14 活性
それぞれが修行をしている中、俺はクリスチアに飛行艇を操縦してもらいながら魔界を回っていた。
上空から見える街と思われる場所を徹底的に回っていた。
しかしそのほとんどが誰もいない無人の街と化していた。
もしかしたら今頃、魔人たちを魔都に集め、メビオスがその力を蓄えているのかもしれない……そう思いながらも注意深く全ての街を回って行く。
結局ルート上の森の一部で竜種であるワイバーンを3体ほど見つけ、眷属と化したのだが魔人の姿は見られなかった。とは言えこれで竜にまたがり移動も可能となった。初めて乗っても大丈夫な飛行体である。
思わぬ収穫に少しだけテンションが上がる。
俺は魔界での拠点にしている東の魔窟周辺に移動するよう命じると「ギュルル(心得た!)」と鳴きながら飛び立っていった。
俺も飛行艇へ乗り込み後追うように東の魔窟へと戻った。
魔窟周辺では相変わらず魔人たちが魔法による攻撃を打ち合う訓練が繰り広げられている。
それにより漂う魔力に魔窟が反応して活性化するようで、心なしか魔窟から這い出る魔物や魔人が増えているようなのだ。それに気づいてからはこの周辺はあぶれている魔人たちの訓練する場所と指定していた。
その影響で次々に魔窟から這い出て増え続ける魔人たち。
それらも訓練に加わることでさらに魔窟の活性化は進む。
俺は少しだけ休憩を取るとその魔窟の入り口から這い出る魔人たちを棍で軽く横なぎにして蹴散らすと、そのまま魔窟の中へと入ってゆく。
ここ数日は魔界の西側を回っていたため、暫く入っていなかったその魔窟の中は魔人や魔物たちが溢れかえっていたが、それらを極力減らさぬように『神速』で駆け抜け最下層を目指す。
暫く飛行艇にのったり下りて少し戦ったりと休息していたようなものだったからか疲れがすっかり抜け体が軽い気がする。休息も大事なのだと改めて思った。
そしてあっという間に最下層へとたどり着いた俺は、周りにいる魔人たちを持ち替えていた雷刀で屠ってゆく。
歪みのすぐそばまで近づくと、一度息を吐いてから歪みに手を向ける。そして大量の魔力を一気に送りこんでからポーションとアッポジュースでいつもの苦行を行いながら少し距離を取る。
回復しつつある魔力で大量の炎を生成し歪みに向かって射出した。
出てきたばかりであろう魔人たちの悲痛な叫びが響き、少し心苦しく感じでしまうがレベルを上げるためと思い飲み込んだ。こうして大量の魔力による魔法攻撃をすることで、さらに活性化される時間が延びることは分かっている。
絶えず炎を噴き出す人間火炎放射器のようになりながらも、時折減った魔力を回復させえようと、ポーションとジュースを飲み干し、お腹の張りに耐えながら3時間程度の苦行を行っていた。
途中ちょっと魔力の枯渇と精神疲労により気絶しそうになったが、止んだ炎の隙間から出てきた魔人の雷撃により意識が覚醒してなんとかその場を切り抜けた。
常に魔力で体を覆っていることが日常になったことが功を奏したようで雷撃の一発や二発というところであるが、できれば食らいたくないほど衝撃を受けた。心臓が驚きでバクバクしてしまい体に悪いと思う。
それでもこの3時間でレベルが10以上は上がったと思う。
ここ最近では一番レベルアップ音を聞き続けたためか、今でもあの音が鳴り響いている幻聴が聞こえているような気がする。俺は炎を止めると活性化が少し落ち着いてきた歪みに近づき、もう一度8割程度の魔力を籠めた後、全力で離脱した。
これで活性化された魔窟からさらに多くの魔人たちが生まれるだろう。魔王メビオスを倒すのも、その後この魔界全土を発展させるにもとにかく人力、ならぬ魔人力が必要なのだ。
そんなことを考えながらも十分程度の時間で地上へと戻った。
地上に出ると、相変わらず魔人たちの訓練は続いている。中には疲れて休憩中の者、根性で戦い続けている者、休憩が終わりまた訓練を再開するものと、各々頑張って力を蓄えている様子が伺える。
先ほど注ぎ込んだ魔力の影響でしばらくしたらまた魔人たちが這い出るペースも上がるだろう。眷属はいくらいても足りないだろうから、どんどん増やしていってほしいものである。
ちなみに少し前に「あの歪み付近で『眷属召喚』してみては?」とエステマから提案があったが、『眷属召喚』で呼び出した魔人に、歪みに向かって魔力を注ぎ込んでもらったが、その魔力は『眷属召喚』で俺が消費した魔力量と変わらないように思えた。
距離に比例して使用魔力が増えることは分かっている。
そのせいでこの魔窟周辺にいる者たちでさえ、歪みの近くで召喚するなら1体だけでも1割程度の魔力を要する。それならその分を直接歪みに注いだ方が効率が良いだろう。という結論になった。
俺は魔窟近くに最近建てた小屋に入り、備え付けられているベットに寝ころび体を休めていた。
ある程度ひと段落したら今度はみんなで潜ってみるか?
そんなことを考えてはいるが、相変わらずエステマは忙しく色々なところへ出向き根回しをしているようだ。リザは暫く帰ってきていない。真理から心配する連絡がくるがリザ本人からは定期的に「大丈夫ですから」と連絡が届いているらしい。
真理と茉莉亜、そしてイザベラを連れて4人でというのも良いかもしれないが、正直まだあの3人では最下層で鬼湧きしている中は厳しいだろうと思う。戦闘職では無いから当然と言えば当然なのだが……
少しだけ寂しさを覚えた俺は一旦拠点に戻るかな?と思ってしまう。
今日は早めに寝てしまおう。そう思って魔法の袋から夜食を出すと、お腹を満たし装備を脱ぎ捨て布団に潜り込んだ。
◆◇◆◇◆
一人孤独に魔窟へこもっては夜には地上に戻る生活を繰り返している。
こもりっぱなしでは孤独に耐えられなくなっている。
夜には戻り、眷属とは言え魔人たちと少し会話をしながら食事をとっていた。
会話と言っても今日はどうだった?順調に進んでいるか?とか、何か要望は無いのか?という事務連絡のような会話になってしまうことが多かった。
だがその中で、魔人族としての潜在知識について確認することができた。
魔人たちは魔窟から這い出ると自我が芽生え、その際に魔人としての基礎知識がインプットされるような感じらしい。そして他の魔人たちを探すようにしながら、近くの街を目指すのだという。
その知識の中には、魔法の使い方であったり、効率の良い成長方法や魔人としての存在意義などが刻まれると言う。
効率の良い成長方法については『殺し合え』というシンプルなもので、存在意義は『他種族を殺せ』という物騒なものらしい。魔法の使い方といってもイメージとして色々な魔法の種類などが浮かび、それを使おうとするとそのイメージが思い浮かぶだけらしい。根本的に俺たちの使っている魔法の使用方法とは異なる知識のようだ。
そんな、あまり為になるのか分からないような知識を蓄えつつもレベルを上げて行くのだが最近は退屈過ぎて気が滅入ってしまう。
連日の活性化で少しづつ魔窟も成長しているように感じてはいるのだが、正直俺のレベルが上がりすぎているのか、あまりレベルが上がらなくなってきているし、何より手ごたえが無さ過ぎる。
正直退屈過ぎてそろそろ死にそうだ。もちろんたまに真理などから連絡があるのだが、地球にいた時のように長々と話すことはできない。通信具がそこまで長く通話し続けられる魔道具では無いらしい。
そもそも真理の周りには誰かしらが居るのだから、甘いトークなんてできるはずなかった。
せめてみんなで集まり本気で魔窟を成長させ、手ごたえを感じるような魔人たちが湧く状態まで持っていければ……という思いが日に日に強くなってくる。
そんなことを思いながらも今日も一人寂しくベットに寝ころび、深いため息をついていた。
その時、ベットの上に置いてあった通信具が反応した。俺は慌ててそれを手に取り応答しようとボタンを操作する。
『真司ー!面倒な依頼だよー!』
俺は真理の声を聞き少しだけ口元が緩んだ。
「面倒な依頼?」
『うん!なんでも魔人さんたちでも捕まえられない魔物が出てきて困ってるらしいよ?』
「ニガルズでもか?」
『そうみたいだよ?』
俺はニガルズでさえ手に余る魔物が出てきたということで、少しだけ心が高揚したのを感じた。
仮にもニガルズは眷属の魔人の中では一番強い。
そのニガルズでも手に余るなら俺が出るしかないだろう。まさか多忙なエステマやまだ戻ってきていないリザを頼ることもできないだろう。
「それじゃ仕方ないな!明日の朝一に一旦そっちに帰るから迎えをよろしく!」
『分かった!待ってるから!』
「お、おう!」
真理の嬉しそうな返答に少し気恥ずかしくなって思わず通信を切ってしまった。
明日は拠点に戻れる。まあ依頼なんだから仕方ないよな。そう言いながらも頬が緩んでしまう。今日は早く寝よう!そう思い夕食を終わらせ、魔道具で念入りに浄化をして布団に入った。
翌朝、朝食を早めに済ませた俺は、落ち着きなく魔窟の入り口近くで空に向かって黒炎を放出して活性化を促していた。すでに何体もの魔人たちが魔窟を這い出てきたのでそれを棍で軽く叩きのめしては訓練に加わってもらった。
軽く汗を流れ出る頃、遠くの空に飛行艇が向かってくるのが見えたので、俺はタオルを取り出し汗を拭くと、再度魔道具を出して全身を浄化した。
「真司!」
予想通り真理も一緒に乗ってきていたので飛行艇から走って降りてきた真理を抱きとめた。
そして俺の胸に顔をうずめ「ふへへ」と笑う可愛い真理を撫でながら、クリスチアの冷たい目線に耐えていた。
真理を抱きかかえるようにして飛行艇に乗り込み、ソファに並んで座り改めて依頼について話を聞くと、拠点にニガルズがいるので詳しくはそこで話を聞いてほしいということだった。つまりは何も聞いていないと……
俺はまあ良いか、と思いながら真理と一緒にテーブルの上にある焼き菓子をつまみながら、互いの修行の成果を話し合った。
久しぶりの真理との長話に心がモリモリ回復して行くことを感じることができた。やはり俺には真理との楽しい時間が必要だ……改めてそう感じながらしばしの空の旅路を楽しんだ。




