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【完結】幼馴染の彼女は隷属された囚われ聖女。魔王の俺は絶対この国許さない!  作者: 安ころもっち
第二章・魔王vs魔王

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21 奪還

「ニャー(魔王様!魔王様!魔王様ー!)」

ミーヤがこちらに向かて走ってきている。もちろん俺もミーヤまだ走りそして飛び込んできたミーヤを優しく抱きしめる。


やっと取り戻した。この世界に来て初めて安心を得ることができた仲間、相棒を……


「ミーヤ!元気だったか?どこもケガしてないか?」

「ニャー(はい!元気です!ケガもないです!魔王様が絶対に助けてくれると待っていました!)」

俺は「そうかそうか」と言いながら頭を撫でまくる。


気付けば周りには魔狼や氷狼ひょうろうたちが、頭上には風吹鷹かぜふきだか夫婦に火喰鷲ひくいわしが、みんなこちらを見て嬉しそうに鳴いていた。俺は取り戻した皆を抱きしめ心から安堵した。


「よし、後はアイツらを倒してくる!そしたらのんびり暮らそうな」

その言葉にそれぞれが返事を返す。


真理も「よがっだよー」と少しだけ不細工に泣いている。だがそれもまた可愛い。


「じゃあ少し離れててくれな。真理、こいつらのこと頼んだぞ」

俺の言葉に涙目の真理が無言でうなづき再びミーヤを包むように結界を張る。茉莉亜まりあと他の眷属達やクロも集まり万全の態勢で身構えている。


残るは魔王メビオス、ネルガル、ラマシュトのみだ。

ネルガルにはリザとヴァンが再び向かい、迫りくる魔法の数々を拳で打ち落としている。

ラマシュトの方はエステマが向かい、魔剣と聖剣が激しくぶつけ合っていた。


必死で抵抗するネルガルとラマシュトだが、どちらもメビオス側の眷属魔人を倒したことでかなりパワーダウンしているようで、エステマとリザ、ヴァンもそれなりに余裕をもって戦えているようだ。


あっちは三人に任せて俺は俺の仕事をしよう。

そう思って再びメビオスに向かい合う。


短く息を吐くと手に持つ雷刀らいとうに魔力を籠め、『神速』を使い切り込んでゆく。再び鋼鉄の様な分厚い壁が出現するが、それは大量の魔力が籠った雷刀らいとうにより大きく切り裂かれてゆく。


砕け散り消えてゆく鉄壁に向かって黒い炎を飛ばし魔力の流れを感じると、手に取るようにメビオスの移動先を感じることができている。やはりミーヤ達のように繋がりの強い眷属が戻ってくると、飛躍的に力が増えるのを感じる。

このまま何事もなく余裕で倒せてしまいそうだと思えるほどに……


そう思いながらも油断は禁物と移動先目掛けて雷刀らいとうで切り裂くと、現れたメビオスが血を噴き出しながら後ろへと飛んで逃げる。

そのさまに高揚感すら覚えてしまう。


「なんだか拍子抜けだな」

「だ、だまれ!」

そう言いながら俺は追撃するため走り、そしてメビオスの飛ばす鉄棘のような無数の攻撃を弾き、躱し、黒い炎で焼き溶かしていった。


その炎はメビオスの元までも届いたようで、メビオスからはまたも唸るような悲鳴が聞こえてきている。

魔力の移動は無い。ただこちらへと強い魔力の塊が見えるので、俺は脚に力を籠め上へと飛んだ。その足元を黒い炎が通り抜けて行く。その先にはメビオスがこちらを見ながらまた視界から消える。


魔力の流れを感じながらも、残念ながら着地まで間に合わず距離を取られてしまう。まったく便利な魔法である。

できれば俺も使ってみたいな瞬間移動、と思いながらもまたメビオスに向かって行こうと思ったが、メビオスから異様な魔力の膨らみを感じ足を止めた。


「いい気になるなよ!」

メビオスがそう叫ぶと同時にネルガルとラマシュトが召喚される。


咄嗟にエステマたちの方を見ると、三人とも呆気に取られた様子でメビオスたちの方を見ていた。


「皆殺しだ!」

そう叫ぶと同時にネルガルとラマシュトが跪くとメビオスが左右の手でそれぞれの頭を押さえ……メビオスの両手に吸い込まれるように膨大な魔力の移動を感じ、そして二人の眷属がそのまま塵のように消えていった。


「な、何してんだ!」

俺が思わず叫んだ次の瞬間、メビオスの体はぼこぼこと全身が蠢き血を噴き出しながらその形を変えて行く。そしてその内包する魔力が何倍にも膨れ上がているように見えた。


暫くするとその動きは落ち着いたようで、2回りほど大きくなったメビオス。

その手にはラマシュトが使っていた魔剣が握られている。


魔王にはそんなこともできるスキルがあるのか……

そんなことを考えていた時、メビオスが視界から消えると同時に「ぐはっ」というエステマの声が聞こえ、慌ててエステマが居たはずの場所を確認する。すでにその時には姿は無く、吹き飛ばされ地面を転がるエステマだけが見えた。


俺は焦りながららも魔力がリザの方へと移動するのを捉え『神速』で駆けだすが、リザは冷静にその動きを捉えて拳を振り抜いた。

その拳は空を切ったものの、すぐに標的をヴァンに変更したようで、今度はヴァンが素早い動きからメビオスの繰り出す攻撃を避けていた。


どうやら動きは早くなったが捉えられないほどでは無いようだ。


「そいつは俺がやる!」

俺の声に反応して足をとめたメビオス。


「リザとヴァンは真理たちを頼めるか!」

俺の言葉にうなづくより早く移動を開始した二人。さすがにあの動きは真理たちには追えそうにないと感じたからだ。万が一にも真理たちを人質になんてされたらさすがにやばいからな。


先ほど吹き飛ばされていたエステマの方へ眼を向けると、すでにそこにはエステマの姿はなく慌てて周りを見渡すと、さっきとはまた別の場所でメビオスを捉え聖剣を振り抜いているエステマの姿が確認できた。

さっき吹き飛ばされたのは多分だが少し気を抜いていたのだろう。


エステマの聖剣を魔剣で受け流しながら戦うメビオス。俺はそこに割り込むように高い位置から複数の岩棘を飛ばす。

それはメビオスに感知されたようですぐさま躱され、今度は俺の方へと飛ぶような速さで移動しては魔剣を打ち込んできた。


「ぐっ!」

その一撃の重さに俺は歯を食いしばる。


「忌々しい!大事な眷属をこんな矮小な者に消費させられるとは!」

力任せにガンガンと魔剣をぶつけられ、腕の痺れを感じながらもなんとか凌ぐ。


けん制のためにと左右から岩棘を生成しながらなんとか撃ち込んでいるが、同じように岩棘を飛ばされ相殺されてしまう。さすがに魔法の扱いは年季が違うのだろう。悔し紛れに雷刀らいとうに過剰な魔力を加えながら必死で腕を動かしてゆく。


「いい加減に……しろー!」

俺の攻撃は魔王の気合の咆哮と共に跳ね上げられ俺の体勢は大きく崩れてしまう。


すぐに雷刀らいとうを引き戻したいのだが、跳ね上げられた勢いを戻すことに難儀している中、メビオスの魔剣が迫る。

そして……


「ぐっ!ぐぼぉっ……」

メビオスはエステマの聖剣に背中から喉あたりまで串刺しにされ、大量の血を噴き出している。


俺はその光景を見て力が抜ける感覚を覚えそのまま地面にへたり込んだ。あれは……明らかに致命傷であろう。


「おの……れ……」

「ふう。お前が真司ばっかり構ってるからだよ」

メビオス自体は強くなったがこちらはエステマと二人がかりだからな。かえって楽に戦えている気さえした。


「知ってるよな。魔王は、勇者が倒すもんなんだよ!」

エステマが何気に痒くなるようなことを言いながらメビオスから聖剣を抜き、軽く横に振って血を飛ばすと、腰の鞘に治めた。


そしてメビオスが両ひざをつき、さらに傷口からは大量の血を噴き出していた。

これで……終わったんだな……


「我がこんなところで……まあ、いいだろう……新米魔王、今度はお前が勇者に討伐される番だ……」

「そんなことねーよ」

ねーよとは思う。思うがさっきのエステマの言葉に少しだけ心臓が五月蠅く騒いでいる。いや、エステマは俺を生かすことで平和と保つと言っていた。大丈夫なはずだ。大丈夫だって信じてここまで来たんだ。


「今は良い。だが何かあれば……人間とはそのようなものだ。のう、勇者よ……」

エステマの方を見て少しだけ笑うメビオス。


「うるせーよ!黙って死んどけ!」

エステマが叫びながらメビオスを蹴り倒し、そしてそのメビオスは黒い塵となって消えていった。


後には見たことも無い特大のサッカーボールサイズはあろう黒く輝く魔石だけであった。


こうして俺たちは魔王メビオスを倒し、俺たちの日常を取り戻した。


◆◇◆◇◆


「やっと、終わったんだな」

俺は地面に寝そべっていた体を起こしながらそうつぶやいた。


あれからしばらく、俺は力が抜けたように寝転がり体を休めていた。

真理と俺の眷属たちは俺の元まで集まっている。


そして真理は今、俺の手を握り隣で寝息を立てている。精神的に相当疲れたのだろう。その横にはクロが寄り添うように丸まって眠っている。

ミーヤは俺の膝の上でくっつき、「ニャーニャー」と猫のように鳴いている。魔狼たち他の眷属も傍で同じように喉を鳴らしたりしながらくつろいでいる。


リザとヴァンは少し不完全燃焼だったようですぐ近くで体を動かしている。どことなく緊張が消えリラックスしている表情を見せてはいるが、大地が震動しそうなほど激しい殴り合いをしている。


戦いを終えた後、エステマはすぐにクリスチアには連絡を取っていた。数分後にはすぐ近くに飛行艇が止まり、飛行艇から飛び出てきたクリスチアがエステマに抱き着き未だに泣いているようだ。

そのそばには茉莉亜まりあとイザベラも同じようにくっついている。


「さて、いい加減一旦戻るか?」

「そうだな」

少ししてエステマが発した言葉に俺は真理を揺り起こしながら答えていた。


「ニガルズたちはすまないがあの魔窟から出てくる魔人たちを頼む」

俺は大量に食料を余らせている魔法の袋を投げ渡しながら、居城から少し離れた場所にある魔窟を指差しニガルズたちに待機を命じておく。すでに何人か魔人が出てきており、それらを眷属魔人が従わせている。


「かしこまりました!ここでも強い魔人をさらに増やし、魔王様の帝国を築き上げましょう!」

そう言ってすぐに魔窟へと走っていくニガルズ達だが、俺の帝国なんて作る気はないのだが……


ニガルズの戯言は置いとくとして、東の魔窟に待機させている魔人たちもいずれはここらに移動させ、また近場で修業を繰り返せば魔人たちもさらに増えるだろう。

今後は魔人による便利屋として一財を稼ぎつつ、のんびり真理たちと平和に暮らすのも悪くないと思う。


「よし!帰って祝杯でも挙げるか!」

「ニャー(魔王様!みんなで食事!楽しみです!)」

「ガウ(宜しければ私もご相伴にあずかれば嬉しく思います!)」

俺の声に眷属たちが各々の鳴き声を上げながら擦り寄ってくる。


「私もお肉食べたい!」

「そうだな。肉だな!」

真理とエステマはやっぱり肉らしい。俺も肉が食いたいが野菜も欲しいな。そんなことを考えながら俺たちは飛行艇に乗り込み、拠点へと戻って行った。


その後、本当にこの魔界に新たな国を作ることになることを俺はまだ知らない……

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