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20 開放

Side:真理


「リザ!やった!やったよ!今のレベルアップで『ホーリーライト』覚えた!」

いつものように魔窟でリザに付いて回った私はレベルアップ後のステータスを確認して叫んでいた。


――――――

佐野真理 ジョブ:聖女

力185 硬85 速110 魔505

アクティブスキル 『結界』『回復』『状態異常回復』『解放』『ホーリーライト』

――――――

『ホーリーライト』聖なる光により邪を滅する

――――――


魔力が500を超えた私は遂に念願のホーリーライトを覚えたのだ。これで『解放』を使える。そして首輪が外れたら真司にも会いに行けるんだ!とそう思って泣きそうになった。


そしてリザと一緒に急いで城の自室まで戻ってきた。

部屋に戻るとリザは私を椅子に座らせもう一度スキル『解放』の説明を確認するようにお願いされた。いつも冷静なリザがどことなく落ち着きがないのが少し、いやかなり可愛いと思った。


「解放の説明には『すべての束縛からの解放』って書いてあるよ」

ヒソヒソ話をするように小声でそう伝えると、リザは何やら考えているように表情を変えてゆく。そして暫くしてから私の肩に両手を置いて話し始めた。


「おそらく『解放』を使用することでこの首輪は外すことができると思われます……ですが、王もまたそのスキルを欲しています。慎重に……万全の状態で、明日の朝、魔力も体力も回復させてから使ってみましょう」

その言葉に私はコクリとうなずいた。


「リザ、ありがとう」

私は今までのことを思い出してしまい涙が溢れてくるが、その涙を我慢しようとも思わなかった。リザも同じように目に涙がキラリと光って見えていたから……


その後はゆっくりとした時間を過ごした。

少しリザに甘えてベットに座りくっつきながら、今までのことを思い出しながら話しかけていた。リザはもう普段どおりで冷静に、そして時折笑顔を見せて話を聞いてくれていた。


夜は少し眠れなかったけど体に溜まっていた疲れも取れ、希望を感じた心は落ち着いていた。やっとこの枷から逃れ、自由になれる……かもしれない。何はともあれ明日が楽しみだ。

私は早く朝が来ないかなと願いながら目を閉じた。


◆◇◆◇◆


翌日、朝食を食べた後にいよいよ解放を使う時が来た。


すでに何時でもここを逃げ出せるように身支度はしてあった。

朝食もスタミナがつくようにとお肉中心のがっつりメニューを出してもらったので力が漲っている気がする。少しお腹がきついが心は緩やかだ。


リザは一度部屋のドアから廊下の様子を伺った。

不審者はいないようだ。


「じゃあ、使うね」

「はい……お願いします」

私は……小さな声で『解放』と口にした。祈るように胸の前で握った両手から白い光が漏れる。そして首元からはパキンと小さな音がして……


「やった!外れた!」

首元から外れ床に落ちてゆく首輪を見ながらリザに笑顔を向け喜んだ。そして両手からの光はさらに大きくなって……


全身から魔力が抜かれてゆく感覚に焦る……もう解放されたのだから止まっていいのに、止められない。どんどん魔力な抜き取られる感覚を覚えながらその光が部屋全体に広がっていき……


「真理様!」

意識の外からリザが必死で叫ぶ声が聞こえる。


私が覚えているのはここまでだった。


◆◇◆◇◆


Side:エステマ


昨夜、リザから連絡があった。

朝になったら真理ちゃんが『解放』を使うと聞いてた俺は、いてもたってもいられず早朝から庭で剣を振り続け、全身から玉のような汗が噴き出ていた。


「なんだ!」

そんな俺が王都の方から空がうっすらと白くなると共に、暖かな魔力がふわりと肌を撫でるような感覚を覚え声をあげた。


そして何時でも連絡が取れるようにと腰につけていたリザと繋がる通信具が光る。

俺は慌てて魔道具を操作して呼びかけた。


「エステマだ。どうだった?」

『エステマ様!真理様が……真理様が『解放』を使い、首輪が外れました!外れたんです!』

「そうか!やったか!」

真理ちゃんが無事に首輪を外すことができた。俺は嬉しさが込み上げ拳を握り締めた。


『でも、かなりの魔力を消費したようで真理様はそのまま意識を失ってしまって……とにかく、すぐにそちらへ連れていきます!』

「なんだって!わかった!飛行艇を出しても良いが……リザなら担いで走った方が早いよな」

『はい!すぐに連れていきます!』

「分かった受け入れ準備はできている。あと真司くんには昨日伝えておいたから、もしかしたら迎えに行っちゃうかもな。一応警戒しとけと言っておいたんだが……」

『分かりました!真理様が目を覚まされたら伝えておきます!』

しかしさっきのあの光が『解放』の光なのか?あの光がそうなら大量の魔力が放出されたのだろう。使い勝手の悪いスキルかもしれない。真理ちゃんがダウンするのも納得できる。


ただの魔力切れなら良いのだが……


「こちらでも空が光り暖かな魔力を感じた。あれが解放の力なんだな!それなら魔力切れも当然だろうな!」

『えっ……たしかに部屋が真っ白で何も見えなくなるほどの光を発していましたが……エステマ様のところまで届くほどとは……とにかくすぐに向かいますので!』

そうか、室内で使えば分からないよな。


「とにかく、焦らず何とか真理ちゃんを連れてきてくれ……そして申し訳ないが体力が回復してからもう一度頑張ってもらおう!ポーションは飲ませたんだろ?」

『えっ……あっ!今すぐ飲ませます。とにかく頼みます!』

あのリザがそこまで動揺するとは……まあ仕方ないのかもしれない。そう言う俺もかなり興奮してしまっているからな。


そして俺はゆっくりと屋敷へ入り寝室で寝ているマリアの様子を確認する。

……思わず通信具を落としてしまった。


床に転がる通信具からはリザの『どうしたんですか』『何かあったんですか!』という声が聞こえてくる。だがそれをかまっている余裕は俺には……無い。


寝ているハズのマリアの目が、うっすらと開いていたから……


◆◇◆◇◆


Side:マリア


なんだろう……今日は学校、行く日だっけ?


ぼんやりとしながら記憶をたどる。

ああそうか、私はずっと寝ていたのか……


かろうじて開いている目線の先には、私を助けようと震える手で剣を振り下ろしてくれた勇者様が、泣きながら私の手を握りこちらも見ていた。


「よかった。すまなかった、生きていてくれてありがとう」そんな言葉が聞こえた。お礼を言いたいのは私なのにね。私の最後の希望。隷属の首輪から逃れるための唯一の方法を実行してくれた勇気ある女性。


「なか、ないで……」

喉がかさついて声がでない。蚊の鳴くような声ってこれか。と自分自身の声にそう感じて少し笑いそうになってしまう。そして首に感じる首輪の違和感が無くなったことに気付く。


ああ、私はやっと自由になったんだ……


私は18才の頃、この世界に召喚された。

聖女様として召喚され、その国の王だというおじさんに『聖女として世界を救ってほしい』とお願いされた。迂闊にも首輪を受け取ると自分の手でそれを装着してしまったのだ。


それからは必死に魔法を覚えようと魔力を高めた。

本当に大変だった。でも少しだけワクワクもした。だって魔法だよ?絵本の中の世界だよ?この首輪さえなければ純粋に楽しむこともできたのに……


ああ、そうだ……リザちゃんは元気かな?

知り合いが誰もいない世界で寂しい私に温もりを与えてくれた女の子。まだ幼いのに私を必死に支えてくれた可愛い子。あの子がいたから私は必死になれたんだ。会いたいな。会えるかな?


召喚されてから1年程私は頑張り続けた。

そして自己修復、回復、状態異常回復と言う魔法を覚えた。あっ、この世界ではスキルって言うんだったかな?そしてやっと望みだったはずの『ホーリーライト』ってスキルを覚えてリザちゃんと二人で抱き合って喜んだ。


なのになぜか激怒する王様のおじさん。


そして「役立たずは死ね」って言われちゃって目の前が真っ暗になった。

あんなに頑張ったのになんで?って今でも思う。


だけど『自己修復』のスキルでかろうじて生き長らえることができてたんだよね。多分だけど。それでも体はとても痛くてつらくて……そんな時、リザちゃんが私の手を引いて、城から連れ出してくれた。


小さい体で私を必死に支えながら教会まで連れて行ってくれた。でも神父さんも無理だって言われて泣いちゃうリザちゃんを抱きしめた。「もういいんだよ?」って言って慰めたんだったかな?


なんだか良く思い出せないや。


私、どんだけ寝てたんだろう?

頭がまだぼーっとする。でもあの時の勇者様が今、私を抱きしめてくれているのは分かる。


寝ている間もきっと私を世話してくれてたのだろう。なんだか握っている手が馴染んでいる感じがして心地良いから……だからもう泣かないでほしいよね。何とか左手を動かしてそっと勇者様を抱きしめた。

握られていた私の右手が少しだけ強く握られほっとする。


それからリザちゃんは神父さんに聞いた勇者様の泊っているという宿に、また重い私を支えては頑張って連れて行ってくれたよね。

そしてその勇者様に「無理だ」と言われてまた泣いちゃうリザちゃん。多分その姿に背中を押されたかもしれない勇者様が、私を支えて広いところまで連れていってくれて……


話を聞いたら半分は失敗しちゃうって言われて『怖いな』って思ったけど、これ以上リザちゃんの負担にはなりたくないし、どうせこのままだといずれ死んでしまうから……

一か八かの賭けでもやるしか無かったんだよね。


一度は勇気を出して勇者様に合図を送ったけど、ちょっと怖くなってリザちゃんを呼んじゃったのも覚えている。今までのお礼と共に抱きしめたのは、もう少しだけ幸せな気持ちと勇気を貰いたかったからかな。


そしてリザちゃんに離れて貰ってもう一度勇者様にお願いした。私はその勇者様の震える手を握って「大丈夫。失敗してもあなたのせいじゃない」って言って彼女の背中を押したんだ。


剣を振り降ろされる時にはやっぱり怖くて目をギュっと閉じちゃったけど、バキンと言う音と共に首輪が砕けて目を開けた。そして今まで以上に激しい痛み感じて失敗しちゃったんだなって理解したんだよね。


すぐに意識が朦朧としてなんだかよく分からなくなっちゃって……そして多分だけど長い時間をこうやって寝て過ごしたんだと思う。


私はずっと夢の中にいたんだと思うけど、時折誰かに話しかけたり髪を撫でてくれたことを感じる時があった。

それ以外は長い夢を見ていた。


子供の頃の思い出やこの世界に来た時のことが走馬灯のように何度も何度も繰り返えされる夢……

私はまだぼーっとする意識の中でそんな事を思い出していたけど、相変わらず涙声の勇者様が私に話しかけているのでその声に耳を傾けた。


「もう10年近くたったんだよ?」

すごいね。そんなに寝れるんだね。長い間、ありがとう勇者様。


「リザがやってくれたよ」

リザちゃん!リザちゃんがやったのね!何を?いや多分首輪のことだよね?……早く、早く会いたいな。


「真理ちゃんって子が頑張ってくれたよ」

マリちゃんって誰?真理ちゃん?いやまさかね……私はあり得ない想像をしながらも、これって実はまだ夢じゃないよね?とも思っていた。


だけど手に感じる勇者様の温もりは本物だと感じて、私の心がゆっくりと満たされていった。

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