05 魔界
俺たちは2手に分かれてそれぞれ修行を始めた。
そして俺は今、飛行艇の中でエステマに魔力の纏わせ方を習っていた。
「まずはその程度で慣れろ」
そしてなんとか不格好なオーラを纏わせることには成功した。今までも多少は出来ていたが根本的にやり方が違っていたようだ。
今までは武器から魔力を放出するイメージで使っていたが、全体を覆う武具そのもののように棍と最強装備ジャージを強化するイメージを持ちながらその厚みを増やし魔力をより多く消費させながら動くという修行をするよう教え込まれた。
ほどなくして目的地となる場所に到着し、低空で進む飛行艇からそのベルライト正教国の中心地だった魔都から南東に位置する街の一番賑わっていると思われる街中の大きな通りに飛び降りた。
それなりに賑わっている普通の街並みだったが、俺たちが人族と認識するや否や一斉に襲い掛かってきた。さっきまで他の街と変わらないくらいほのぼのしてたのに……
襲い来る魔人たちの握り締めた棍で片っ端から殴り倒してゆく。
「俺は近場に来た奴を処理するから、真司は片っ端から眷属化していけよ!」
「ああ、分かった、よっと!」
手直に襲い掛かってきた魔人族を叩き飛ばす。
周りからは他の魔人族から遠距離攻撃のスキルが一斉照射されている。街並みにある家屋の持ち主たちは流れ弾を必死に迎撃しながらもこちらへ攻撃を飛ばしていた。
「やっぱり街中で戦って正解だな。数が多いが互いに流れ弾を警戒して攻撃が薄まってる!」
「そうだな。そんな事より魔力!もっと意識して周りにあるのが当たり前、それも武器防具の一部だという認識を無意識下でコントロールしろ!」
「ああ、分かった」
エステマが宣言どおり飛んでくる攻撃を叩き落すことだけに集中しているようだ。そして俺の攻撃が薄まったタイミングで俺に向かって押さえつけていた魔人族を蹴り飛ばしてくる。
そりゃ俺が叩きのめさないと眷属にはならないしな。
しばらくすると魔人の中で眷属化した魔人が出始めた。何度も棍で殴りつけて相当ボロボロになるまでやらないと屈しないのかよ……
眷属化した魔人が俺の傍に囲うように集まり、他の魔人族の攻撃から守るようにしならがら、炎の塊や雷撃、氷の棘を放出して周りの攻撃を相殺していた。この調子なら少し楽に戦えるかもな。
そう思っていたのだが、現在対峙している赤い角の魔人にはそれなりにダメージを与えているのに中々眷属化しない。かなり手強い魔人だからか瀕死にでも追い込まないとだめなのかもしれない。そう思いながらも棍をふるい続けた。
そして遂にその魔人の首がボキリと折れ「魔王様……」と口にして前のめりに倒れ込んだのを見ていた。。
俺はレベルアップ音とともに少しだけ体に力が漲るのを感じ、その魔人を倒し眷属化が失敗したことを理解した。
「まだ俺の力が足りないんだな」
そう思った俺は自分の力の弱さに悲観しながらも、増えた力をそのまま次々に襲い来る魔人たちに叩き込んだ。
一人の魔人を失敗したことでメビオスが何らかの方法で察知したのか、そもそもそういうスキルなのか知らないが、魔人たちの目が赤く光り出しその溢れ出る魔力のオーラが増して見えた。
メビオスがミーヤたちにやったように全員が凶暴化しているようだった。
それからも俺は魔力を放出し続けヘロヘロになりながらも魔人たちを叩き続けた。
そして30人ほどの魔人が眷属と化し、20体ほどは眷属化できずに打ち倒していた。眷属化できなかった魔人はどれも強い者ばかりだったため、やはり自分の弱さが原因なのかと思ってしまう。
そして街にいた残り数百人の魔人族たちには散り散りになって逃げられてしまった。
それでも討伐と眷属化によりかなりのレベルアップをすることができたようだ。
やっと終わった戦いに俺はその場に腰を下ろして胡坐で休憩を取った。
「なんとかなったな。しかしかなり強い魔人も居たがかなりの数の魔人は眷属にはできなかったようだな」
「ああ。その様だな。まだ俺が弱いという事だろ。困ったことに……」
「そうは見えなかったぞ?少なくとも多人数の攻撃の中倒し切るほどの力量の差はあったはずだ。他にも何か条件があるのかもしれないな」
そう話していると、さっきまで少し離れた位置で輪になって話し合っていた魔人の中の一人がこちらへと歩いてきた。
赤い角で黒々した引き締まった体、赤い鎧が所々に張り付いたようなボディをしているその姿を見て、魔人ってこのまま生まれてくるのだろうか?とどうでも良いことを考えてしまう。
「魔王様、魔人族ハスター家のニガルズと申します。お話良いでしょうか?」
「ああ。お前がこのグループの代表ということか?」
「いえ、そう言う事でもないのですが……魔物とは違いますので……」
なるほど。同じ魔人だからといってトップを決めるということでもないのか……というかそう言うカテゴリで言えば俺がトップでということか?種族違うけどな。まだどうでも良い事だな。
「そうか。よろしくニガルズ」
「はい。まずは我ら28名、魔王様の僕となり手足となって働かせていただきます」
「ああ。だが30人いたようだが……」
「ええ。残念ながら2名は熱狂的なメビオス信者でしたので……始末いたしました」
「そのようだな」
話し合いの最中に暴れた二人を撲殺しているのが見えていた。
というかその際、俺の方でも少し力の増加を感じていた。
「眷属ともなれば魔王様に逆らうことはできません。ですが強い意思をもって抵抗されれば動きは悪く邪魔になることもあるので……」
その言葉で一瞬国王の言葉に逆らった真理の事を思い出して憂鬱となった。
「それと、先ほど眷属化の条件の話をされていたようなので少しばかり我ら魔人族の中の常識としてあることをお話しようと……」
「それは助かる」
そんな感じで俺とそのニガルズと名乗った魔人との話が進む。
その間、エステマは聖剣に大量の魔力を集めブンブンと素振りをしていた。それを見て他の眷属化した魔人たちが震えていた。やっぱりまだエステマほどの強さは得られていないようだ。
数値上は眷属のおかげで多分近いところまで行っている気がするんだけどな。魔力の使い方の問題なのだろう。まったく別物のスキルか何かに見える。
ニガルズの話を聞くと、眷属化するには相手を屈服させることなのだが俺が倒し切ってしまった20名ほどは直接メビオスに屈服させられ、この街でも重鎮となる魔人だそうだ。
そう言った眷属は力の増加値が多いのと同時に、メビオスより強い力を見せつけなくては眷属とはならないらしい。俺はまだまだメビオスには勝てないというのは理解していたがそれが証明されか形だ。
俺の眷属となった魔人たちはニガルズを含め、あの倒し切っってしまった20名の魔人たちから屈服させられた、比較的若い魔人だそうだ。逃げたのもそう言う魔人らしい。
少し分かりにくいが、ようは眷属から眷属にされた魔人はメビオスとの繋がりは弱く力の増加量も少ない。そして自分が屈服させられた眷属より強ければ靡く。という感じらしい。
段々と理解してきたがそれならあの28名の魔人の中で眷属化したニガルズあたりに倒され眷属化された奴は、一度俺の方でもがぶん殴って服従させた方がいいのだろうか?
そうする事でお互いに少しは強くなれるだろうし……
いや、そこまでやるのは止めておこう。なんだか目覚めが悪くなりそうだし、それならメビオスと同じ考えになってしまう。強ければ何でもよいということではないよな。
とにかくこれでレベルもそうだがかなりの能力値がアップしたことを感じている。今はそれだけで十分と思っておこう。
とは言え、終盤の方は魔力が尽きかけフラフラ状態だったからな。魔力を無駄に消費するようにわざと大きく魔力を纏わせているとは言え……それでも眷属化した魔人が他の魔人を相手していたから何とかなった。
エステマの方も後半はすることが無くなり座禅を組んで魔力を放出する修行をしていたようだったし……
今回の襲撃、まあ襲撃であってるかもしれないが少し印象がわるいな。
引き抜き行為ってことでいいかな?
その引き抜き行為でかなりのレベルアップが図れた俺は、ニガルズから次のターゲットとなる東の都市の存在を聞き、この調子でどんどん魔王メビオスの眷属を奪っていこうとギリギリ限界まで無駄に魔力を纏わせながら思った。
その夜、無人となった街の宿屋に泊まり寛いでいた。
魔人の街だというのに宿屋に風呂までついているのだから侮れないものだと思った。そして眷属となった魔人たちは近くにある大講堂と呼ばれる避難所に大量の物資があるというのでそこで一泊するらしい。
先の戦闘で家屋が破壊されていたという魔人がいたので少しだけ気まずい思いをしたが、そこは頬を掻きながらも「魔王様のせいではありません」と言っていたのでまあ良いだろう。
ちなみにその大講堂では普段は魔王様を祀っているらしいが「像は破壊しておきます」と言っていたので興味本位で一緒に見に行くと、魔人たちがあのメビオスを模した像を殴り倒し粉砕していた。
見ているだけでも結構スッキリするので各地を回って破壊していくのもい良いかもしれないと思ってしまった。そんなこともありつつベットの上に寝ころびそろそろ寝ようかと思っていたのだが……
俺は急に何とも言えない不快感を感じる。
暫くしてそれが何なのか、何となく理解できたような感覚を覚える。
これがもしかしたらメビオスも感じていたかもしれない眷属が殺されたという事なのだろう。そしてその不快感を発するおおよその方角も分かってしまう。『魔軍』スキルによるものだと感じ大急ぎで部屋を飛び出した。
エステマが居るはずの部屋のドアをドンドン叩き「眷属がやられたようだ!俺はすぐに行く」とだけ叫び宿から眷属化した魔人たちのところへ急ぐ。その間にも2度不快感が強くなった。
今までは眷属が死ぬなんてことは無かったからな……そう思いながら無人となった街を一気に駆け抜けると、目の前に戦っている眷属魔人とあの時にメビオスと一緒に居た側近の……
たしかネルガルとか言っていた奴のようだ。
そのネルガルは刺々しい岩の塊を無数に飛ばして眷属魔人たちを襲っていた。
俺は走る勢いのまま取り出した棍で横なぎに振り抜いてネルガルを攻撃した。それは当たる直前で気付かれたようで岩壁が出現してそれを打ち砕いた先には誰も居なかった。
「魔王様、申し訳ありません。すでに4名が打ち取られました」
「そうか」
分かってはいたが魔人とは言え眷属となった者を殺された事実を確認し、想像以上の怒りが込み上げてきた。




