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06 蚕虫

Side:真司


エステマに真理との結婚について相談した日の夕方、執務室に突撃してきた真理に正座を命じられ、「どうして私に先に言わないの」と説教をされた。

そしてリザはそれを見ながら無言で部屋を出ていった。


俺は「なぜバレた!」と叫んでしまったが、真理からエステマから即座にバラされたという事を聞き腹を立て「アイツ!ばらしやがったな!」と再び叫んでしまう。

だが「悪いのは真司でしょ!」と真理に怒られ、結局そのまま自室へと二人で戻りベットで少し甘えぎみに真理に結婚の申し込みをすると、満更でもない顔をした真理から「最初から言ってよ」と抱き着かれた。


これで晴れて結婚式を進めることになった俺たちは、リザに報告した後、王国に飛行艇で移動してエステマ達に報告をしに行った。

「俺がキューピットになったな!」と意味不明の言葉と共にドヤ顔を見せていたエステマにイラつきつつも、茉莉亜まりあやその他の面々に祝福された。


本当はじっくりと準備したいのだが、何時どうなるか分からない現状、2週間程度の準備期間を取って結婚式を挙げることとなった。

場所は魔都のどこかで行う予定で、王国側の調整はエステマ達がやっておくとのことだった。


魔国に戻り、リザにそれを伝え準備について相談した。

一応真理は主賓だということでゆっくりまったりしたら良いという事にして、リザと俺は忙しい毎日がまた始まってしまった。


そして翌日、俺は朝早くから赤竜の一匹に乗り、王国へと出かけていった。


その肩にはミーヤが愛らしくしがみ付いている。

首にあたる肉球が心地よい。


エステマから聞いた王族が良く使う花嫁衣装のために、天乃蚕虫という虫が出す最高級のシルク糸というのを調達しようという話で、赤竜にのり東の果て、獣人の国にやってきた。


『で、できれば多めに確保してくれると助かるんだけどな、もしかしたら、必要になるかもだということも、あるかもしれんこともない』

その話を聞いた際、エステマがかなり挙動不審な様子に感じた。


「おお。良いけど……なんでそんなにキョドってんだ?」

『キョドってない!いいから頼んだぞ!』

結局早口で文句を言われ一方的に通信具を切られてしまった。


エステマの話では一部の貴族たちに人気のこの最高級シルク糸なのだが、最近は手に入らなくなっているようで、問題があるならそれもついでに解決してほしいこともお願いされた。


現地に赴き、獣人の国の政を担っているという獅子族の男が俺の前に膝をつき、魔国の建国と末永い協力体制を結びたいことを少し震える声でお願いされた。

そして挨拶が遅くなったことを深く詫びられるが、そもそも世界会議の招待も出していない国と言っても一部族のような扱いだった獣人の国、エステマから聞くまで認識していなったことを合わせ、逆に謝罪を告げると安堵の表情を見せていた。


獣人の国とは言うが正確には国ではないらしい。

正式な名前もなく、敬遠されがちな獣人たちが集まって自然にできた場所のようで、王国にも税を払っていない未管理の土地であるため、今回の俺の訪問でなんらかの命令が下るかもという思いもあったようだ。


その目の前で恐縮しまくっているクーガーという男は、原料を提供している妖精族が提供を拒否しているため、糸を生産できていないのだと聞く。妖精族の職人が蚕から出してもらった糸をそのまま原材料として持ってくるのだとか。

獣人族の集めた蜜などを対価に提供されているので、詳しい話は妖精族に聞いてほしいとお願いされた。


そしてクーガーに案内された森の中。


「おーい!俺だー!」

何時もの場所なのか、少し開けた場所で大声を出すクーガー。


「クーガーきた」

「糸ない。蜜タダでくれる?」

緑のクルクル巻き髪と色を合わせたワンピースを着こんだ10cm程の可愛らしい妖精と、同じようにピンクの髪の妖精さんがヴュンという風切り音のあと目の前に現れ、ふわふわと漂っている。


背中のキラキラと透き通った羽は、時折ビクビクと動いているが、その羽で飛んでいるという事でも無いようだ。


「いや、こちらの方が魔国の魔王様である真司殿なのだが、糸をご所望でな。なんとかならないのか聞きに来たんだが……」

「魔王!殺される!」

「根こそぎ奪われる!存続の危機!」

クーガーの言葉に二人の妖精が混乱した様子でぐるぐると森を飛び回り始めた。


「いやいや大丈夫だって。何もしないから。ほら、蜜……蜜ならあげよう。ほら怖くないぞー」

俺も言ってて子供を誑かす誘拐犯のような言動になってしまったことに恥ずかしくなりつつも、即座にミーヤから手渡されたハニービーという魔物の巣からとれる王国産の高級はちみつの瓶の蓋を開け、しゃがんでそれを差し出した。


「いい匂い!いっぱいの蜜!でも罠に決まってる!」

「でも贖えない!屈服!あの蜜に飛び込みたい!」

何やら必死に抵抗しつつもどんどん瓶に近づいてくる二人の妖精を少し面白いと感じてしまう。これが庇護欲というものか。


「大丈夫。俺は取引をしに来たんだ。殺すつもりならこんなこと言わないだろ?なんなら5秒でここ一帯を焼き尽くせるし……」

「キュー!」

「フシュー!」

俺の不用意に発した焼き尽くせるという言葉に驚きすぎたのか、奇声を上げて体を硬直させ……そして地面へぺたりと落ちた二人の妖精。


「どうしてこうなった……」

俺はおもむろに妖精たちの前に蜜の瓶をおき、時間が経てば起きるだろう、とミーヤからレジャーシートのようなものを出してもらってその場に座り込んだ。


今日もスープは美味しいな。

あれから10分程。クーガーも交えシートに座った俺たちは、本日は焼肉弁当な気分だな、とミーヤから出してもらった弁当を食べお腹を満たしていた。


「うっ!タンパク質と甘い匂い!」

「蜜が目の前に!ここは天国!」

どうやら二人が気が付いたようだ。


「おお。起きたらまずは蜜でも食べて、いや、飲んで?まあいいや。まずはお腹を満たして冷静になってくれ」

「蜜!飲む!」

「否!食う!」

どっちだよ。思わず突っ込みそうになったが、瓶に二人で顔を突っ込んでいる。良く見ると小さな舌をペロペロと動かして蜜を舐めているようだった。そうか。正解は舐めるだったか。


「美味しい!これ持ち帰りしたい!」

「でも返すの何もない。体?ごめん無理!」

何も言っていないのだが……


「誤解を招くことを言うな。俺は糸の原料?それを貰いたいのだが、提供できない何か理由があれば相談になるぞ?」

俺の言葉に二人が顔を見合わせ首をかしげている。


「糸、蚕が死にかけ」

「エサない。魔物にやられた」

なんとなく分かってきた。


それから何とかその片言妖精の話を聞くと、あの天乃蚕虫って虫の栄養状況が悪く、さらには近くに魔物が巣を作っておりそのために水源となる水が濁っており、水も栄養も足りていないという事らしい。

糸の品質に関わってくるため、今は糸が生産できないと……


俺はその蚕の育成場へと案内されると、うねうねと動く蚕が50匹ぐらいだろうか。大きなプールのような木箱にパラパラといるのが見て取れた。


「蚕、元気ない。お腹減って力でない」

「水汚い。あまり飲まない」

残念ながら元気がないのかどうかは判断できないが、妖精が言うならそうなのだろう。


俺は自前の魔法の袋から大量の果物や野菜類をその木箱の横に取り出した。


「これだけあれば当面はなんとかなるか?あと食べられないのがあれば言ってくれ」

「すごい!全部蚕食べるやつ!」

「絶対余るけど食べたい!」

出した食料の上でぐるぐる回りながら興奮している二人の妖精。どうやら妖精も食べる分があるようだ。それならこれで交渉できるかもね。まあそれは後で良いか。


「とりあえず当面はこれで。後はその水源の方も見せてくれるか?」

「分かった。でも危険。命からがら!」

「水汲む時決死の覚悟!」

必死な様子で返事を返す妖精を見て、お持ち帰りしたくなってきた。動きが可愛くてしかたないな。心がほっこりする。


「大丈夫だよ。俺は魔王だからな」

「魔王だった!」

「魔物の王!」

そんなことを言いながら、さらに先にある水源まで案内される。


そして目の前に広がる湖の上に、なにか小さな虫のようなものがトントンとお尻を付けているのが見える。


「ニャー(あれは毒蚊ですね。魔物ではありません)」

「そうなのか?」

「ニャー(はい。外敵がたまたまいなくて繁殖したのでしょう。水を自分たちの都合の良いように毒化して縄張りを作ります)」

「なるほど」

相変わらず歩く辞典のようなミーヤの解説を聞き、どう対処しようか考える。


「あれ魔物!近づくと針で攻撃していくる!」

頭を抱えてビビっている緑妖精。


「刺されたらパンパン!痛い!」

桃色妖精が腕が大げさに盛り上がったようなジェスチャーをする。


どうやら死ぬということではなく腫れるといったところが……だが水源がこれでは蚕にとっては害しかないんだよな。


「なあミーヤ。この虫を死滅させたら何か弊害があるのか?」

「ニャー(害虫以外の何物でもないですね)」

良し!殺ろう!


と胆略的に思ったが一応許可を取ろうと踏みとどまった。


「なあ、これ害虫らしいから全滅させても良いか?」

「殺ってよし!」

「すぐ殺ろう!」

「まあ、良いんじゃないかと。元々王国の土地ではありますし……」

妖精たちはヤル気に満ちていたがクーガーの一言で少し冷静になった。


俺は通信具を取り出すとエステマに連絡をした。


「ちょっと確認なんだが、あの村のそばに大きな湖があるんだが、そこに毒蚊って害虫が大量発生してるんだ。水源を汚す害虫らしいんだが全滅させてもいいのか?」

『おお!それで糸が取れるんだろ?ならいいぞ!』

「分かった」

エステマの了承を取り付けた俺は、意識を集中させ湖の縁にしゃがみこむと、左手をかざし湖を凍らせてゆく。俺の近くからドンドン氷ってゆく湖面。毒蚊が怒り狂っているのかこちらへ一斉に襲い掛かってくる。


「来た!死ぬ!」

「死んだ!今日死んだ!」

「うるさいなー!大丈夫だって!」

俺は右手を前に突き出すと、風の刃を大量に生成して嵐のように回転させながら迫りくる毒蚊たちを薙ぎ払ってゆく。運よくすり抜けてくるものも居たのだが、俺は全身を黒い炎に包み、毒蚊を焼き殺していった。


「もういいだろう」

数分間そんな感じで殲滅作戦を結構したが、さすがに魔力がごっそりと無くなった感覚に大きく息をはく。


「これが魔王の力!」

「世界の終わり!」

目を見開いた二人の妖精が何か言ってるが、とりあえず湖面の氷についても解除を念じ氷が全て消え去った。おそらくこれでほぼ全滅しただろう。湖面の底を意識して全てを凍らせれたとは思う。


「さすがですね真司殿。あらためてその強大な力の一端を感じれたことを嬉しく思います」

またも膝をついて俺のそばで頭を下げるクーガー。


なんだかこんな感じも久々にされたような気がする。


後はこの湖の毒か……

俺は妖精の二人、そしてクーガーにこの場で待っててもらうように伝え、通信具で今度は真理に連絡を取るのだった。

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