22 再会
「あれは……なんだ?」
クロに乗り城が目視できる距離までやってきた俺はクロから降り立ち尽くしていた。
南の森で眠れぬまま朝を迎えた俺はさらに合流した魔狼と氷狼たちと共に時を待っていた。そして暖かな魔力を感じクロに乗って城へと向かったのだった。
そして俺の目には城の上部が破壊され、その上には黒く禍々しいオーラの塊が3つ浮かんでいた。
「なあクロ……あれはなんだ?」
『何かしらね。多分だけど……魔王の魔力を感じるけど?』
「俺の?」
『前の……よ』
何が起こっている。確か俺の前の魔王は先代の勇者が命を懸けて封印したって言ってたな。じゃあその封印が解けたのか?それがなぜ城に?真理が『解放』とやらを使うのを邪魔しに来たのか?
エステマからの連絡はまだ無いし……
とにかく行ってみれば分かるだろう。目立たないようにと言っていたがすでにそんなことを言っている場合じゃないのは明白だ。とにかく真理を助けなくては……
俺は駆け出し近づいてくる城を見つめていた。
元の姿を見たことがないから分からないが城の上部分は完全に破壊されている。あれがその上に浮かんでいる三人の攻撃によるものだろうか?
その中でひときわ危険な存在だと認識できるのは、肌黒すぎ黒いオーラ出すぎな震えがくるほどの存在だった。あれが封印されていた魔王なのだろうか?
元魔王vs現魔王?勝てるかな……
「なあクロ……あれに勝てると思うか?」
『無理かしらね。私でも無理そうだわ』
「だよな」
クロがいたら1体ぐらいは倒せるかもと思ったがそんなに甘くないようだ。
「真司ー!」
突然俺の名を呼ぶ声がする。その声の主はすぐに分かった。
「真理!」
声の方を見ると真理がこちらに向かって走ってくる。
だがその足元が覚束ない。
すぐに後ろからきたメイド服の女性に支えられていた。俺は地面をえぐるほどの力を籠めて真理の元へ走り出しそして抱きしめた。
「真理!真理!ああ、良かった!」
「真司!私、頑張ったんだよ!」
真理が涙声でそう言うと俺の胸にグリグリと顔をうずめていた。
「そうか!えらいぞ!」
俺は真理を抱きしめながらそっと頭を撫でた。
「あの、お楽しみのところ申し訳ないのですが……」
抱きしめる際に少し身を引いてくれたメイド服の女性がこちらに話しかけてきた。かなり恥ずかしい。
「あ、ああ」
「ご、ごめんねリザ」
そうか、この女性がリザという真理を支えてくれた人か……
「あなたがリザさんですか。真理がお世話になりました」
俺は真理から体を離し頭を下げた。
「いえ、感謝しているのはこちらの方です。真理様のおかげで……マリア様が……」
「ん?マリア様?」
リザの言葉に真理が首をかしげる。
「先ほど勇者エステマ様より先代の聖女であるマリア様が仮死状態から目覚めたようなのです。まだエステマ様の漏れ聞こえる声を聞く限りに推測されると言ったところですが……それよりも、その黒い狼は味方と思っていいのですよね?」
「ああ、こいつはクロ、一応神獣らしい」
俺はすでに隣まで来ていたクロを紹介する。
『らしいとは何よ!失礼ね!噛み殺すわよ!』
「クロ様。よろしくお願いいたします」
少しだけ俺に敵意を向けているクロに向かってリザが頭を下げている。
『真司よりよっぽどできた子ね。あんた……バンパイヤなのね。それもかなり高位の』
「はい」
その会話に思わず驚き声が出た。それは真理の方も同じようで戸惑いながら真理とクロを交互に見ていた。
「ちょっと待って……マリア様ってのも気になるけど、リザっていわゆる吸血鬼ってやつだったの?」
「はい。いわゆる吸血鬼、と言うやつですね」
「だからあんなに強かったのね……」
真理の様子ににっこりと微笑んでいるリザ。
「クロ様、あの3体、おそらく国王とその側近、宰相のガリント・サレコウベと王宮騎士アレックスでしょう。どれか1体ぐらいならいけそうでしょうか?」
「えっ?そうなの?」
「ええ。魔力の質を見る限りおそらくは……ですが」
リザと城に浮かぶ三人を交互に見て驚く真理。
『まあ、何とかならないこともないかしら』
「真司様、真司様も1体ぐらいならなんとかなりませんでしょうか?」
なんとも無茶ぶりをする。クロがなんとかと言っている相手に俺が敵うだろうか?
「うーん、相手の力が図りようがないが、やるしかないってことだよな」
「はい。おそらくは……真理様は可能ならホーリーライトが発動してみてもらえますか?あれらを弱体化させることができますので……」
リザは真理の方を向いてそうお願いをしていた。
「あっ、ホーリーライトね。だから解放使うのを今日まで待ったのね!」
真理の声にはニッコリと微笑みうなづくリザ。
「真理様、結界を!」
そんな時、突然リザが叫ぶ。
それに反応するように真理が俺たちを包むように結界を発動する。そしてその結界に赤い何かがぶつかり轟音を響かせていた。
「話は……終わったかな?」
すでにその三人がすぐ近くに立っていた。
「国王、ということで良いんですよね?」
「ああ、リザ、真理を育て良くぞ『解放』を覚えさせてくれた。褒めてやる」
「あなたの、いえ……お前のためにやったことじゃない!」
国王と思われる男に声を荒らげるリザ。その様子に真理が少しびっくりしている。
「しかし忌々しい!挨拶がわりだったとは言え、我の『火球』を完全に防ぐとは……まあ良い。ネルガル、ラマシュト、やれ……」
「はい」
「やっと出番か。しかし、勇者はまだ来ていないんだな……残念だ」
国王だった男、いや前魔王と言うべきか……その命令でゆっくりとこちらに近づいてくる二人。
「真理様、ホーリーライトを……回復したばかりですみませんが、全力でお願いします……」
「わかった!」
そして真理が前魔王たちが居る方へ手を向け、キラキラと輝く光が放たれた。その後ふらつく真理をリザが支え、腰の袋から小瓶を取り出し手渡していた。
「リザ、これって……」
嫌そうな顔をする真理にまたニッコリとほほえむリザ。きっと魔力回復とかのポーションなのだろう。あれも超絶不味いからな。そんな事を考えるほど心に余裕があるのは1人じゃないからなのかもしれない。
「忌々しい!リザ!聖光を覚えさせていたとは!やはり我を裏切っていたのだな!」
「お前の仲間になどなった覚えはない!」
前魔王の言葉に激しく怒号を返すリザ。その肌には血色がなくなり、口元には2本の牙が見えていた。
そしてラマシュトと呼ばれた黒い全身鎧の男?いや女だろうか?そいつがリザに切りかかる。もはや目で追うのが一苦労なスピードだが、リザはその攻撃を拳ではたき落としてゆく。
そんな俺もボーっとはしていられない状況となる。
ネルガルと呼ばれが死神のような男がこちらに手を向け黒い火の玉のような攻撃を繰り出してきたのだ。その攻撃は真理出した結界が防いでいた。真理の方を見ると地面に座り込んでこちらに向かって手をかざしている。
どうやら真理も少しづつだが魔力が回復してきたのだろう。
俺はネルガルに向き直り肩にいたミーヤから棍を受け取った。
「風吹鷹と火喰鷲は離れて牽制、魔狼と氷狼も遠くから攻撃を頼む!」
なるべく巻き込まれないように眷属に指示しながらも俺は駆け出す。ミーヤはいつもの様に肩から飛び降り離れて様子をうかがっている……と思ったら真理の方まで行って挨拶をしているようだ。
少し羨ましさを感じながらも目の前に意識を移す。
「お前もねじ伏せれば、俺の眷属になるのかな!っと」
軽口を叩きながら一気に駆けだし容赦なく頭を狙い振り下ろす。
「お前ごときが何お言う!せめて魔王様より強くならねばな」
俺の攻撃は出現した岩の壁により阻まれた。そして俺の棍により粉砕された岩壁の先にはすでにネルガルはいなかった。
次の瞬間、俺の後ろにひっぱられ無様にも尻餅をつく。その元々立っていた場所には無数の岩棘が降り注いだ。
「す、すまん」
『もっと警戒なさい!』
どうやらクロに助けられたようだ。そして最強装備ジャージの首の後ろ部分を咥えられ真理のところまで下げられる情けない俺。
「もう大丈夫だ!油断はしない」
『とりあえず先代魔王は動かないようだから今度は私も一緒に行くわ!』
「ああ、頼む」
力の差を感じてしまった俺は緊張しながらも再度ネルガルに向かって走り出す。途中また黒い炎が無数に飛ばされるがそれは小さな結界が打ち消していった。俺は真理に感謝しつつ一気に距離を詰めた。
そして再び棍を振るう。振り下ろすころには瞬間移動するように消えたネルガル。クロがあらぬ方に飛びついたと思ったらそこにネルガルが出現する。そしてクロの前足の爪がネルガルに叩きつけられた。
「ぐぅ!」
悲鳴を漏らし後方に下がりながら岩壁を出現させていたネルガル。その場へ眷属たちも追撃の攻撃を放っていた。
逃すものかと俺も必死に近づこうとしたのだが、クロが『待ちなさい!』と声を掛けてきたので後方へと引いた。そして岩壁が崩れるのと同時に無数の岩棘が斜め上を目掛けて放出されて空に消えていった。
「罠かよ……」
『あんたは相変わらず常時魔力感知できないのね……』
「す、すまん」
クロに修行を付けてもらう際には常に魔力の流れを感じるように意識するのを教えてもらっていたのだが……気を抜くと忘れてしまう。
気を取り直して魔力感知にも意識を注ぐと、別方向から大きな魔力を感じてその方も見てしまう。ラマシュトと呼ばれた黒騎士が手に持った剣かどうかも分からないような黒い物体をリザに放っていた。
両手を前にクロスして防御しているリザを見て、ミーヤにアイコンコンタクトする。
しっかりと意思は伝わったようで雷槍を投げ渡される。それを全力で振りかぶりラマシュトに投げつけた。もちろん魔力も込めているので槍先にはバリバリと黄色い火花が散っている。
見事にラマシュトの右肩に被弾したのだが、どうやら傷を付けるまでにはいかないようだった。防御が固すぎるのだが……
それでもその攻撃に気を削がれ攻撃が止まった隙に、リザが大きく振りかぶった拳でラマシュトを吹き飛ばしていた。俺は錐揉みしながら吹き飛んで行くラマシュトの様子を眺めていた。
そこに対しても間髪入れずに眷属たちの攻撃が加えられている。致命傷にはならないとは思うが、体力を削る程度にはなるだろう。数の力は良いものだと改めて思う。
俺も負けじと気持ちを引き締め自分の戦いに専念するよう頭を切り替えた。