08 事後
Side:セイドリ・アルセイドス
「ふう」
やっと一息ついたことで重くなった肩をもみほぐす。
魔王メビオスの側近であったという前宰相がいなくなり、年功序列で宰相を押し付けられた私が、冒険者ギルドから戻ったリカルドの話を聞いたのが三日前。
ギルドによると城の破壊により混乱した市民が話を聞こうと押しかけてきて、その対応に追われ城との連絡すら取れない状態だったらしい。
もちろん城の方にも多数の市民が駆け付け大混乱ではあったが、魔王の復活により破壊されたが勇者様たちにより退けられたという話をすると皆が歓声を上げ安堵していたようだった。
近いうちに勇者様の話も聞く機会を作ると約束すると、さらに市民が感嘆の声を上げつつ、城から帰路へと付いたのを見送っていた。勇者様には本当にその場を設けて頂けるよう連絡しなくてならなくなった。
その他にも各地で隷属の首輪が外れるという事案が多数報告され、そればかりか犯罪奴隷の終身刑の証として体に焼き付けられた隷属紋すら消えてしまい、各地で暴動が起きていることも聞かされた。
すぐに国として兵を送ると共に冒険者ギルドに依頼をかけてはいるが、その鎮圧にはかなりの時間がかかるだろう。
中には元高ランクの冒険者も多数いると聞いているので、早急に何とかしなくては犯罪都市として要塞のように拠点なんぞを作られてしまえば、かなりの厄介事になってしまう。
そして先ほど、やっと勇者エステマ様から多少の時間を割いて頂いての連絡があり、近いうちに来て頂けることも約束できた。勇者様が演説で「大丈夫」と一言でも言っていただければ市民もさらに落ち着くだろう。
それと同じくしてあのドロウンズの弟、西の都、ネクサス領の領主であるレイモンズ・エラシス殿からも支援を行う旨の連絡が来た。暴徒により行き場を無くした市民の受け入れ先と、大量の物資による支援を約束してくれた。
警備のための私兵も出してくれると言う。
ドロウンズから聞いた通り前々から準備していたようだ。
国としても助かる話ばかりだったため恐縮してしまうが「これも国の平和を守るため」と言われその援助をお願いした。本当にドロウンズと兄弟なのか疑ってしまうぐらい人柄の良さが通信具越しからでも分かった。
とは言え、まだ問題は山済みだ。
建設ギルドを仕切るドワーフ族の首領に話を通し、急ピッチで城を改築してもらうよう依頼した。それもまた勇者エステマ様から話も通っていたらしくすぐに動けるとのことだった。
まったく、何時から計画されたことだったのか聞いてみたいものだ。
落ち着いたら顔を出すと言うのでその時には少し問い詰めてみたい気になってしまう。
「本当に、勇者様達はいつからこんなに用意周到な計画を立てたのでしょうね」
「それは俺も聞きたいと今思っていたところだよ」
書類整理をしながら後輩のリカルドが私と全く同じことを思いぼやいていた。
「いずれにしてもやることは山済み。今日も私室には帰れないものと思って頑張ってくれ」
「うへー」
そう声を漏らしながらも書類に何やら書き込み、仕事を淡々とこなしてゆく後輩を見て、すべてを投げ出して隠居したいと思ってしまう。
「今回の件が終わったら……私は引退して田舎に帰るからな」
「えっ、狡いです!私もそうします!」
「うるさいわ!お前はまだ若いだろ!まだまだ国のために働け!せめて私と同じぐらいの年になるぐらいはな!」
さすがにそこまで言うと、動かしていた手を止め机に突っ伏すリカルドを見て、もう少しぐらいは頑張らねばならないのだとも感じてしまった。この後輩が独り立ちできるぐらいまでは何とか……
そう思うと不思議と疲れも取れてくるのだ。
まったく損な性格をしてしまったものだと思いつつ、自分の机の上にも山済みとなっている書類を片付け続けた。
こんな時だというのに多数の貴族連中からは地方の意味のないであろう土地開発の予算をせびりにくる書類を怒りのままに火炎スキルで燃やしながら……
Side:ドロウンズ・エラシス
すでに天井は『土壌操作』により作られた歪な岩石により塞がれている薄暗いドロウンズの自室。
一人ぶつぶつと何かを呟きならが、一心不乱に何かを書いては「うおー」などと叫びながら燃やし、次の紙へとまた筆を伸ばし書き綴っている。
昨日からずっとこんなことを繰り返しているようだ。
お付きの侍女は部屋の外でため息をつきながら待機している。
「俺が……、きっと……。見てろよ!……絶対に目にもの見せてやる……」
その目は血走り髪はぼさぼさ、床には侍女に運ばせたであろう食事の皿がいくつか、食べ残しと共に残っていた。
「俺は!俺こそが……俺をバカにした連中を、絶対に許さない!」
もはや何を書いているのか分からないほど乱れた文字と幾何学模様を書き続けるドロウンズ。それを止めるものは誰も居なかった……
Side:真司
俺はエステマと一緒に厳しい修行を繰り返しながら、東の大陸を巡り魔人たちを次々に眷属化してゆく。
幸いなことにあれからメビオスの手の者と思われる襲撃などもなく、どちらが悪か分からないと感じながらも次々に街を襲い続けかなりの眷属が増えていくと同時に、レベルアップなどもあり、自身でもかなりの力を身につけることができたと思っていた。
エステマはネルガルが襲ってこないことで「なぜ来ない!」「恐れをなしたか!」「いっそ俺が向こうに乗り込んで……」などと時折口にしていたが、今朝方、「やることがある」と言って拠点へと戻っていった。
何か動きがあれば連絡するとのことだったので、俺は次の街を目指して走っていた。
街を廻ってゆく途中の森林地帯や洞窟でも、見つけた魔物をねじ伏せ魔物の眷属もかなり増やすこともできていた。
その日の内に目星を付けていた東側の街については粗方回り切ってしまったので、次なる目的地として魔界内に見つけていた魔窟に移動してしばらく潜ることとなった。
基本となる能力値が高いほど眷属による底上げも増えるというのでしばらくはレベル上げに専念しようと思ってのことだ。
魔窟を最速で駆け抜け、下へ下へと降りながらひたすら出てくる魔物を、新たな殺傷するためだけの武器、雷刀を手にして切り裂きまくっていた。
この雷刀は、鍛冶職をしている魔人が眷属になり、その後に叩き殺したメビオス直属の魔人の亡骸を使って「何か作りたい」と言って一晩かけて作った魔剣の類であった。
だがそれは俺の手にすっと馴染み、少し魔力を流せば剣速が自然と上がる優れものの刀であった。
魔力の通りも良く全体に魔力を纏わせると軽々と2m程先まで切り裂くことができるので、次々と魔物を切り伏せていくことで上がり難くなっていたレベルもそれなりに上がるようになっていった。
見た目も禍々しいものでは無く、真っ黒な日本刀の刃に黄色い波のような文様が浮かぶという、なんとも俺の中の何かを刺激するカッコいい見た目をしていたため非常に気に入っている。
魔界内の魔窟は、土壌の豊富な魔力を糧にしてドンドン強い魔物が生まれ、中でもデーモン種と呼ばれる見た目が魔人のような魔物が多く生み出されるという。
そのデーモン種が長い年月をかけて魔窟から溢れ、這い出てきたのが魔人族だという。
実際にこの魔窟でも定期的に新たな魔人が生まれては各地へと呼び寄せられるように移動して、そこの魔人足達にボコられ、そして眷属と化して生活を営むという流れになるらしい。
最近一緒に帯同するようになっていたニガルズから、常識ですよ?と言われながらそんな話を聞いてメビオスのやっている悪趣味なレベル上げの内容を思い出していた。
魔窟内の魔物は所詮魔窟の一部、魔力の塊が実体化したもの。というエステマの言葉で躊躇なく殺していた俺は、いずれ魔窟を飛び出し人間と同じような生活を営む姿を思い描いて少し胸が痛くなる。
とは言え、這い出てくるのを待って眷属化するなんて悠長なことをやっている場合でも無い事も分かっている。俺は再び雷刀を握り締め、襲い来る魔物たちを屠っていった。
それはニガルズも同様で、襲い来る魔物を押さえつけながら「さっ魔王様!止めを!」という行為を繰り返していたので割り切ることもできた。だがその行動自体は効率が悪いので「自分で始末して糧にしてくれ」と言っておいた。
それでも俺の力が増すことは分かっているのだから……
そして嬉しいことに新しく『念話』というスキルも覚えていた。名前通りに離れた眷属と会話ができる。というものでは無かったが、一緒に居る眷属に何となく意思を伝えることができるので、眷属と一緒に戦う場面では役に立つスキルだ。
もしかしたら使っている内にもっと使えるスキルになるかもしれない。ニガルズもそう言っていたので期待したいところである。
そんな感じでひたすら魔窟を進み続ける。
俺の腰に付けている通信具が光ったのは、その次の日の夕方の事だった。
『色々やることがある。明日の朝、日が昇る頃には飛行艇を迎えに出すから今どこにいるか教えろ!』
そんなことを言われ、俺は今いる魔窟の大体の位置を教え、明日の朝まで篭ることも決めた。どうせ飛行艇の中で寝れるんだ。今は少しでも時間が欲しいと徹夜で狩りを続ける事が決定した。
そして明け方、うっかり魔窟から出る時間のことを考えておらず、かなり遅れて飛行艇まで走っていくと、エステマが仁王立ちで待ち構えていた。その表情はかなりイライラしているように見えた。
俺は「すまんすまん」と謝りながらもエステマの横を通り抜け、飛行艇の中で爆睡をしてしまうが、気づけば拠点の暖かいベットの中であった。きっと誰かが運んでくれたのだろう。
ベットの脇には真理が布団に突っ伏すように寝息を立てており、その顔をみてホッとしてその髪を優しく撫でていたのだが……
次の瞬間、目覚めた真理が「早くエステマちゃんに謝りに行こ?私も一緒に謝ってあげるから!」と心配そうな顔で言われ心臓が激しく運動を始め冷や汗が出たのは、言うまでもないだろう。
確かに飛行艇の中で何やらごちゃごちゃ言い始めたエステマを押しのけ、飛行艇内のベットに潜り込んだのは俺だからな。激おこで応接間に仁王立ちしていたエステマに、少しの時間説教をくらうことになった。
「真司!聞いてるか?俺は忙しい合間を縫って迎えに来てやったんだぞ!正直ここ2、3日あまり寝ていない!感謝してほしいとは言わないぞ!だが無視して布団に入り込むのは違うだろ!」
そんな絶叫で鼓膜と心臓のライフが無くなる寸前に茉莉亜が「まあいいじゃない」とエステマを抱きしめ、宥めてくれたことでなんとか死なずに済んだようだ。くれぐれも時間には気を付けようと感じた一件であった。
「じゃ、じゃあそろそろ始めようよ」
そう言う真理の合図で、今後の予定を話し合う場がやっと開始された。
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古川真司 ジョブ:魔王
力935 硬690 速845 魔1265
パッシブスキル 『異世界語』『神の加護』『魔軍』『念話』
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『念話』心を通わせた眷属と意思疎通する
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