23 決戦
後方に動かない前魔王を見る。
その口元は笑っているように見え、俺はそれが無性に腹が立っていた。
イラだつ頭を切り替えて手前のネルガルの方を伺いながら、近づいてきていたミーヤに棍を投げ渡すと、代わりに炎の剣を投げ返してくれた。阿吽の呼吸である。
警戒しつつネルガルに向かって走り出す。今度は魔力感知もしている。抜かりはないはずだ。
案の定ネルガルから膨れ上がる魔力を感知すると目の前から岩棘が飛んでくるが、それは真理の結界が防いでくれた。その横をすり抜け炎を巻き上げながらネルガルをぶった切る。
途端に姿が消え空振りをしてしまうが、すぐ上に魔力を感知してそのままくるりと回りその場を切りつける。それはまたも岩壁に防がれるが、その横にはクロが迫っているのを感じて後方へと飛びのいた。
だがそのクロに向かってネルガルの急速に膨れ上がった魔力が放たれる。
クロが空中で方向転換をして飛びのくが、その空間に巨大の黒炎が通り抜けてゆく。かなりヒヤッとしたがその間にネルガルに低空姿勢で近づいていた俺は炎を巻き込みながら左足を大きくえぐることに成功した。
そして呻くネルガルに追撃しようと手に力を籠める。
その攻撃は急遽割り込んできた前魔王の翳した手の光の壁により阻まれた。
「うっとおしい奴等よ……いったん引くぞ……我もまだ力が完全には戻り切っておらぬようだ……」
膨らむ魔力に俺もクロも慌てて後ろへ飛びのくと、地面が赤く光って破裂した。
飛び散る破片を手で防ぎながらも全身に痛みを感じる。
倒すのは無理だと体が拒否反応を示し大量の汗が噴き出してくる……
「なあ、あれで弱体化してるんだよな?」
『そうよ』
「真理のホーリーライトって俺にも効果あるとか?」
『無いわよ?多分だけど……』
「多分ってなんだよ」
『あれは本人の敵認定した邪悪な者の力を封じる光よ……彼女に嫌われていなければいいわね』
「ぜってーねーよ!」
俺は舌打ちしながら軽口をやめた。
前魔王ふわりと浮かんで距離を取り、両手をかざすとその近くにネルガルと、そしてリザと向き合っていたはずのラマシュトが現れた。そういうスキルもあるのだろうか?少なくともネルガルが転移のようなスキルは持っているが……
今のは前魔王の力の様に思えた。
「聖光はやっかいだ。だが新米魔王はまだ『眷属召喚』も覚えておらぬひよっこだ。脅威にはなりえんだろう……まずはリザ、そして勇者、あとはそこの……神の使途、それらを始末するために力を取り戻さねばならぬ……」
眷属召喚?そんなスキルもあるのか……これがあれば……いやだめだな。この場に眷属をいくら召喚したとて相手になるものでもない……
「それに……新米魔王がお土産を持ってきてくれたようだしな……それに免じてここは引こうではないか……」
お土産?何の事だ?まったく意味が分からず困惑しながらもクロと一緒に距離を取る。その俺の元には、ハアハアと息を荒くしているリザが警戒しながら顔色がすぐれない真理と一緒にやってきた。
真理が俺の腰にしがみ付きながらも改めて結界を張ってくれている。
そして前魔王が右手を上げ何を放つ。
「ニャー(魔王様……すみませんが私はここまでのようです……)」
突然そんな事を俺に伝えながら肩から飛び降りたミーヤ。
そしてふらふらと前魔王の方へと歩き出し……前魔王の元までたどり着くとペコリと頭を垂れた。俺は意味がわからずそこから一歩も動けなかった。
ガヤガヤと他の眷属たちも鳴き声を上げる……すでにその言葉は俺に理解できないただの鳴き声になっている……そしてミーヤと同じように前魔王の元へと駆け付け、頭を垂れていた。
俺はその光景に震えを感じながらも手を差し出しながらミーヤの元へと歩き出す。
「まって、待ってくれ……ミーヤを連れてかないでくれ……」
「良い表情をする。ではこんなのはどうだ?」
そんな事を言いながら前魔王はまた右手を上げスッと横に動かした。
「何をした……」
意味が分からぬ俺はただそう呟くのみだった。
「真司様戻って!」
結界から前へと足を進めていた俺はリザに引っ張られ結界の中へと戻された。
そしてミーヤやその他の眷属たちが……赤い目をして毛を逆立て、その結界目掛けて攻撃を放つ姿だった……
ガシガシと結界を叩く眷属たち。
ミーヤの手からは結界を叩きすぎて傷つき、赤く染まっている。
「もう!やめてくれ!もうミーヤは……」
ミーヤを止めようとする俺を、真理が抱きしめ、そしてリザとクロは俺の前に立ち眷属たちの荒ぶる姿を隠していた。
「中々良いものを視れた。ではまた!次に会う時は全て消し飛ばしてくれる……精々残り少ない時を過ごすとよい……」
そしてリザとクロがこちらに振り向き膝をつくころには、前魔王も、その眷属も消えた……ミーヤたち俺の眷属も含めて……
「おい、待てよ……嘘だろ?どこに行った!ミーヤは?なんでだよ……」
体に力が入らない。少しだけだが俺の中の何かが抜けていった気がした。おそらくミーヤたちが俺の眷属ではなくなった為、能力も低下したからだろう。
『先代魔王の方が力が上だった、だから眷属を奪い取られた。と言いうことね』
「そう……なのか……」
クロが言っていることは理解できた。魔王なのだから同じようなスキルを持っているのだろう。俺が弱いから、だから奪われた……
「向かった先は魔界でしょう」
「魔界?」
リザが顔を青くしてぐったりした真理を抱きかかえながらそう口にする。さっきまで俺を止めようと必死で抱きついてきていた真理。無理をさせてしまったのだろうな。
「元々はベルライト正教国と呼ばれるこの大陸の北の国、ここよりやや北西の大陸です。元々魔素が濃い地域を神官職の者たちが鎮め、国を作っておりましたが……魔王の侵略に合い滅びました。今は魔人たちの根城になっています」
「そうか……」
俺は歯を食いしばってそこに乗り込む覚悟と強くなる決意を改めて決意した。
『もちろんいくのよね?』
「当然だ」
『じゃあ暫くは特訓に付き合ってあげる』
「頼む」
俺は初めてクロに土下座した。いや座ってたからね……この場に眷属はいないし……
少し恥ずかしくなった俺の頭をポンポンとクロの肉球が心地よく叩いていった。
◆◇◆◇◆
あの戦いからしばらく時間が過ぎた。
すでに牙も無くなり血色も戻っているリザがエステマに連絡をして飛行艇を出してもらうようにお願いしていた。そしてその連絡の中でマリア様という前の聖女が意識を取り戻し徐々に回復していることを知る。
リザはそれが嬉しかったのかまた涙を流しながら、魔王が復活したこと、俺と再会もしたこと、とりあえず三人とも無事たという事を伝えていた。
その間に俺は真理と向き合い、改めて再会を喜んだ。
真理は俺に甘えるように胸に顔を埋め……泣いていた。体が震えている。よっぽど怖かったのだろう。どんな修行をして強くなったかは知らないが、俺と同じ普通の高校生が。これからは俺が守らなくては……
俺はまだミーヤたち眷属が居なくなったことの気持ちの整理がついていないが、そうも言っていられないことも分かっている。いずれあの前魔王を倒し、俺の眷属たちをとりもどさなくてはならない。
そもそもアレがすべての元凶だ。アレさえいなければ俺たちが召喚されることも無く、ミーヤたちとも出会うことすら無かったのだから……こんな悲しい気持ちになることも無かった……
「真司……あの猫ちゃん、真司の眷属?ってやつだったんだよね」
「そう、だな。ミーヤって呼んでいた。すごい優秀な奴で……俺の最初の眷属だ」
「そう、だったんだね……子供の頃に飼ってた猫の名前だよね……」
真理は俺の胸から顔を話すと、俺の背中に暖かい手を置いてくれた。
「あの猫ちゃん、私のそばに来た時にこれを渡してくれたの……」
「ミーヤが?」
そういって左腕を上げて見せてくれたのは、俺が真理のためにと買っておいた防御力アップのためのブレスレットであった。あいつ……もしかしたら前魔王と対峙して、こういう結果も分かっていたのかもな。
「そう、か……それは防御力が上がるっていう魔道具だ。俺が渡そうと思ってたんだがな……あいつ……」
「他にもね、色々なポーションとか食べ物とか、次々に出されちゃって、もう私の魔法袋一杯になっちゃった……」
「はは。アイツは俺の食事とか全部収納してくれてたからな。ミーヤが居なけりゃ俺は死んでたよ」
「そう、なんだね。じゃあ……取り返しに行かなきゃね!」
そう言って真理が俺の手を両手で包み込んでくれた。
「そうだな……手伝ってくれるか?」
「もちろん」
俺はまた真理を抱きしめた。
「いちゃついているところ、すみません」
「ふぁ!」
「うっ!」
リザの言葉に二人で変な声をあげ慌てて離れる。
「お邪魔しちゃってすみませんが飛行艇が到着しましたので……」
「あ、うん。ありがとうリザ!」
「ああ。すまんな」
そう言ってリザの方を見るとすでに飛行艇が止まっていた。
そしてその扉が開くと降りるための階段が伸びてきた。
そこからエステマともう一人、黒髪の綺麗な女性が降りてきた……どこかで見たような……
「うそ……茉莉亜お姉ちゃん?」
俺は真理のその言葉で思い出す。真理が小さい頃に良く名前を出していた親戚のお姉さんのことを。
「マリア様!」
そして大きな声をあげ走り出したリザ。
茉莉亜に縋り付くように抱き着くと子供の様に声をあげて泣いていた。そして真理もまた走り出した。同じように縋り付き、茉莉亜の方は驚いた様子だったがすぐに真理の頭をやさしく撫でているようだった。
俺はというと、真理が離れたことでちょっと心が寒くなってしまった。
『あんたも向こうに加わって抱き着いてきたら?』
「何言ってんだよ」
可笑しなことを言うクロにため息しか出ない。
『仕方ないわね』
「おい!やめろって!」
クロが俺にまとわりつくように体をこすり付けてくる……その体はとても暖かく心地よかった。
「なあ、俺はどんだけ弱くなったと思う?」
『分かんないわよ。それほど多く奪われてはいないけど……眷属とのきずなが深ければその能力は底上げされるわ。特にあの猫……特に可愛がってたようだしね』
「まあな」
『それにしてもあの魔王の使っていた力……眷属の力を大幅に上げてまるで操っていたようだわ。あんなこともできるのね』
俺はうなづきながらあの光景を思い出す。
俺もいずれあんな力を得るのだろうか?いや、強くなる過程でいずれ覚えるのだろう。それぐらいにならなくては勝てないのだから……
そして俺とクロはエステマたちに呼ばれて飛行艇へと乗り込んでいった。
これにて『第一章・魔王と聖女』は終了となります。
引き続き『第二章・魔王vs魔王』をお楽しみください。
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