11 魔法
エステマたちが頑張ってくれたようで魔人たちを大陸の方で活動できるようになった。
なんでも城の復旧完了の式典でエステマが大演説をかまして市民の賛同を勝ち取ったのだとか……俺も見てみたかったな。
昨日の夜には各地へ魔人をリーダーとした眷属の魔物たちを交えたグループを10個ほど作成し各ギルドに派遣、周辺の厄介な魔物を駆除と言う名の眷属化して連れ戻る。そんな計画は動き出していた。
また、そのメンバーから外れた数十人の魔人たちはパーティを組んで魔界に戻り、あの魔窟のかなり深くまで潜りレベルを上げるよう指示をしていた。
いずれの魔人たちにも影鼠がついている。何かあればそれ経由で連絡があるだろう。
そして俺は今、何をしているのかと言うと、数日間の休息日という中で、真理が魔法講座というイベントを始めたのでそれに参加している最中であった。
この拠点に戻り、エステマの説教をくらったのが昨日。
そしてその夜、真理が「真司!この世界にはなんと魔法もあったんだよ!」と俺に目を輝かせて言ったのが始まりであった。
「魔法?スキルじゃなくて?」
俺のその返事に、真理は自信満々に手のひらに小さな炎の玉を浮かべる。そして驚く俺に「先生、と呼んでいいんだよ?」と笑顔を見せていた。
そして夜は明け、朝食後に拠点の訓練施設に連れてこられた俺。そして真理先生により開催された魔法講座に強制参加という流れである。まあ真理が笑顔なので喜んで参加しようと思う。魔法も気になっちゃうし。
その場にはリザと茉莉亜も用意さえていた椅子に腰かけ見守っていた。二人ともとても優しい笑顔でこちらを見ている……見世物ではないのだが……
「まず一つだけ!天下無敵の大魔導士!なんて道はないんだよ!期待しすぎは良くないことだけ忘れないでね!」
「業火の聖女とか?」
真理の開始の言葉に茉莉亜が笑顔で口をはさんでいた。
「茉莉亜お姉ちゃん!それは言わないでよ!」
焦りながら茉莉亜の言葉をせき止めようとする真理。どうやら真理は魔法と言う言葉に浮かれ、すでに黒歴史を作ってしまったようだ。
「で、では!気を取り直して……この世界では魔法はあるけどそこまで万能ではないんだよ。もちろん長く時間をかければ凄い魔法もできるようになるけどね。今はそこまで時間をかけられないでしょ?」
「そうだな。業火の聖女は無理そうだな」
「も、もう!真司まで……」
俺が茶化すと顔を赤くしながら頬を膨らませる真理が可愛い。
「それは忘れて!今度行ったら絶交だから!」
「分かった分かった」
子供のようなことを言って怒る真理を慌てて抱きしめ宥める。リザと茉莉亜が満面の笑顔で見守っていることに気づき、真理から離れ咳ばらいをして次の説明を促した。真理も少し照れていた。
「じゃあまずはこれ」
そう言って取り出したのは4枚の紙。それぞれに魔方陣のような何かとちょっと恥ずかしい呪文のようなものが書いてある。
「その模様を正確に思い浮かべならが下の呪文のような、句、を口に出すと誰でも魔法が使えるんだよ。でも今は声にだしちゃだめだよ?不完全だと暴発しちゃうから!」
「暴発?」
「そう。暴発。ドカーンって爆発したり」
「な、なるほど」
多少の爆発では死なないとは思うが痛いのは嫌だな、と思ってしまう。
そして真理は4枚の中から一枚を持ち再度説明を始めた。
「まずはこの模様を正確に思い浮かべ……『火の精霊よ!我の願いに応え今こそその強大な力を示せ!手のひらに小さな炎を体現させたまえ!ファイヤーボール!』……という感じで魔法が使えるの」
そう言いつつ右の手のひらを上に向けるとその上にまた炎の玉が出現した。
真理の右手に持っている紙には『火の聖霊よ!我の願いに応え今こそその強大な力を示せ』とだけ書いてある。
「この、句の後に実際に火にまつわる現象を頭に思い浮かべながら口に出してみるの。もちろん私もこのファイヤーボールを魔物に飛ばしたり、ファイヤーアローとか矢のような攻撃を飛ばしたりもできるのよ!」
「なるほどな」
真理の説明に感心しながらその紙をもう一度確認する。
「句の後に続く説明は、よっぽど独特じゃなければ精霊様は分かってくれるから、今のと同じでも良いし自分なりに模索してね!」
「ああ。わかった」
「それとね、魔法が発動する時に体内に魔力の流れを感じるから、それをうまく再現することで句を省略したりできるんだよ。それには何度も反復練習が必要だけどね!最初から無詠唱は出来ないんだから!練習あるのみなんだからね!」
真理は得意気に手のひらに火や水、光の玉を出現させては消していた。
俺は試しにその火の紙を見ながら紋様を思い浮かべる。そして心の中で句を読んでゆく。『火の聖霊よ!我の願いに応え今こそその強大な力を示せ。手の上に火の玉出ろ』と……
俺は体内を駆け巡る魔力の流れを感じた。
普段から魔力感知を無意識に行っているため、手に取るようにその動きが感じられる。そして何気に広げた手のひらに巨大な火の玉が出現した。
「うお!」
「きゃっ!」
突然のことに驚きつつ慌てて消えろと念じるとその炎は消えていった。
「すごいね真司君」
茉莉亜が手をパチパチ叩いて喜んでいる。
「む……無詠唱……」
真理が驚いた顔でそうつぶやいて、その視線を俺の顔と手を行ったり来たりさせていた。
「も、もう先生が教えることは何も無い……免許皆伝だよ。勝手にやって……」
最後にはそう言いながら訓練場の床に丸まって寝ころんでしまった。
「せ、先生ありがとうございました」
「うむ……」
真理の目の前にしゃがみお礼を伝えながら頭を撫でておく。真理が少し笑顔を見せたので機嫌も少しは治っただろう。それにしてもこれも神の加護のおかげなのだろうか……
その後、俺は様々なイメージで炎を操り標的へ向かって打ち込んでいった。水、土、光についても同様に試してゆく。どれも無詠唱ですぐに発動することができた。最終的には4種類とも瞬時に発動することも可能となった。
ネルガルも使っていた岩棘は土魔法で、黒い炎も火魔法で再現ができた。自分の才能が怖くなってしまうな、と少し悦に入ってしまったが、今はそれよりもジト目で俺を見続けている真理をケアしようと思った。
おもむろに近づき、そして抱き上げる。
「ちょ、真司!」
「今日はこの辺にしとこう」
そう言って歩き出す。茉莉亜が「ヒューヒュー」と口で言って茶化し、真理は顔を真っ赤にしながらも俺にしがみ付いていた。
真理が寝泊まりしている部屋へとたどり着き、そのままベットへと降ろす。
真理は両手で顔を覆って身動きせずに時間は過ぎてゆく。
俺はベットの横に座り込むと真理の頭を撫でる。
「真司はずるい!」
「なんだよ。仕方ないだろ……出来ちゃったんだから」
「ずるいしカッコいい……」
「あっいや……ああ、ありがとう」
俺が戸惑いながら返答すると真理が噴き出し、体を横にして俺を見ながら笑い出す。
「真司……」
「なんだ」
「あの魔王を倒したら……この世界が平和になったら……どうするの?」
俺の顔をまっすく見てそう尋ねる真理。
この世界が平和になったら……俺はどうするんだろうな。
「そうだな、どうやら地球には帰れないようだし……ここで冒険者として生きてい行くしかないのかな」
「そう、だよね」
少し寂しそうな顔をする真理。俺は安心してほしくてまた頭を撫でる。
「じゃあさ、平和になったら……色々なことが落ち着いたらさ、その、真司の……お嫁さんにして」
俺は急激に顔に熱が集まるのを感じる。いきなりそんな可愛い顔でそんなこと言われたら……
あまりのことに返事を口にできずにいる俺と、それをじっと見続けている真理。
「ああ。そうだな。俺も真理が好きだ。色々と片付いたら、俺と結婚してくれ、一緒にこの世界で幸せになろう」
俺はまっすぐに真理を見つめながら、緊張して少し声が上擦りそうになりつつもプロポーズの言葉を口にする。
そして背後から「きゃー!」と茉莉亜と思われる喜びの声が聞こえ、俺は思考が停止した。呼吸はおろか心臓まで止まりそうだった。
それは真理も同じだったようでまた両手で顔を覆っているが、すでに耳まで真っ赤になっている。
「真理様、おめでとうございます!」
「真理ちゃんおめでとう!結婚式にはお姉ちゃんも呼んでね!」
その声からリザと茉莉亜がすぐそばまで来ているのを感じたが……俺は振り向くことができずそのまま布団へ顔をうずめた。土魔法で穴をあけて今すぐ逃げ出したい……
結局、リザと茉莉亜、そして後から騒ぎを聞きつけやってきたエステマとイザベラ、クリスチアを含めた女性陣が真理を質問攻めにしていたので、俺は気配を殺してその部屋を抜け出した。
とりあえずはと近場の西の魔窟を一気に最下層まで下り。覚えたての岩棘を連発して次々に魔物を屠ることで頭を冷やしていた。魔窟内でも使える土魔法は良いものだと思いながら……
今日見せられた紙の中に氷や雷などは無かった。水から氷、光から雷なんて思ったがどうやらそれは再現ができなかった。特殊なスキルになるのかそれとも別の魔方陣を思い描く必要があるのか……
その辺はリザあたりに聞いたら分かりそうだし聞いてみようと思っている。ついでに水と火を組み合わせて水蒸気爆発のようなものを試してみたが、今のところうまくはいかなかったのであきらめた。
他にも岩の壁や水蒸気のような霧を発生させたりと、夢中に実験をしているうちに夕刻となった。俺は散々悩んだ末、いい加減覚悟を決め屋敷へ戻ることにした。
その足取りは、俺の人生で一番重かっただろう。
昼間は幸いにも真理へ矛先が抜いていたから逃げられたが、帰ればそれは俺に向けられるだろう。今夜俺は死ぬかもしれないな……そう思いながらも帰らなければ帰らないでまた問題が生じそうなので諦めた。
案の定ニヤニヤとしながら待ち構えていたエステマを筆頭に、根掘り葉掘りと真理の良いところや過去のエピソードを聞かれ、精神的に瀕死になりながらも夜には布団へと潜り込んで事無きを得た。
エステマが俺の口調を真似ながら「一緒にこの世界で幸せになろう」と言って両手で何かを抱くようにして口を尖らせた時には、わりかし本気で頭を叩いておいた。エステマは涙目になりながらも笑顔を見せていた。
この幸せな時間を守るため、魔王メビオスは必ず倒す。そう心に誓いながら……
もう一つ、もう勢いで何かを言うのは止めよう。と反省しながら……




