03 対話
俺は夢のような感覚を覚えつつ目を開けた。
『さてと。何から話そうかな?』
俺は目の前に現れた男を見てため息をついた。妙に寝つきが良いと思ったらあの白い空間で自称神が顎に手をあてこちらを見ていた。なんてこった。
『君はいい加減不敬だと思わないのかな?』
「いや、またかと思ってな」
『じゃあこのまま帰るかい?』
なんだ拗ねてるのか?そう思ったがどうせこの心も読まれてるんだろうな。と思ってたら自称神はうんうんと首を縦に動かし肯定していた。
「俺はいいがそっちは話があるんだろ?」
『別に私はいいんだよ?いつまでも自称呼ばわりされてるし……このまま何も聞かずに君たちが破滅への道を進むのを眺めるのも楽しいかなと思えてきたし……』
「あっ、すまんすまん。とりあえず情報をくれ。神様からの情報は重要だからな」
一応謝ったのに目を細めているじs……じゃなくて神様。お願いします。今後は少しばかりは心を改め神様仏様とできるだけ敬ってみるので……
『まあ今回は許してあげるけど。次に呼ぶ機会があったら土下座でひれ伏してよね?』
「はいはい」
『じゃないと、うっかり真理ちゃんの夢に新米魔王のちょっと見せられないような夜の映像が流れちゃうかもしれないし……』
俺はその場で土下座をした。
『うん。いいね』
「くっ」
『じゃあ少しすっきりしたところで情報提供かな。眷属についてだけど、察しの通り魔力を上げれば奪われづらくはなるよ』
「ほんとか!」
俺は土下座から立ち上がるとそう神様に聞き直す。
『そうだよ。奪われた眷属の前で前魔王をぶん殴って自分が上だと分からせれば、きっと可愛いミーヤちゃんも戻ってくるよ』
「よし!それが聞きたかった!」
ちゃんと取り返すすべがある。それを教えてくれた神様がわざとミーヤちゃん、と強調して言ったことに若干腹が立つが今は勘弁してやろう。今は取り戻すために魔力をとことん鍛え上げなくては……
『ただ、ちゃんと取り戻す前に前魔王を殺っちゃったら眷属は一緒に消滅しちゃうから気を付けてね』
「お、おう。だが相手は前魔王だろ?まさかワンパンで死亡なんてことないよな?」
『まあそれはないから安心してほしいけど……僅差だと相当激しくやり合わないと戻ってこないからね』
「そうか。今のところどうなんだ?前魔王と俺の魔力の差は……」
俺の質問に神様は首をかしげる。
「おい、分かんねーのかよ」
『いや、今のところは雲泥の差だよ?もちろん君の負け。まともにやり合えば象が蟻を踏むぐらいにね』
分かってはいたがそんなにか……
『前魔王は今は瞑想してるようで大人しくしているけど、落ち着いたら多分過激な強化法やり始めるだろうし、もっと差が出ちゃうかもしれないね』
「なんだよその過激な強化法って……」
『君にはできないよね?眷属たちの使い潰しなんて……』
「使い潰し?」
俺はその言葉の意味が分からずにいた。
そんな俺に神様は淡々と前魔王が過去にもやっていて今後も多分やるであろう強化方法を説明してくれた。
それは想像の何倍も残酷な強化方法であった。
あまりの内容に怒りが込み上げてきて拳を握り締め、そしてミーヤや奪われた他の眷属たちの無事を祈った。
『まあ君の眷属だった子たちは居城の近くに放逐されているから大丈夫だと思うよ。今は興味もないみたい。魔人種と比べると圧倒的に弱いからね。育てようもないし』
「そうか……」
『多分君への撒き餌として使うつもりなんだろう。いつか君と相まみえる時までは何もしない気がするよ。それは安心材料だとは思うけど近いうちに対峙しなくてはいけないから、その時までは強くなってもらわないと……』
「全然安心できないけどな……でもそれを聞いて必死さが足りてないのも分かったよ。明日から魔窟の奥深く潜って血反吐吐いてでも強くなるさ!」
俺の返答を聞いてため息をつく神様。
『まあほどほどにね』
「分かってる」
俺の返答には納得していない様子の神様。まあ心が読まれている時点で仕方ないか。無理をしなければ心が砕け折れそうになるのだから仕方ないだろ。
『まあそこは置いといて、真理ちゃんと茉莉亜ちゃんの方だけど今はとにかく魔力を上げるのが優先だよ。ホーリーライトは魔力により強化されるからね』
「そうか。それなら良かったよ」
ホーリーライトが強いほど有利になるのだから二人には頑張ってもらわないと……
そう言えば聖女というジョブの恩恵なのか知らないが真理の魔力は他の数値に比べ俺の魔力にも迫る勢いなんだよな……少し羨ましいと感じてしまう俺の心の狭さよ……俺なりに必死でやってるんだけどな……
『まあそう悲観することはないよ?根本的にジョブにより上げやすいものもある。君の他の能力値は魔力と同じぐらい伸びているだろ?魔王は基本魔力は平均的にしか上がらないんだ』
そうなんだけどな……俺も魔力中心に鍛えているつもりなんだ。
『それは置いといて、聖女は二人もいるしダブルでうまいこと鍛え上げれば前魔王の弱体化がかなり望めるだろうね』
「そう聞くとなんだか行けそうな気がしてきたよ」
『あと前魔王の……ああ、もう!なんか面倒くさいな!』
「どうした突然」
神様がちょっとイラついている。
『あの魔王はメビオスというから覚えておいてね!そのメビオスなんだけど……』
そう言って話を始めた神様。最初に名前を教えてくれればこんなやり取りも……いやすみません。何も考えてないですよー。
◆◇◆◇◆
俺は魔王メビオスが先代勇者に封印された経緯を聞いた。
何気に壮絶な話だった。関係者全滅かよ……
「ってことは、元国王たちは本当は良い奴だったということか……じゃあメビオスとあの側近の二人をなんとかして、元の三人を救うことはできないのか?」
『もう三人の魂はとっくに次の人生を歩んでいるから安心してよ。もちろん前世の記憶はないけどね』
「そう、か」
俺は軽い口調の神様の説明を聞きながら、あの憎たらしい王の姿を思い浮かべた。元は良い王だったことを想像して複雑な思いに駆られてしまう。
「なんだか、可哀そうになってきたな。ぶん殴りづらい」
『そんな心配はいらないよ』
そう言いながらも少し寂しそうな顔をする神様。どうしてそう言う表情をしているのかは分からない。
『彼ら三人も十分納得済みでその道を選んだ。だからこそ少しでも早くあの体を解放してあげてほしい。彼らも依り代のまま体を良いように使われるのも不本意だろうし……もうすでにその姿は変わってしまったけどね……』
「分かったよ」
またメビオスをぶちのめす理由が増えた。
『あと修行なんだけど魔界と呼んでいる例の場所、あの南東側に丁度良い街があるから……そこでかたっばしから魔人種を眷属化しなよ』
「街?魔人種って普通に生活してるやつらもいるのか?それだとちょっとやりづらい気もするな」
『でもメビオスの眷属だよ?魔界については封印された間であってにほぼ全ての魔人種がメビオスの眷属になっているんだ。眷属が眷属は増やし続けているからね。だから思いっきり暴れて良いよ!』
拳を握り締めてガッツポーズする神様。
「なんだよそれ……メビオスの眷属とは言え、どっちが悪なのか分からなくなってくるな」
『でも時がきたらそいつら一同、ワラワラと大陸に攻め込んできて君らの街を襲うよ?何を躊躇する必要があるんだい?』
「そうか……」
平和に暮らしているとは言え、敵は敵ということか……
「結局は眷属の奪い合いになるんだな」
『そうだね。メビオスのステータス自体は大体3000に迫る程度。だけど眷属の数が多すぎてその力は軽く数十倍になっているんだよ』
俺はその言葉に返事を返すことができなかった。
『あの時、メビオスが本気で殺しに来てたら今頃全員死んでたよ?』
「ぐっ……」
分かってはいたのだがその神様の顔に無性に腹が立つ……
『多分復活したばかりで本調子じゃなかったのとホーリーライトがあったから躊躇したのも事実だろうけど……多分世界を恐怖に陥れる舞台を準備するのが先と思ったのかもね』
「なんだよそれ……」
『見逃されたのはメビオスの気まぐれってことかな』
「気まぐれ?とことんムカつく奴等……まあそれで助かったんだから文句は言えないか……」
きっと俺は、そのメビオスの気まぐれとやらでかろうじて命が繋がった事実を喜ぶべきなんだろうな。
『とりあえずよろしく頼むよ新米魔王。成功したらこの世を半分あげるよ』
「また俺の頭の中を覗いたのか?」
『それは最初に来た時に覗き終わってるよ』
「おい……」
ニヤニヤする神様にイライラしてしまう。
「あとは何かないのか?メビオスの弱点とか、伝説の装備とか……」
『そんな都合の良いものあるわけないだろ。ゲームじゃあるまいし。要は眷属の奪い合いだよ。強くなりつつ眷属を奪い奪われ、殺し殺され。最後に立っていた方が勝者という分かりやすいやつだね。
もう封印なんて結末は無しだよ?魔王の魂が二つあるこの時点で世界が歪んでしまっているからね。願わくば君が残ってくれると平和な世界になると思うんだよね。君が生きている時間だけはさ……』
無茶苦茶言っていることだけは分かる。
「そんな事言われてもな。仮に俺が生き残ってもせいぜい生きて100年とかだろ……荷が重いったら無いな……」
『この世界は魔力が高ければ長生きできるけどね。あとはリザに頼んでガブリとやってもらえばもっと生きられるけど?』
「ば、馬鹿なことを言うなよ!」
思わずリザに首筋を噛まれる想像をしてしまう。神様のニヤニヤに拍車がかかりイライラも募る。
『そうかい?案外真理ちゃんの方は喜んで噛まれに行くかもしれないよ?「真司とリザとずっと一緒にいられる!」ってね!』
「おい!何気に完成度の高い真理の声真似やめろ!」
『てへ♪』
そしてまた真理みたいな声でそう言い舌を出すアホ神……真理はそんなことやらねーよ。
『神に向かってアホは無いと思うよ。さすがに……』
「言われても仕方ないと思わないか?というか口に出すのは自重してるんだから良いだろ?」
『まあ君にはリラックスしてほしいからね』
「そりゃどうも」
訳の分からない気遣いのせいで自然とため息が出てしまう。これでは体が寝ているはずなのに全然疲れが取れない気がする。
『最後に一つだけ……』
「なんだよ」
急に神妙な顔をする神様。また頭でも下げる気か?
『この世界はハーレムエンドもありの世界だからね』
「なっ」
『可愛い子が多いから頑張って!』
「何言ってんだ!」
俺は再びニヤつきだしたアホ神に力いっぱい叫んだところで視界が変わり布団を剥いで体を起こしていた。
「くっそーあのアホ神め!」
俺はやっぱり疲れがとれなかったと感じながら現実世界でもため息をついた。そして……
「クロさん。どいてくれないですかね?結構重……いや重くはないですよ?ただそろそろ起きたいので……」
俺は足元に乗っかり丸まっているクロに降りて頂くようにお願いした。
重いと言いかけたところで殺気が飛んできたので丁重に言い直した願いは通じたようで、クロは少しだけ顔を上げ俺を見た後、プイっと顔を背けてベットから降りて部屋を出ていってしまった。
クロめ……相変わらずのツンデレか……
俺は大人しくベットから降りると、横の棚の上に綺麗にたたんである最強装備ジャージを着こむと、顔でも洗うかと洗面所へと歩き出した。




