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05 警戒

あの世界会議から1ヵ月以上も過ぎ、概ね魔国の基本的な整備が終わった。


もちろんまだまだ改善していかなくてはならない部分もあるだろうが、それは追々というところで良いだろう。

資金も人員も日々勝手に増えてゆくのだから……


王国の影や、影鼠かげねずみなどの報告では、相変わらず帝国の動きはないようだ。

もっと早くに攻めてくるかもと思っていたが、妨害工作すらも無いようだし若干困惑してしまう。


いくら魔道兵器の先進国である帝国と言えど、さすがに王国と魔国の両方を相手するのはどう考えても無理筋だろう。それを感じて帝王ギルダークも俺たちとの対立するのか、仲良くやるのか再考しているのかもしれない。


そんな願望にも似た考えも頭に思い浮かぶが、あの世界会議での復讐に燃えたギルダークを思い出し望みは薄いと感じざるえない。

こちらとしても国として整備を粗方終えた今、それらを今更めちゃくちゃにされたくはない。


当面の防衛策として、俺は帝国側に面する海岸線上に巨大な監視施設を作らせた。あの巨大な飛行艇などで上陸され、街をめちゃくちゃにされる恐れもあるし、まだ見ぬ兵器を携えた軍用機なんてものも存在するかもしれない。


すでに真理の『結界』と同じような魔道具は開発できていた。

あの世界会議でギルダークの使っていたような魔道具だ。

あれほど小さくは出来なかったらしいが、大量の魔石を動力源とした強固な防壁を一時的に発生させる設備を監視施設に設置できたので、万全の守りと言っても良いだろう。

もちろん俺並みの破壊力のある攻撃を受ければ、結界なんて紙のようなものだと思ってはいるが……


だがいくら魔道兵器大国と言っても、そこまで強力な兵器が作成できるのだろうか?

そんなことに力を注ぐよりも魔国内に侵入し、同時多発テロのように暴動を起こす方がまだ可能性があると考えている。


俺も今は修行をする時間がまったく取れず忙しい日々を過ごしてはいるのだが、今や眷属魔人が日を追うごとに増えている状況だ。こうしている間にも上乗せされる能力値が増え続けている。

もやはエステマであっても覆せないほどの力を持っている。そんな俺の能力は帝国にも伝わっているだろう。それともそういった情報は入手できていないのだろうか?


もしかしたら魔王メビオスについても、メビオス一人を相手に勇者と共に多人数でボコボコにして何とか討ち取った程度、と思っているのかもしれない。

それであれば時間をかけて妨害工作で魔国を疲弊させ、対応に追われた俺が疲れ切ったタイミングで魔道兵器でフルボッコ……なんて考えているかもしれない。


こちらとしても帝国が勝つならそのぐらいでしか勝ち筋が見えないとは思っている。今しがたの定期連絡でエステマにも『暫くその路線でくると想定して防衛を考えたらどうだ?』と言われていた。


さっそく俺はニガルズを『眷属召喚』で呼び出すと街中の警備を強化することを命じた。そして影鼠かげねずみにも怪しい者がいたらすぐに影に入り込んで言動を調査するよう命じた。

こんなことならギルダークにも影鼠かげねずみを付けておけば良かった。と思ったが、多分あの結界の魔道具あたりではじき出される可能性を感じ、さらには今更だなとも思いこれ以上を考えることをやめた。


「さて、大工房か……」

俺は執務室の席を立つと、先ほどニガルズを呼び出した際に「大工房にお越しください」とお願いされたため、軽い足取りで目的地へと向かった。


大工房は各工房が並ぶ魔都中心地の外れの方にある巨大な研究施設である。そして密かにそこで研究開発しているのが、魔王メビオス討伐の際に出た巨大な魔石を使った新型の飛行艇だ。


もちろん移動だけなら竜便でも良いだろう。

いや……ぶっちゃけ言うと真理をはじめいつもの面々は風魔法を使って飛翔することも可能になっていた。みんなかなりの魔力量を誇っているので、何度か練習をしただけで飛べるようになってしまった。


切っ掛けは最近になって運動不足解消のため始めた毎朝の運動でのこと。城の中庭に集まった俺とリザの前で、真理がふざけて「飛翔術!」と某地球のバトルアニメに出てきた魔力を纏って飛ぶイメージで風魔法を使う。

ビュン!という風切り音が聞こえたと思ったら、真理が数十メートル上空に体が投げ出され、俺は慌てて落下してくる真理を両手で受け止めた。


もちろん結界などでケガなどは防げたかもしれないが、真理が驚いた顔のままで固まっていたので正直結界を発動できたか怪しかった。俺がいる時で良かったと背筋が凍る思いだった。


その日は結局一日かけて真理とリザと一緒に飛翔術の練習に使っていた。

リザはそんな発想は無かったようでイメージし辛かったのか中々成功しなかったようだが、割とすんなり使うことができた俺と、今度はうまく使うことができた真理を見ながら、徐々に飛翔することができるようになったのを覚えている。

そう言えばニガルズを含め魔人たちはちょいちょい飛翔してたじゃん?と思ってリザに聞くと「それは魔人だからだと思ってました」という回答が返ってきた。


夕方にはそのことをエステマに連絡すると、次の日の朝には茉莉亜まりあ、イザベラ、エステマの順で無事飛翔することができるようになったと、通信後越しでも分かるぐらい喜んでいた。


ということで本来は不要なのだが、ぜひとも帝国に負けない飛行艇を作成し、それを抑止力として帝国に対して牽制ができないかと思って開発させていた。

俺に来てほしいということは、恐らくそれが完成したのか、それとも問題が発生して頓挫したかなのだろう。


「魔王様、これが私たちの技術の全てつぎ込んだ魔艇・魔王真司様号です!」

「その名は却下だ!」

大工房に到着した俺たちをニガルズを含め魔人たちが膝をついて出迎えてくれたが、いきなり発表されたネーミングに出鼻をくじかれた。なんだよ真司様号って……


だがネーミングは別として、完成したと言う新型飛行艇は大きさはエステマが所有している者の1.5倍程であるが見るからに厳つい。

ギラギラと輝く黒いボディで周りには筒状の魔道設備が、四方八方に装備され黒光りしている。『魔道砲』という大砲のようなものらしい。


そのすべてが黒かった……

主たる動力源をあの巨大な魔石としつつも、攻撃手段の『魔道砲』やいざとなれば強力な結界を生み出す設備も積んでいるという。

とにかくすべてが黒すぎる……


補助的な動力源として魔力炉と言う箱状の魔道具に魔石を放り込んで置くことで作動するようだ。もちろん直接魔力を注いでも良いらしいが、それは不具合の原因になりえるからあまり推奨はしないのだとか。

他の飛行艇も同じ仕組みらしいがその出力も容量も他の追随を許さないものらしい。魔国では魔石は潤沢にあるので燃料に困ることはないだろう。だが黒光りっているのはどうなのだろうか?

真っ白とは言わないができれば淡い青や緑あたりで……


「なあ、この真っ黒なのはなんとかならないのか?」

「魔石を主な原料として軽量化と強靭さを実現しているので……」

俺の質問に神妙な表情で返答してくるニガルズ。


そうか……無理なのか……

俺は抑止力としては見た目のインパクトも大事だし仕方がないだろうと諦めた。


実は魔石に色を乗せる技術もあるため、複雑なデザインのペイントであっても自由に実現できるのだ。だがそこはニガルズを含め魔人たちの美的センスからくる拘りにより、その事実は真司に告げられることはなかった。


それから数日、俺は毎日意味もなくその新型飛行艇で王国まで行ったり来たりして、その話が帝国に伝わるように努めていた。これで謝罪の書簡なんかが帝国から届けば良いなという思いを籠めて。


可能な限りの準備は整えた。だがまだまだ不安は消えない。


帝国は、というか帝王ギルダークは考えを変えないだろうという思いがある。あの憎悪に染まった眼には多分死に目に会わない限り変わらないであろうと感じてしまった。油断せず考えられる防衛を進めて行こう。


そう思う俺だが、そろそろ真理との結婚式でも……そう考えてしまう。

多忙でストレスを抱えた俺は、癒しを求めて結婚式の準備をせねば、と真理がリザとお出かけしている間に、通信具でエステマに相談するのであった。


◆◇◆◇◆


Side:真理


「真理様少しお待ちを。エステマ様から連絡の様です」

「じゃあ私、あのお店でクレープ買ってくるね」

リザ二人でと魔都の大通りでおしゃれな服を物色し終わり、そろそろおやつでもと思った時間帯、リザが腰に付けていた通信具が反応して足を止めた。


最近になってフロイトスという魔人さんが率いる錬金技術部でようやく完成した、小型ながら複数個所と連絡が取れる最新の通信具だ。

私はリザに伝えた通り、近くのクレープ屋さんの前の屋台で美味しそうな新作のクレープの写真を眺め、今日のおやつを物色する。


この写真も、真司のふわっとしたカメラの知識から錬金技術部で作成したものだ。魔石を使えば様々なことを叶えてくれる魔道具が作成できるという。

魔石は本当に便利な素材だ。たとえそのカメラと名付けられた魔道具が縦横1m程度の巨大なものであっても、生活を豊かにすることに変わりはない。その魔石が潤沢に取れるこの魔国はどんどん豊かになるだろう。魔石は人類を救うのだ。


そんな哲学的なことを考えながら、新作の『ベリーと恋をしたチーズクリームちゃん』といういわゆるベリークリームチーズのようなクレープと、『荒ぶるボアくんに捧げる自由な草原』というお肉と野菜のクレープを購入した。

このネーミングセンスがどうなのだろうと思いつつも、話の終わった様子のリザの元に戻り、近くのベンチに腰掛け、クレープをシェアしながらお腹を満たした。


「真理様、真司様が近く結婚式を挙げる予定とのことです」

「えっなんて?」

私は思わず食べ終わって手に丸めていたクレープの包み紙を手放してしまった。


「先ほどエステマ様に『そろそろ結婚式をやりたいと思ってる』と相談が持ち掛けられたそうです」

「へ、へー」

リザが私の落とした包み紙を拾いながらそう教えてくれたのを、考えがまとまらない頭で考えながら返事を返す。


これ私が最初に言われなきゃダメなやつなのでは?


「真司様はまだ真理様に内緒にしたかったようですが、エステマ様に伝えたからにはすぐに噂は広がるでしょう。見知らぬ誰かから突然の祝福を受けるより、せめて私からと思いお伝えしました」

「エステマちゃんっておしゃべりキャラだったんだね」

確かにエステマちゃんって「ちょっと聞いてくれよー」と色々な話を振ってくることが多かったなと思い出す。


見知らぬ誰かから「おめでとう!」って言われたら混乱するもんね。リザの判断は正しいと思う。でも真司は私に最初に相談すべきでは?とモヤモヤしてしまう。


「帰ったら真司に説教だね」

「そうですね。勝手に話を勧められては困ります。まずは私に相談すべきです」

「いやそこは私じゃない?」

私が戸惑いながらリザにつっこむとリザは「ふふ」と小さく笑っていた。リザはたまにこんな冗談を真顔で言うこともあり、私もつられて笑ってしまう。


だがそれでモヤモヤが消えるわけでは無い。

私はリザと一緒に城へと帰り、真司の居るであろう執務室に突撃した。

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