスライス帝国に行くならと自領に一旦移動することを提案してくれた。


別に好きだなんだと言いあったりすることはない。ましてや抱き合ったり見つめ合ったりすることもない。だが心を支えてくれるレイモンズに、少なからず愛情が芽生えているのは自覚している。


そしてまた彼も私を好いてくれていると思うのは、決して自惚れではないと思ってはいる。だが自分の気持ちは伝えることはできない。伝える勇気など、どこからも湧いてこなかった。


今まで感じたことのない感情。

勇者の初恋である。


うっかり好きと伝え、もしごめんなさいと謝られてしまったら……潔く自死するだろうと想像できてしまう。壊れる可能性があるなら、今はこの心地よい関係を維持していたい。

そう思ってしまうぐらいには愛していた。


「エステマちゃん恋する乙女の目になってるね」

「ひょぇ!」

茉莉亜まりあの言葉でエステマが変な声を上げ、そしてむせ込んでしまう。


いや、茉莉亜まりあの場合は揶揄うと言うより見たまんまを思わず口にしてしまったのだろう。


「マリア、何を言ってるんだよ。俺は……そんな……」

「そうですはマリア様!エステマ様には私がいるんですから!」

慌てながら取り繕うエステマ。そしてそのエステマに抱き着きながら自分の妄言をさらけ出すイザベラ。


「俺は誰のものでもない!」

その言葉に茉莉亜まりあはクスクスと笑い、イザベラは「もう。照れちゃって」とエステマから手を離し自分の体を抱いて体をくねらせていた。


「それより、明日は頼む。真司がいれば大丈夫だとは思うが、大急ぎで再調査させたら、どうも昼間のような軍事用飛行艇がいくつもあったらしい……今までどこで隠れて作っていたのか……」

「大丈夫だよ。何かあっても私たちは一緒に戦っちゃう運命共同体だからね」

「そうです!私はエステマと一心同体ですから!」

そんな話をしながら少しづつ心を落ち着かせてゆくエステマが「そろそろ寝ないとな」と布団に入り込んだのは、それからかなりの時間が過ぎた時だった。


そしてあまり寝る時間も確保できぬまま、早朝には通信具によりたたき起こされるのであった……



Side:真司


「チュー(魔王様!魔王様!)」

早朝、影鼠かげねずみの騒がしい鳴き声でたたき起こされる。


「な、なんだ!」

俺の声と共に隣で眠っていた真理も眠い目を擦りながら体を起こしている。


「チュー(魔王様!帝国から飛行艇の大群が飛び立ちました!気付くのが遅くなり申し訳ございません!目的地は魔国の方角のようです!)」

「なんだって!」

予想以上の早い襲撃に、心臓が激しく騒いでいる。


「なに?どうしたの?」

「あ、ああ。帝国が……飛行艇の大群を率いて魔国に向かっているようだ」

俺の言葉にぐっと唇を噛みしめ、俺の手を握ってくる真理の頭を撫でる。


「ニャー(魔王様、どうしますか?)」

ベットのそばで寝ていたはずのミーヤも布団に飛び乗って不安そうな顔を向けている。


「そうだな、魔国にたどり着く前に叩くしかないだろう!もうこれ以上、街を破壊されたくはない!」

俺はどうせ今日は向こうへ出向く予定だったのだと覚悟を決め、すぐに迎え撃つためベットから降り準備を始めた。


そして部屋のドアが強くノックされる。


「真司!帝国が動いた!」

エステマの方にも連絡が入ったらしい。


「ああ!こっちにも影鼠かげねずみから報告があったところだ!」

俺の返答に、ドアを開け入ってくるエステマ。その後ろには大急ぎで上着だけを羽織ったであろう寝間着姿の茉莉亜まりあとイザベラも付き従っていた。


「飛行艇が大挙して飛び立ったようだ。数は100機近くあるかもしれないと……どうやら今回は本気の攻撃のようだぞ!」

「分かった、できるだけ魔国まで行かない場所で迎撃したいな」

やはりここに移動しておいて良かったと、提案してくれたレイモンズに心の中で感謝する。


どれだけの速さで進むか分からないが、ここからなら魔国に行くより先に横槍を入れることができそうだ。

今のところ魔国に直接転移してきたとの報告もない。多分転移できる台数なんかは制限があるのだろう。一気に決めるため数で勝負しようとしているのたど考えた。


そして部屋に開いているドアのそばからクリスチアが顔を出す。


「エステマ様、飛行艇の準備はできています。着替えなども用意してありますので、そのまま飛行艇へとお乗りください」

「ああ。ありがとう」

すでに準備万端のようだ。


クリスチアが準備完了と伝えたのは、ここまで乗ってきた魔国所有のあの厳つい飛行艇だ。早くも実践投入となったが、通常の飛行艇で向かうより何倍も安全だろう。


俺も手早く着替えを終わらせると、真理には飛行艇に乗り込むように伝える。同じようにミーヤにも真理の方に付いててもらうように伝えた。

そして屋敷を飛び出すと、待機させていた竜たちを呼び、相棒の赤竜へと乗り込んだ。


そして他の竜や飛行艇を置き去りに全速力で帝国へと飛び立った。


少しでも早く。

帝国の飛行艇が魔国にさしかかる前にたどり着き、押し戻しておきたい。そう思って最高速で飛び続ける。


そして帝国から少し魔国寄りの方角を目指して飛び続け、帝国の領空へと入った時、遠くの方に大量の飛行艇が魔国を目指し飛んでいるのを発見した。どうやら間に合った事を感じつつ、その数に少しだけ驚いていた。


「あの一つ一つが昨日のような攻撃を繰り出すのか……」

そんな一人事をこぼしつつも、負けるわけにはいかないのだと、さらに近づき攻撃を加えるタイミングを計っていた。

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